2025年12月22日月曜日

【読書感想文】更科 功『化石の分子生物学 生命進化の謎を解く』 / 研究の道の険しさを突きつける本

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化石の分子生物学

生命進化の謎を解く

更科 功

内容(e-honより)
ネアンデルタール人の謎から、ジュラシック・パークの夢まで、太古のDNAが明かす驚きの生命史。化石がとどめるかすかな“記憶”に耳を澄ませる分子古生物学者たちの夢と冒険の物語―。

  DNA分析を使って古生物の生態について調べる分子古生物学者の取り組みを紹介した本。

 新書ではあるものの、専門用語もばんばん出てくるので、素人にとって決して読みやすい本ではない。たぶんこれでも平易に書いてくれてはいるんだろうけど……。


 カンブリア紀の爆発で、実際に活躍した遺伝子を明らかにする。そう考えた私は、軟体動物をターゲットにした。巻貝や二枚貝などの軟体動物の貝殻は化石としてよく残り、カンブリア紀の爆発で獲得された硬組織の中でも代表的なものだからだ。
 しかし、あまりに古い化石には、DNAやタンパク質は残っていない。どんなに保存のよい化石を見つけたとしても、カンブリア紀の化石にはDNAやタンパク質は残っていないだろう。カンブリア紀の爆発は五億年以上も前の出来事である。恐竜が生きていた時代よりも、ずっと昔なのだ。では、ほかにやり方はないだろうか。
 昔のDNAやタンパク質があれば、それにこしたことはない。しかし、考えてみれば、現在生きている生物のDNAやタンパク質にも、歴史情報は含まれているのだ。
 DNAは、親から子に伝える遺伝情報をもっている。また、個体自身が成長するための発生情報もDNAの中にある。しかし、これらの遺伝情報や発生情報は、かならず過去を引きずっている。なぜなら、これらの情報は、進化の過程で形成されてきたものだからだ。
 ただ、現生生物のDNAが過去を引きずっていると言っても、あまりに昔の情報は、ぼやけているかもしれない。解読するのは難しいかもしれない。しかし、とにかく量が多い。化石の中のDNAやタンパク質に比べたら、現生生物のもっているDNAの量は、文字通り桁違いである。手に入れられるサンプルの数は、比べ物にならない。これを利用しない手はないだろう。

 大昔の生物のことを調べるなら化石を調べるしかないだろう、とおもっていたけど、それは素人の考え。原生生物のDNAを調べることでもう絶滅した生物の遺伝子を突き止める。そんなことができるんだー(どうやってやるかは、正直読んでもよくわからんかった)。




 新書にしてはずいぶん読みにくい本だとおもっていたら、あとがきを読んで著者の意図がわかった。

 科学の営みは、数学のような意味での厳密なものではない。100%正しい結果は得られないのだ。むしろ、大きな川の流れのように、右や左に曲がりくねりながら、ゆったりと真理に接近していくイメージに近いだろう。
 その川の流れの中で、人は過つこともある。良心的な科学者でも誤りはおかすのだ。それらを全部ひっくるめて、科学は人類のすばらしい財産だと私は思う。 私はこの本を、うまくいった結果だけをならべた成功物語にはしたくなかった。そういう本で科学を好きになった人は、科学のつらさやあやうさを知ったときに、科学から離れていくだろうから。

 科学の本というより科学史の本だったんだよね。○○と考えた人がいたけどこの考えは間違いだった、かつては××と思われていたけどその後の研究で誤りだったことがわかった……という「失敗史」に多くのページが割かれている。

 こういう「100回やって99回失敗」こそが研究者のリアルであり、それに耐えられる人しか成功しないんだろう。だから初学者に向けて「かんたんに世間をあっと言わせる研究結果が出るとおもうなよ」という戒めを込めてこの本を書いたんだろうけど……。

 正直、ぼくのように研究の道に進みたいわけではなく、「ただおもしろい研究結果だけ知りたい」という人にとってはあんまりおもしろい本じゃなかったな。


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