2021年5月6日木曜日

屁は貨幣経済から完全に自由

「女は結婚相手を経済面で選びすぎ!」
みたいなことを言われるじゃない。批判的に。

 ぼくもそうおもってた。金じゃないだろ。もっとあるだろ。ほら、顔とか、見た目とか、容姿とか、器量とか、ルックスとか(全部いっしょだった)。

 しかし自分が結婚して、どうにかこうにか十年ほど結婚生活を続けて、いややっぱり経済面ってすごく大事だなとおもう。


 といっても、貯金額とか年収いくら以上とかそんな話でもない。どっちかっていうと、金銭感覚かな。
 週末の外食にいくらまで出せるとか、年に一度の旅行だったらどのクラスのホテルに泊まるかとか、どこのスーパーで買い物するかとか、自販機でジュースを買うのはありかなしかとか。

 そういう感覚が夫婦間で大きくずれてたらしんどいだろうなとおもう。夫婦でずれていれば当然嫁姑間でもずれるだろうし。

「釣りあわぬは不縁のもと」という言葉がある。
 身分のちがう男女が結婚してもうまくいかない、という意味だ。
 現代人の感覚からするとすごく差別的で、ぼくは古典落語以外でこの言葉を聞いたことがない。でも、だいたいあっているとおもう。人々の経験則はだいたい正しい。
 金銭感覚のちがう人と長く付き合っていくのはしんどい。深い愛で一時的に乗りこえたとしても、高まった愛を持続するのは難しい。

 結婚生活においていちばん重要なのは「楽なこと」だ。
 お互いに無理をしなくてもつきあっていけること。
「家の中では盛大に屁をこきたい人」と「家の中であっても他人の屁の音を聞かされるのは我慢ならない人」が一緒に暮らすのであれば、どちらかが我慢しなくてはならない。
 まあ屁ぐらいなら我慢できるかもしれないが、金はあらゆることに関わるので(ただし屁以外。屁は貨幣経済から完全に自由だ)、金銭感覚がちがうとあらゆる面で我慢する必要がある。
 ぼくは一円でも安いものを買わないと気が済まない人とは暮らせないし、五百円のランチを「そんな安い味のもの食べられない」と拒絶する人とはたとえその人の年収が一億円であっても暮らせない。


 妻や友人など、長く付き合っている人はだいたい似たような経済感覚を持っている。二十年来の友人が何人もいるが、みんな同じぐらいの裕福さの家庭で育ち、今も同じぐらいの稼ぎで暮らしているとおもう。もちろん「いくら稼いでんの?」なんて聞かないけど、でもまあだいたいの想像はつく。
 逆に、やたらと羽振りがいい人とは自然と疎遠になる。これは単純な収入の話ではない。同じ会社の同年代の社員であっても(つまり給与はだいたい同じ)昼飯にいくらかけるかは人によってちがう。結果、近い感覚の人と親しくなる。
 楽なんだよね。お互いに。ストレスや気遣いを抱えなくて済むので。


 だから「女は経済的な条件で結婚相手を選びすぎる!」というよりむしろ「男が経済状況で選ばなさすぎる!」だとおもう。そこがいちばん気にすべきところでしょ。
「女は経済的な条件で結婚相手を選びすぎる!」というのは、「就職する会社を給与で選ぶな!」「ビールを味で選ぶな!」みたいなことやで。


2021年5月1日土曜日

【読書感想文】冷しゃぶサラダのような漫画 / 和山 やま『カラオケ行こ!』

カラオケ行こ!

和山 やま

内容(e-honより)
毎週火曜と金曜は、フリータイムでカラオケ地獄。合唱部部長の中学生と歌が上手くなりたいヤクザの変な友情物語!描き下ろしも収録!

