わたしはアイドルですが、警察署長になったからにはその責務を十分に果たしたいと考えています。
たとえ一日警察署長だからといってイベントに参加して愛想を振りまくだけでお茶を濁すつもりは毛頭ありません。
この警察署を県内一、いや日本一の警察署へと大改革をする所存であります。
もちろん容易なことではないのは承知しております。
なにより、わたしには明日になれば任期が切れるという時間的制約があります。
ですが時間を言い訳にするつもりはありません。
「今は時間がないから練習ができない」そう言って歌やダンスの稽古から逃げる人たちをわたしはたくさん見てきました。彼女たちはみんなアイドルの道を諦めていきました。
トップアイドルになるために必要なものはなんでしょうか。持って生まれた容姿、音感、魅力あるキャラクター。そういったものもたしかに必要です。ですがそれらは努力で補えるものです。
トップアイドルになるために欠かせないものは、決して諦めずに努力を続けることだとわたしは考えます。
自分でいうのもなんですが、わたしには才能があります。それは歌やダンスの才能ではなく、ましてや見た目でもありません。わたしが持っている才能は、言い訳をせずに努力を続けることができるという能力です。
ですから警察署長として、その才能を活かし、より良い警察署にするための努力を惜しまないつもりです。
まず、署員のみなさんには、前任者のやりかたは捨ててもらいます。
わたしはこの一日警察署長の依頼をいただいてから、過去十年分の公表している資料にあたり、重大犯罪検挙率、軽犯罪の発生率、交通事故発生率、そういったものの推移を確認いたしました。
全国平均と比較して、この署の数字はいずれも悪化しております。
ええ。みなさんの言いたいことはわかっています。
港湾部の再開発がおこなわれたことによって住民の流入が増え、それに伴って治安が悪化したといいたいのでしょう。そういった背景が治安に与える影響についてはわたしも重々承知しております。
ですが、あえて厳しいことをいいますがそれは言い訳です。
外部要因を見つけだして「我々のせいじゃないからどうしようもない」ということはかんたんです。ですが、それでは何も解決しません。
じっさい、これは他県の事例になりますが、同じように港湾部の再開発をしたT市の犯罪発生率はここ五年で低下しています。警察署と行政の連携による防犯キャンペーンが実を結んだ事例です。
同じような背景を持ちながら数字を向上させている事例がある以上、わが署管轄内の数字悪化は警察署に原因があると見られてもいっていいでしょう。
わたしはなにもみなさんに限度以上の努力を強いているわけではありません。
先ほど努力の重要性を説きましたが、それは自らに課すことであって、他人に強いることではありません。
ただやみくみに「努力しろ!」「がんばれ!」と叫ぶ人間は管理職失格です。管理職の仕事は、努力したくなるような仕組み、努力しなくても結果が出るような仕組みを整備することです。
これまで思うような成果が出なかったということは、方向性が誤っていたということ。それはつまりトップである警察署長の責任です。
これを修正するのが一日警察署長であるわたしの役割です。
そこでわたしが手はじめにおこないたいのは、警察署によるPRイベントの廃止です。
具体的にいうならば、今ここでやっているイベントです。「警察ふれあいさんさん祭り」でしたっけ? わたしに言わせれば、こんなイベントくそくらえです。
警察官に求められるのは市民に迎合することではない! 市民を守ることです!
市民に「警察は何をやっているのかわからない」と思われるぐらいがちょうどいいのです。平和で安全な暮らしをしている人は警察の存在を意識しませんからね。
わかりましたか?
わかりましたね?
では、解散!
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