読書感想文とエッセイとほら話
毎年恒例、2025年に読んだ本の中からベスト10を選出。
なるべくいろんなジャンルから。
順位はつけずに、読んだ順に紹介。
エッセイ(&対談)。
新聞13紙を購読して読み比べをしている芸人・プチ鹿島氏。すごいのは、趣味で13紙も購読しているということだ(今ではそれが仕事にもなっているが)。そんなプチ鹿島氏が読み比べのおもしろさと説いた本。
昨今、オールドメディアだとか偏向報道だとか批判されがちな新聞。鹿島さんがすごいのは、「偏っているからダメだ!」と切り捨てるのではなく、偏っていることを認識した上で、その偏りを楽しんでいるところだ。政権批判的な朝日・毎日は書いているけど、政府翼賛的な読売・産経は書いていない。ということは、政府にとって都合の悪いニュースなのだ。そんなふうに“偏り”を楽しんでいる。なんとも大人な味わい方だ。それに比べて「オールドメディアだ!」と騒いでいる人がなんと幼稚なことか。
新聞の地位がどんどん低下している今だからこそ読みたい、ネットリテラシーを高めてくれる本。
小説。
クイズの大会で、一文字も問題が読まれないのに早押しボタンを押したプレイヤーが正解を答えて優勝した。なぜ彼は問題を聞かずに正解を導きだすことができたのか。八百長か、問題の漏洩か、それとも……?
ぶっとんだ導入でありながら、「なぜ彼は正解できたのか?」という謎をきわめて論理的に解き明かしていく過程がなんともスリリング。
そして競技クイズの奥深さが伝わってくる。豊富な知識があればクイズが強くなるのかと思っていたけど、ぜんぜんそんなことないんだねー。
ノンフィクション。
鳥類学者である著者が、昆虫の研究者、植物の研究者、カタツムリの研究者、プロの登山家、NHKの撮影班などと探索チームを結成して無人島探索に挑んだ記録。
それぞれ得意分野を持った男たちが集結してミッションにあたる。まるで王道の冒険ストーリーのよう。文章もおもしろいし、書かれている研究内容も興味深い。こういう本が国の研究力を上げるのだ。
様々なデータをもとに、日本に存在する「教育格差」について書いている。ただし著者は教育格差が良いとも悪いとも書いていない。客観的なデータに徹している。
教育問題ってド素人でも一言いいたくなる分野だからこそ(この本にはそんなド素人の意見で大失敗したゆとり教育のことも書いてある)、口を挟む前にまずはこういう本を読んでほしい。
M-1グランプリチャンピオンによる漫才考。
読めば読むほど、高比良くるまさんはすごい漫才師だという感想と、芸人に向いてないんじゃないのという相反する感想が浮かんでくる。
とにかく表現者としての我が感じられない。「おれはこれをおもしろいと思う。だから世間がどう思おうと表現する!」みたいなエゴがまるでない。とにかく世間が求めているものを考えてそれを最善の形で表現したら最強の漫才師になっていました、みたいな人だ。芸事の本というよりマーケティングの本を読んでいるみたいで新鮮だった。
評伝。阪急電鉄、阪急百貨店、宝塚歌劇団、東宝などの創業者である小林一三氏の生涯を書く。
今ある市場で勝負するのではなく、ない市場を生みだすという経営手法はすごい。人口学を元に将来の予測をかなり正確に立てていたからこそできたことだろう。
そして今の経営者とまったく違うのは、「儲けすぎないようにする」という精神を持ちつづけていたこと。税金をかすめとってでも儲けてやろうとしている現代の経営者たちにぜひ読んでもらいたい本。
なんだかわからない。だがすごい! この本を正確に表現する言葉をぼくは持たない。
史実に正確な部分と、とんでもない大嘘が入り混じる。だがどちらのエピソードも魅力的。どこに連れていかれるのかさっぱりわからない(作者もわからずに書いていたらしい)。
「よく理解できないけどおもしろい」という読書体験、幼いときに物語を聞かされたときの感覚に似ている。
人間が作ることができないのが生命と土なのだそうだ。 『風の谷のナウシカ』で「土から離れて生きられないのよ」という台詞があるが、まさにその通り、土が世界のすべてを決めているのだということがよくわかる。
土の複雑さ、偉大さを実感して大地讃頌したくなる一冊。
カラスの研究者が、人間が動物に対して抱く「イメージ」と実態の差異を説明する本。人間から愛されている動物が残酷(と人間には見える)な習性を持っていたり、人間から嫌われがちな動物が意外に優しい(と人間には見える)行動をとっていたり。すべての動物はただ生きて子孫を残すためだけに行動しているのだが、人間はその行動を自分たちと重ねて勝手な意味を見いだしてしまう。
ペットに対してなら勝手に感情を読み取ってもいいんだけど、冷静な判断が求められるときでもついついストーリーを作ってしまう(かわいい動物のほうが絶滅しかかったときに保護されやすい)。温かい眼と冷静な眼のふたつを持つ必要がある。
SFミステリ小説。
「嘘を見やぶることができる」という超能力を身につけた主人公。この能力を使い、クラスメイトたちを死に追いやった犯人を見つけ、犯行を食い止めなくてはならない。能力者は主人公の他に三人いることはわかっているが、それが誰で、どのような能力なのかはわからない……。
実にスリリング。そしてミステリとしてフェア。材料はすべて序盤に提示され、後付けのルールが出てきたりしない。
さらにすごいのは、SFやミステリ要素はあくまで味付けで、青春小説としてもしっかり読みごたえがあること。SFミステリってえてしてパズルっぽくなってしまうんだけど、『教室が、ひとりになるまで』は小説として高い完成度を誇る作品だった。
来年もおもしろい本に出会えますように……。
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