 上質なコメディ漫画。おもしろかった。

 合唱部の部長である聡実くんは、コンクールの後でヤクザの狂児に拉致される。連れてこられたのはカラオケ店。組長が主催するカラオケコンクールで最下位だと、刺青が好き(だけど絵心がない)な組長に刺青を入れられるという。はじめはおびえていた聡実くんだったが、徐々に狂児への指導に熱が入っていき……。

 というむちゃくちゃな設定。むちゃくちゃなんだけど、最初のぶっとんだ設定以外は地に足がついている。「この立場に置かれたらこうするかもしれないな」という行動を登場人物たちはとる。みんな、ほんとはいないけど、だけどどこかにはいそうな人たちだ。

 笑わせたるでえ! みたいな感じではなく、まじめにおかしなことをやっているのがいい。登場人物みんなまじめだからね。カラオケ大会を主催する暴力団組長も、カラオケ大会に必死になる組員も、中学生に歌を教えてもらおうとする組員も、なんだかんだ言いながらちゃんと教えてる中学生も、みんなふざけてない。でもどこかずれている。

 この漫画を読んだ妻は「『動物のお医者さん』みたい」と言っていが、ぼくは同じ佐々木倫子の『Heaven?』や忘却シリーズ(『食卓の魔術師』『家族の肖像』『代名詞の迷宮』)に似ているとおもった。常識人で主張は強くないが自我のしっかりした主人公と、悪気なく周囲に迷惑をかけるパートナー。
 そうおもうと、聡実くんが将来の伊賀くんなんじゃないかとおもえてきたぞ。



 登場人物がみんななめらかな関西弁を話すので作者も関西出身者かとおもったら沖縄出身なんだそうだ。意外。

 こてこてのヤクザ+こてこての関西弁なのに、なぜか上品な仕上がり。ふしぎな味わい。冷しゃぶサラダみたいな漫画だ。豚肉がこんなにさわやかな料理になるなんて。


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【読書感想文】女子校はインドだ/ 和山 やま『女の園の星』



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2021年4月30日金曜日

【読書感想文】ただただすごい小説 / 伊藤 計劃『虐殺器官』

虐殺器官

伊藤 計劃

内容(e-honより)
9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。

 いやすごい本だった。
 紹介文にある〝ゼロ年代最高のフィクション〟ってのはぜんぜん大げさじゃない。すごい本だった。今まで読んだSFの中でもトップクラス。はじめから最後までずっとおもしろかった。

 まず著者の経歴に圧倒される。
『虐殺器官』で作家デビュー。『SFが読みたい! 2008年版』1位になるなど高い評価を受けるも、2009年3月に34歳の若さで肺癌で死去。その年、遺作の『ハーモニー』で日本SF大賞を受賞。

 嘘みたいな経歴だ。著者の本はすべて死後に出されたもの。尾崎豊みたいな経歴。もっと太く短い。

 そして本を読んでもう一度圧倒される。すごい。天才か。
 伴名練氏の『美亜羽へ贈る拳銃』という短篇は伊藤計劃作品へのトリビュートとして書かれたものだそうだ。あの才能豊かなSF作家が敬意を捧げるなんてどんな人かとおもったら、なるほどこりゃすごい。

 つくづく著者の夭逝が惜しい。もっと長く生きていたら、小松左京氏を超えるSF界の重鎮になっていたんじゃなかろうか。



 舞台は近未来というかパラレルワールドというか。9・11テロをきっかけに紛争が絶えなくなった世界。
 主人公は米軍の暗殺部隊のメンバー。各国の要人を暗殺するプロの暗殺者だ。

 それはつまり、殺す相手の姿と人生とを生々しく想像することに他ならない。相手に愛情を抱けるほどリアルに想像してから、殺す。最悪のサド趣味だ。定番の変態ナチスポルノならばうってつけの題材だろう。そんな悪趣味がなんらトラウマにならないのは、ひとえに戦闘適応感情調整のおかげだ。戦闘前に行われるカウンセリングと脳医学的処置によって、ぼくらは自分の感情や倫理を戦闘用にコンフィグする。そうすることでぼくたちは、任務と自分の倫理を器用に切り離すことができる。オーウェルなら二重思考(ダブルシンク)と呼んだかもしれないそれを、テクノロジーが可能にしてくれたというわけだ。

