2016年1月13日水曜日

【エッセイ】墓地散歩のすすめ その4

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2歳の娘が、なかなかおひるねをしてくれない。
そんなとき、ぼくは娘をだっこして墓地へと足を運ぶ。
都会の喧騒とは無縁の墓地の散歩は、幼児にとっても気持ちがよいのだろう。5分も歩いているとすぐに眠りに落ちてくれる。

その日もぼくは娘を抱いて、墓地を歩いていた。
おひるねしたくないとぐずっていた娘もやがて眠けに襲われ、すやすやと寝息をたてはじめた。
そこで異変に気づいた。

あれ。
寝息がもうひとつ聞こえる。

娘のすうすうという愛らしい寝息にかぶさるように、少し離れたところから、ぶおぅぶおぅという規則正しい音が聞こえてくる。

いた。
寝息の発信源は、墓の前で熟睡しているおっちゃんだった。

……墓の前で!?


ぼくの住んでいる地域では、外で寝ているおっちゃんは決して珍しくない。
彼らはホームレスとはちがう。
一応家はあるらしく、服はさほど汚くない(決してきれいでもないが)。ひげも伸びていないし、散髪もしている形跡がある。
昼間だけ公園でチューハイを飲んでいるか寝ているかしているから、きっと夜は家に帰っているのだろう。
そんな半野良のおっちゃんらが多い地域に住んでいるぼくでも、墓場を寝床にしているおっちゃんがいるとは思わなかった。


あまりにも豪快に眠っているので、ひょっとしたら墓に埋めわすれた死体なんじゃないかと思った(土葬かよ)。
しかしまちがいなく寝息は聞こえてくるし、よく見たら新聞紙を布団に、リュックを枕にして万全の体制で寝ている。

死体ではないにせよ、人間ではなく、夜は墓場で運動会をして、昼は寝床でぐうぐうぐう♪のタイプのおっちゃんなのかもしれない。

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