小学3年生のとき。
クラスにMさんという女の子がいた。とびきりかわいくて、快活な子だった。
男子の半分はMさんのことが好きだった。
ぼくもそのひとりだ。
あるとき、Mさんからこう言われた。
「わたし、君のこと、2番目に好きだよ」
1位でないのは残念だったが、喜ばしい気持ちのほうが大きかった。
大人だったら「1位じゃないなら意味がない」と思うかもしれない。でもしょせん小学3年生、1位だったとしてもデートするわじゃないのだ。
「2位じゃだめなんですか!?」という問いを誰が否定できよう。
なにしろ、10人以上の男子が彼女に恋心を抱いていたのだ。その中で2位というのは、モテないぼくからしたら奇跡的な好成績だ。
ぼくは「ひょっとしたら1位浮上ということも十分にありうるぞ」と考え、Mさんへの想いをさらに強固なものにして、あの手この手で彼女の気を惹こうとした。
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人心掌握術について書かれた本を読んでいると、こんな記述を見つけた。
独裁者、軍の司令官、犯罪組織のリーダーらが部下を統治するのに使う方法として「部下たちを順位付けする」というものがある。
部下たちに順位をつけ、さらに順位によって待遇に差をつける。1位は優遇し、最下位には厳しい罰を与えることで、上位を目指すように仕向ける。
さらに順位付けの基準を明確にしないことで、部下たちはトップの顔色だけを窺うようになり、ひとつでも順位を上げようと、上からの指示には絶対に服従し、メンバー間の密告が増えて裏切りも防ぐことができる。特に1位を狙える位置にいる者や、あと少しで最下位に転落しそうなものほどその効果は顕著に表れて、たいへん支配しやすくなるのだとか。
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うわ、Mさんすげえ。
小3にして支配術を使いこなしていたなんて(使いこなしていた証拠に、ぼくは完全に支配されていた)。
魔性の女どころの話ではない。
天地を統べる逸材だ。
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