 任務(つまり暗殺)を果たすためのテクノロジーにまずしびれる。
 衝撃を和らげる人工筋肉、子どもをも殺せるようにするための戦闘適応感情調整、痛みを認識できるが痛さを感じない脳への操作。

 デーヴ=グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』によると、大半の兵士はたとえ戦闘状況でも、たとえ自分や仲間を守るためであっても、敵に向かって発砲することはできないのだそうだ。

 だから、近代における軍隊の訓練というのはほとんど「人を殺したくない気持ちを抑える訓練」なんだそうだ。
 映画『フルメタル・ジャケット』で描かれていたのも、新兵訓練所がどれだけ人間性を奪っているかということだった。

『虐殺器官』は、「人間は他人を殺したくないという良心を持っている」ことがきっちり書かれていて、同時に「状況次第ではかんたんに他人を殺すこともできる」ことも書かれている。その境界はひどく揺るぎやすいもので、誰しもが殺人者になれるということも。



 序盤は単なるSFサスペンス小説かとおもったのだが(だとしても相当ハイレベルだが)、ある暗殺ターゲットに逃げられたあたりから様相が一変する。

 ジョン・ポール。
 いまや、この男は内戦地帯をうろつく奇特な観光客ではないことが判明した。暗殺指令が出た当初から、それを立案し承認した人間たちにはわかっていたことだが、実行するぼくらにそれが教えられることはなかった。
 ぼくらが幾度も殺そうと試みては失敗しているこの男が、世界各地で虐殺を引き起こしているということを。この男が入った国は、どういうわけか混沌状態に転がり落ちる。
 この男が入った国では、どういうわけか無辜の命がものすごい数で奪われる。

 この男がなんとも魅力的(ただ気に入らないのはジョン・ポールという名前が無個性すぎること)。ヒロインよりも、さらには主人公「ぼく」よりもずっと鮮烈な印象を与える。『羊たちの沈黙』のレクター博士のように。

 ジョン・ポールは〝ある方法〟で様々な国で内戦を引き起こさせる。その手段や目的が徐々に明らかになっていく展開はスリリング。しかも説得力がある。おもわずフィクションだということを忘れそうになるぐらい。
 ほんとにこうやったら大量虐殺が起こるんじゃない?
 ほんとにこういう目的で他国に大量虐殺を起こさせようと考える人もいるだろうな。
 そう思わされる説得力がある。

 ぼくは、小説のおもしろさを決めるのは「いかにうまくほらを吹くか」がほとんどだとおもっている。読者をうまく騙してくれる小説がおもしろい小説。
 虚実を織りまぜてもっともらしいことを並べたて、偶然に頼りすぎず、それでいて大胆に嘘をつく小説。ちなみにリアリティは必ずしもなくていいとぼくはおもっている。リアリティがなくてもおもしろい小説はいっぱいある。
『虐殺器官』はほらの吹きかたがすごくうまかった。ぜんぜん現実的じゃないのに、でも「ここじゃないどこかにはこういう世界もありそう」とおもわせてくれる。

 改めて言う。すごい小説だった。
 発想がほどよく壊れていてユニークだし、それでいて説得力があるし、そしてなによりおもしろい。最初から最後までずっとおもしろい。
 SF好きな人すべてにおすすめしたい小説だ。SFファンならとっくに知ってるだろうけど。


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【読書感想文】ザ・SF / 伴名 練『なめらかな世界と、その敵』

【読書感想文】人間も捨てたもんじゃない / デーヴ=グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』



