2019年6月5日水曜日

【読書感想文】褒めるのがはばかられるおもしろ小説 / 池上 永一『シャングリ・ラ』

このエントリーをはてなブックマークに追加

シャングリ・ラ

池上 永一

内容(e-honより)
加速する地球温暖化を阻止するため、都市を超高層建造物アトラスへ移して地上を森林化する東京。しかし、そこに生まれたのは理想郷ではなかった!CO2を削減するために、世界は炭素経済へ移行。炭素を吸収削減することで利益を生み出すようになった。一方で、森林化により東京は難民が続出。政府に対する不満が噴き出していた。少年院から戻った反政府ゲリラの総統・北条國子は、格差社会の打破のために立ち上がった。

大きな声では言えないけどおもしろかった。
スケールがすごい。
炭素の排出量を基準にした経済が世界の中心となり、実質炭素と経済炭素という概念が生まれる。
東京は地面を捨ててアトラスという巨大な人工台地をつくり、アトラスに暮らす特権的な人間と地面に生きるゲリラとに分かれる。
よくこんな設定おもいついたなと感心するばかり。

じゃあなぜ「大きな声では言えないけど」なのかというと、あまりにばかばかしい小説だからだ。
「ブーメランで敵をなぎ倒すゲリラの総統」「世界の炭素市場を荒らすシステムを開発した天才少女」「嘘をついた人間を殺す能力者」「外観を自由に変えることのできる装甲を持った軍隊」「人工地盤建設のための人柱」「炭素が生みだす新素材」「遺伝子操作によって種を飛ばして攻撃してくるようになった植物」など、設定が良くも悪くもマンガ的なのだ。
昨日の敵は今日の友、なストーリーも少年マンガっぽい。終盤の『ムー』感満載な展開も、中学生にウケそうな感じだ。
いい大人が読むもんじゃないなって感じの小説だ。いいおっさんが読んでおもしろかったんだけど。

それに登場人物がみんな超人すぎる。
なんなのこれ。脇役はばったばったと死んでゆくのに、主要な人物は何回殺されても死なない。肉体が滅びたのに甦るやつまでいる。ひでえ。
世界一速く走れて世界一バイオリンがうまくて世界一歌がうまくて世界一バレエがうまくて東大医学部を卒業して超絶美しい上に超強くてハーレーに乗って戦い、何度殺されても死なないお嬢様とか、このキャラ設定なんなの。
めちゃくちゃだ。

あとオカマで笑いをとろうとするのがすごく痛々しい。
安易にステレオタイプなオカマを出せばおもしろいんでしょ、という感覚は残念ながら今の時代にはあわなくなってしまった。すごく古くさく感じてしまう。
それが通用したのは平成中期までだね。

登場人物もストーリーもむちゃくちゃだけど、おもしろかった。

リアリティもへったくれもない小説なので、品性を疑われそうで手放しに褒めるのはなんだか気恥ずかしい。

これはあれだな、小説で読むもんじゃないな。漫画とかアニメ向きだな(じっさい漫画化もアニメ化もされたらしい)。



空中都市アトラス、炭素経済といった奇抜な概念もおもしろかった。
難民をほっといて、目先のイメージアップのためにオリンピック開催する政府とか。ぜんぜん非現実的じゃないか。

戦争を合法化するってアイデアもおもしろい。
 核と同じく環境を汚染する化学兵器は國子たちの生まれるずっと前に根絶したはずだった。今や戦争も国際法に則って行わなければ、厳しいペナルティが課せられる。国際社会は戦争を人間活動のひとつとして受け入れる代わりに、大量破壊兵器の所有を完全に放棄させた。戦争法は相手の降伏を待たずして勝敗が決まる。戦力の三分の一か、国民の八バーセントが失われたとき、無条件降伏をしたものとみなされる。この戦争法の導入によって、奇しくも戦争は長期化することがなくなった。それはゲリラ戦にも適用される。千人の兵隊のうち三百三十四人が死亡すると、國子たちは戦争に負けたとみなされる。これを無視して戦闘を継続すると、国連が黙ってはいない。革命政府を樹立しても無効とされ、正当性を剥奪されてしまう。國子は出撃するとき、国連のサイトに戦争法に則って闘うことにサインした。相手国には非公開だが、国連のコンピュータはこの戦争をモニターしている。戦争は監視され制御を受けることで合法的な活動となった。ただし勝敗は国連が裁定する。國子たちが最後のひとりまで闘って勝利したとしても無効だ。それがわかっているから、迂闊にガスの中に兵を送り出せないのだ。

なるほどねえ。泥沼化を防げて、案外人道的かもね。
ただし「戦力の三分の一か、国民の八バーセントが失われたとき、無条件降伏をしたものとみなされる」このルールだと、奇襲をかけて無警戒の市民八パーセントを一気に殺してしまうのがいちばん賢い戦略になってしまうので、そのへんは改良の余地ありだな。


【関連記事】

表現活動とかけてぬか漬けととく/【読書感想エッセイ】村上 龍 『五分後の世界』

【読書感想】安易に登場させられるオカマ / 吉田篤弘 『電球交換士の憂鬱』



 その他の読書感想文はこちら


このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