ひみつのしつもん
岸本 佐知子
何度も書いてるけど、ぼくがいちばん好きなエッセイストが岸本佐知子さん(本業は翻訳家だけど)。
とはいえはたしてこれはエッセイなのか……?
元々嘘成分のほうが多いエッセイを書く人だったけど、最近その傾向がよりいっそう強くなり、この本に収録されている話など妄想のほうが多いぐらい。どこまでが真実でどこまでが嘘かわからないのが魅力なんだけど、とはいえさすがに嘘がすぎないか。
もう短篇集といったほうがいいかもしれない。
ぼくが特に気に入ったのは、
粗末な部屋にあこがれるあまりマーラーの作曲小屋をのっとる『大地の歌』
劇場で目にしたボブとサムがいつのまにか脳内に居すわってしまう『カブキ』
物干し竿が壊れて中からドロドロの液体が流れるのを目にしたとたんに自我の分裂がはじまる『洗濯日和』
……そうだね、意味わかんないね。
でも説明しようがないんだよね。岸本さんの摩訶不思議なエッセイって。
読んでくれというしかない。
すごいなあ。こんなキレのある文章書きたいなあ。思いつくままに書きなぐってるようで綿密に構築してるんだろうなあ。
本業の翻訳をしながら、ようやるわ。
これは『河童』の書き出しだが、この導入の鮮やかさよ。
「気づいてしまう」って書いてるけど完全に妄想だからね。
ふつうはこんなこと考えないし、考えても一秒で海馬から抹消してしまう。
ここから、ソムリエの正体が河童の魔導士だ、と話が展開していくのだが、うん、そうだね、意味わかんないね。
でもそのとおりなのだから他に説明しようがない。
読んでくれというしかない。
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