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2021年4月28日水曜日

【読書感想文】奇怪な機械 / 石持 浅海『三階に止まる』

三階に止まる

石持 浅海

内容(e-honより)
あなたの所は大丈夫?ボタンを押していないのに必ず3階で止まるエレベーター。住民が見たものとは?背筋の凍るミステリー短編集。


 一篇目の『宙の鳥籠』の出来がよろしくなかったので「これはハズレだったな……」とおもいながら読んだのだが、どんどん尻上がりになっていって、二篇目以降はほとんどおもしろく読めた。

宙の鳥籠』だけは書き下ろし作品らしいが、これだけ明らかに見劣りしている。

 しかも舞台は密室。登場人物はふたりだけ(その二人の会話の中には他の人物も出てくる)。すでに事件は起こっていて、書かれているのは謎解き部分だけ。
 結果、説明台詞のオンパレードだ。

 「君も知っている通り○○は××をした」「そう、君は△△をしたわけだ」「わかっているとおもうけど□□だよね」
 こんな台詞しゃべるやつおるかい。
 お互いにとってわかりきっていることを、時系列にとって丁寧に説明する。頭おかしいとしかおもえない。
 まあ世の中にはわかりきったことをぐだぐだぐだぐだとしゃべる人もいるが、切れ者という設定の人がこんなしゃべりかたをしたらだめだ。
 設定からして無理があるんだよね……。


転校』は超進学校を舞台にした作品。ミステリというよりSFショートショートのような味わい。これは謎解きよりも設定の異常性に重きが置かれているので悪くなかった。


壁の穴』は「女子更衣室を覗いている最中に殺された」という友人の汚名を返上するため、推理をする学生の話。
 都合のよい「高校生名探偵が殺人事件を解決!」になっていないのがいい。


院長室』は『EDS緊急推理解決院』というアンソロジーに収録されている一篇だそうだ。
 この一篇だけ読むと少々設定がわかりづらい。これだけでも一応わかるけど。
 緊急推理解決院の院長がまぬけすぎるのと、謎解きがすべて推測なのが残念。七瀬氏はもう結論がわかってたのに、なんでわざわざあんなことをしに行ったのか。


ご自由にお使い下さい』は6ページほどの作品。
 これも証拠のない推測がたまたま当たっただけで、推理の切れ味はあまりよろしくない。この長さだったら、ラスト数行で真実が明らかになるぐらいの鋭さがほしいな。


心中少女』は、心中するために廃墟を訪れた少女が死体を発見する……という設定は好きだった。これはどうなるんだろうと期待したんだけど、残念ながら期待を下回ってしまったな。
 でもこのへんでわかってきた。この人は奇をてらったどんでん返しよりも、地に足のついた「ありそう」な展開のほうが好きなんだろうな。そうおもって読むと悪くない。


黒い方程式』は設定がすごくよかった。
 トイレに出たゴキブリに殺虫剤をかけて殺した妻が、夫にドアを閉められてトイレに閉じこめられる。そして夫から告げられる意外な事実……。
 これもオチの意外性は少ないが、フランスの短篇映画みたいでよかった。フランスの短編映画観たことないから勝手なイメージだけど。


 ラスト『三階に止まる』。
 短篇集のタイトルにするだけあってよかった。この作品だけ毛色が違うのだが。

 新しく越してきたマンション。家賃は相場より安いし、住人もいい人ばかり。ただ一点気になるのは、なぜかエレベーターが必ず三階に止まること。一階から七階に行くときも、七階から一階に行くときも、途中で必ず三階に止まる。誰も乗り降りしないのに。どれだけ点検してもエレベーターに異状はない。はてしてエレベーターを三階に止めている原因は何なのか……。

「日常の謎」系ミステリかとおもったがそうではなく、オカルトだった。オカルトはあまり好きではないのだが(怖いとおもえないので)、「エレベーターがなぜか三階に止まる」というのが気に入った。なぜなら、いかにもありそうな現象だから。

