ビル=ブライソン (著) 楡井 浩一 (訳)
宇宙はどうやってできたか、地球の大きさはどれぐらいか、地球の年齢は何歳か、原子や素粒子の世界はどんな法則で動いているのか、地震や噴火は予想できるのか、生命はどうやって誕生したのか、人類はどう進化してきたのか。
そして、それらの謎を解き明かすために科学者たちがどのような取り組みを続けてきたのか。
といったことを上下巻二冊に収めている。文庫にしては分量はちょっと多いが、それ以上に内容は重厚。全二十巻の本を読んだぐらいの読みごたえがあった。
それでいて、文章は軽妙かつユーモラスでおもしろい。いやあ、いい本だ。ほんとに中学生ぐらいで読んでいたらもっと勉強を好きになっていたんじゃないかなあ。
最初の宇宙誕生の説明でもう強烈なパンチを喰らう。
一秒で重力が作られる。数分で(サンドウィッチをこしらえるぐらいの時間で)宇宙のあらゆる物質のほとんどが誕生する。
この文章を読むだけでくらくらする。
「宇宙はどうやってできたのか」なんて、もう人間が一生かけても追求しきれないテーマじゃない。
それがこれだけの文章に凝縮されてるんだよ。密度がすごい。ブラックホールか。
ぼくは宇宙にロマンを感じない人間なんだけど、次から次にくりだされるとんでもないスケールの話を読んでいるとただただ圧倒されて、まるで宇宙空間に連れていかれたような気分になる。
読めば読むほど、地球ができて、生物が誕生して、哺乳類が生まれて、そこからヒトへと進化して、絶滅せずに生き残って、こうして文明を築いているのってほんとに奇跡の連続なのだとしみじみおもう。
生まれてきたことに感謝、生きているだけですばらしいとクサいことを言いたくなる。
地球が生物の棲める環境になったのはすごい確率の偶然が重なった結果だけど、しかし宇宙はそんな奇跡が十分起こりうるぐらい広大なのだ。
銀河には1000億から4000億ぐらいの星があり、そんな銀河が他にも1400億ぐらいあるそうなのだ。うへー。
ってことで、理論上は宇宙のどこかには地球の他にも生物が誕生する星はちょこちょこあるみたい。
とはいえ光に近い速さで移動したとしても寿命がつきる前にたどりつける距離にはまずいない。
ということで「宇宙人がいるか?」という問いに対する答えは、「たぶんいるけど地球人が遭遇する可能性はほぼない」だ。ロマンはあるけど会えなかったらいても意味ないよなー。
かなり平易な文章で書かれているので「科学系の本を読むのが好き」レベルのぼくでもわかりやすかったのだが、量子力学のくだりだけはまったく理解不能だった。
いや書いてあることはわかるんだけど。でもまったく納得ができない。
電子は規律ある法則に基づいて動いているのに、その場所を予測できないというのだ。それは現時点での観測技術や理論が未成熟だからというわけではなく、もう絶対に不可能。
ん? そんなことってあるか? 法則がわかれば電子がどこにあるかは理論上特定できるはずじゃないの? と素人はおもうんだけど。
物理学者のファインマンは「小さな世界の物質は、大きな世界の物質とはまるで異なる動きをする」との言葉を残したらしい。
微小な世界のための量子論と広大な宇宙のための相対性理論はまったく別個の体系で動いている。相対性理論は素粒子のレベルにはまったく影響を及ぼさない。だと。
なんで? 「家庭の決まりと国家の法律は完全に独立していて、国家の法律は家庭の決まりに一切影響を及ぼさない」だったら明らかにおかしいじゃん。家庭のルールが法律にまったく影響を受けないわけないじゃない。内包されてるんだから。
……とおもっちゃうぐらいに素人なので、ここは何遍読んでも納得できない。
いやほんとどこをとってもおもしろい。
宇宙も原子も地球の構造も生物の進化も細胞も全部おもしろい。
こんなことがさらっと書いてあるけど、夢が膨らむよね。
サイの大きさのモルモット、クマみたいにでかくて凶暴なアライグマ、360kgの身体で相手を食いちぎる巨長……。
ほとんどSFの世界だ。人間が想像するような生物はだいたい過去に存在したんじゃないかと思わされる。
「5つの眼がある生物」なんてのもいたらしい。こんなのも空想の範疇をを超えてるよね。ぼくらが空想できるのはせいぜい三つ目とか偶数個の眼を持つ生物ぐらいだもんね。なんで半端な5個なんだよ。
随所に散りばめられている科学者たちの逸話も楽しい。
金星の太陽面通過を観測するためにフランスからインドに行ったらいろんな不運に恵まれて帰るまでに11年半(しかも悪天候のため観測できず)、帰ったら財産がなくなっていた……。
ひー。なんてかわいそうな人なんだ。この人の生涯だけで一冊の本になる。
トレヴァー・ノートン『世にも奇妙な人体実験の歴史』を思いだした。いつの世にも、科学のために命も生活も家族も名誉も財産も犠牲にする人たちがいるんだなあ。
彼らをばかだと嗤うのはかんたんだけど、彼らの献身がなければ科学の発展はなかったのだ。
長くなりすぎたのでこのへんにしとくけど、
「カンブリア爆発で生物が爆発的に誕生したわけではない(カンブリア紀に化石化しやすい体になっただけ)」
とか
「カメが地球上で覇権をとりそうになった」
とか、紹介したいことはいっぱいある。
でも書ききれないからこの本を読んでとしか言いようがない。
こんな重厚な本が文庫で1,700円ぐらいで買えるなんて! 全科学をぎゅっとまとめた本だからね。森羅万象が1,700円。安すぎる。
最後まで読んだ後に『人類が知っていることすべての短い歴史』というタイトルを改めて見ると、つくづく我々は自分たちの棲むこの世界のことをわかっているようでぜんぜんわかっていないんだなあと感じ入る。
その他の読書感想文は
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