2020年1月6日月曜日

ノーヒットノーランの思い出

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今から15年前のこと。
当時つきあっていた彼女(今の妻)と甲子園球場に行った。

ぼくは高校野球が好きで、毎年甲子園球場に足を運んでいた。
彼女のほうはテレビ観戦すらしたことがないぐらい野球に無関心。「一回ぐらい球場の雰囲気を知っておきたい」というので一緒に行くことになった。

2004年3月26日のことだ。
ぼくらは外野席に座り、東北ー熊本工の試合を観戦した。
特にこの試合を選んだ理由はない。二人の予定があったから。それだけ。
東北にはダルビッシュ有投手がいた。当時から注目されていたので、東北側スタンドは客が多いだろうとおもい、あえて逆の熊本工側のスタンドに座った。

熱心な高校野球ファンならピンときたかもしれない。
そう、ダルビッシュ投手が熊本工相手にノーヒットノーランを成し遂げた試合だ。

五回ぐらいからスタンド全体が「おいおいまだノーヒットだぞ」という雰囲気になり、七回、八回になると「まさか……」と観客席全体が浮足立ち、九回には全員が固唾を飲んで見守っていた。
もちろんぼくも大興奮。
「まさかノーヒットノーランを目の前で観れるなんて……!」と色めきたっていたのだが、ふと傍らの彼女に目をやると、なんともつまらなそうな顔でグランドを眺めている。

「このままいくとノーヒットノーランっていう大記録になるんだよ! 十年に一度ぐらいしか達成できないすごい記録! 1998年には横浜高校の松坂大輔が決勝で……」
とぼくは熱く語ったのだが、彼女は「ふーん。すごいねー」と気のない返事。

そこでぼくは気づいた。
そうか、ノーヒットノーランのゲームは野球に興味のない人にとってはすごくつまらないゲームなのだ。

ぜんぜん得点が入らない。ほとんどランナーも出ないから盛りあがりどころもない。おまけに熊本工側のスタンドに座っているからすぐ隣のアルプススタンドはお通夜のような状態。
野球ファンにとってはたまらないノーヒットノーランも、ルールもよくわかっていない人にとってはほとんど動きのない退屈な試合。
シーソーゲームの末に8対7でサヨナラ、みたいな展開であればルールがよくわからなくても楽しいのだろうが。

とうとうダルビッシュ投手はセンバツ大会史上12人目となるノーヒットノーランを達成。
感動に打ち震えるぼくと、つまらなそうにあくびをする彼女。その大きな温度差によって巨大な上昇気流が発生した……。



東北ー熊本工の試合だけ観て帰り、その後も彼女と球場に行ったことはない。
退屈なゲームに懲りたのか、二度と野球場に行きたいということはなかった。

ということでぼくの妻は、「ノーヒットノーランゲームしか野球の試合を観たことがない」というめずらしい人間だ。

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