 エレベーターって謎の動きをすることが多いよね。止まったのに誰も乗り降りしないこともあるし(押し間違いなんだろうが)、「七階で押したのに八階に止まってるやつより十階に止まってるやつのほうが先に来る」なんてこともある。
 以前読んだ数学の本に、エレベーターは複雑なアルゴリズムで動いていると書いてあったが、複雑すぎてまったく動きが読めない。もはやエレベーターって人知を超えてるんじゃないか

 だからエレベーターって電化製品でありながら怪奇現象と相性がいいよね。機械なのに奇怪。


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【読書感想文】中学生のちょっとエッチなサスペンス / 多島 斗志之『少年たちのおだやかな日々』



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2021年4月27日火曜日

【芸能鑑賞】『ドロステのはてで僕ら』


内容紹介(映画.comより)
「サマータイムマシン・ブルース」などで知られる人気劇団「ヨーロッパ企画」の短編映画「ハウリング」をリブートした劇団初となるオリジナル長編映画。とある雑居ビルの2階。カトウがテレビの中から声がするので画面を見ると、そこには自分の顔が映っていた。画面の中のカトウから「オレは2分後のオレ」と語りかけられるカトウ。どうやらカトウのいる2階の部屋と1階のカフェが、2分の時差でつながっているらしい。「タイムテレビ」 の存在を知った仲間たちは、テレビとテレビを向かい合わせて、もっと先の未来を知ろうと躍起になるが……。

『サマータイムマシン・ブルース』などで知られるヨーロッパ企画の映画。

 70分ほどの映画だが、もしかしてこれ全部1シーン? 細かくチェックしてないけど場面転換が一度もないよね?(調べてみたらさすがに全編1シーンではないらしい。そう見えるけど)。
 映画というより芝居を鑑賞しているような気分になる。
 時間ものという難しいテーマを、場面転換を使用せずに処理しているのがすごい。


 2分後の未来(また2分前の過去)の自分と会話ができる〝タイムテレビ〟を手に入れたカフェのオーナー。カフェの常連客たちはあれこれとテストをして、ついに2分より先の未来を知る方法を発見するが、それがおもわぬピンチを引き起こす……。
 ヨーロッパ企画らしい(っていってもぼくは『サマータイムマシン・ブルース』しか観たことないんだけど)SFコメディ。
 未来を知ることができるのだが「2分だけ」というのが、絶妙に「あまり役に立たない」ライン。じっさいに登場人物は「コンビニのスクラッチくじを当てる」「ガチャガチャで狙っている商品をあてる」といったくだらないことに使う。このあたり、『サマータイムマシン・ブルース』でタイムマシンを「壊れる前のエアコンのリモコンを取りに行く」というくだらない目的のために使っていたのをおもいだす。

 中盤はひたすら〝タイムテレビ〟の使い方実験が続くのでやや退屈だが、「未来の自分の言っていたことが現実にならない」などのアクセントが効果的。
 そしてケチャップ、シンバル、ゼブラダンゴムシといった小道具の登場が実にニクい。まあシンバルは「これは後で何かあるな……」って感じだったけど。

 ストーリーはとにかくよくできていた。終盤で〇〇(ネタバレのため伏字)が出てきてからはちょっと説明くさい感じがしたけど。でもあそこのばかばかしい展開も嫌いじゃない。

 あととにかく撮影がたいへんだっただろうなと感心した。一発勝負だもんな。ちょっとだけカメラワークを失敗しているところがあるが、それはそれで新鮮でおもしろい。

 脚本はすごく緻密でよくできてるんだけど、登場人物のキャラクターはおもしろみにかける。みんな呑み込みが早いしいい大人だから落ち着いてるし。もっとバカなキャラクターがいてもよかったかな。

 とはいえ時間ものSFが好きな人ならまちがいなく楽しめる作品。


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【読書感想文】めずらしく成功した夢のコラボ / 森見 登美彦『四畳半タイムマシンブルース』