夜中にのどの渇きをおぼえて目が覚めた。お茶を飲んでもう一度布団に入ったとき、気がついた。
「あっ、もしかして!?」
突然として、点と点がつながって線になった。
今にしておもう。
もしかして、好かれていたのか?
Tちゃんという女ともだちがいた。
大学生のとき、仲良くしていた友人だ。
お酒を飲んだり、いっしょにライブに行ったり。何度も遊んだ。
Tちゃんは酒癖が悪かったので、何度も介抱した。酔いつぶれたTちゃんをおぶってぼくの家まで連れてかえり、泊めてやったこともある(二人きりではない)。
逆にぼくがTちゃんの家で酒を飲んで酔いつぶれてしまったこともある。
Tちゃんは愛嬌のある子だったが決して美人ではなかった。
開けっぴろげの性格で、自分は処女だと公言していた。
少しも気取ったところがなく、話していると男ともだちといっしょにいるようでとても気安くつきあえる友人だった。
よく遊んでいたが、ぼくに彼女ができ、その後少ししてTちゃんも結婚した。
今では疎遠になっている。
そのTちゃんのことをふと思いだして
「あれ、もしかしてTちゃんはぼくのことを好きだったのか?」
と唐突におもったのだ。
バイトで忙しいはずなのに飲み会に誘うとほぼ必ず来てくれたこと。
酔っぱらうときまってぼくの腕にしがみついてきたこと。
家に遊びにきたとき、ぼくの母親と話すときに異常に緊張していたこと。
ぼくの恋愛相談に乗ってくれたあと、「どうせ犬犬は〇〇ちゃんのことが好きやもんな……」とつぶやいていたこと。
バレンタインデーにチョコレートをくれたTちゃんにふざけて「Tちゃんはオレのこと好きやもんなあ」と云ったら黙ってしまったこと。
彼女ができたと言ったら「寂しいけどしかたないことだとおもいます」と妙にかしこまったメールがきたこと。
それ以降、あまり誘いに乗ってくれなくなったこと。
当時はなんともおもわなかったことが、十数年たった今いっぺんに思いだされて、
「あっ、Tちゃんはぼくのことを好きだったのかも!」
とおもったのだ。
自慢じゃないが、ぼくは女性から好意を寄せられたことはほとんどない。
だからいろんなサインを見落としていたのかもしれない。
一度そうおもうと、あれもこれも、好かれていたという仮説を裏付ける根拠のようにおもえてくる。
逆に「なんで当時はTちゃんの好意に気づけなかったんだ?」とふしぎだ。
(Tちゃんに確認をとったわけではないのでまちがってるかもしれないけど)
漫画でよくあるシーン。
主人公のことを好きなヒロインが、おもわせぶりなことをいう。
「あたしじゃダメ……?」みたいな台詞。
それもう98%告白じゃん、みたいなこと。
なのに主人公は気づかない。
「おまえは大事な仲間のひとりだよ」
みたいなことを言ってしまう。
ヒロインは「もう、ほんとにニブいんだから!」なんていってふくれてしまう。
それでも主人公は「え? なにが?」と気づかない。
こういう展開を見るたび、ぼくはおもっていた。
嘘つけ―!
こんなかわいい子にあからさまに好意を寄せられて、気づかないわけないだろー!
なにすっとぼけてんだよ、ビンビンになってくるくせに!
と。
でも、案外ありうる話かもしれない。
自分が好意を寄せていない人からの好意は、ぜんぜん気がつかないものなのかもしれない。
好きな子に対しては、常に「もしかして自分のこと好きなんじゃ……」と考えながら生きている。
どんな些細な兆候も見逃すまいと注意を欠かさない。
こちらを見て笑った、たまたますれちがった、言葉を交わした、たったそれだけのことで「自分を好きだからにちがいない」とおもいこんでしまう。
すべてが「自分を好きにちがいない」という仮説を裏付ける傍証となる(まちがった推理なんだけど)。
でも、それ以外の人にはてんで関心を払わない。
『おしりたんてい』レベルのわかりやすすぎる手がかりですら見逃してしまう。マルチーズ署長のように。
ぼくは妻と付き合うとき、交際を申しこんだが「そういうふうに見られない」という理由でフラれた。
でも数ヶ月後に改めて申しいれたときにはオッケーをもらえた。
たぶん、一度好意を伝えたことで「恋愛対象」として見てもらえるようになったのだとおもう。
ぼく自身、高校時代に「〇〇ちゃん、おまえのこと好きみたいだよ」という不確かな情報を耳にして、それまでなんともおもっていなかった〇〇ちゃんをまんまと好きになってしまったことがある(結局うまくいかなかった)。
「好かれている」とおもうことは、恋愛の入口として大きなステップになる。
三十歳をすぎて、
「ちゃんと言語化しないとまず好意は伝わらない」
「好意を伝えてからが、好きになってもらえるかどうかの審査のはじまり」
ということにようやく気づいた。
たぶんモテる人はとっくに気づいてたことなんだろうけど。
ぼくはもう結婚して(今のところは)離婚・再婚の予定もないので今さら気づいたところでどうしようもないのだが、未来ある若者の役に立ってくれればというおもいで書き記す。
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