殺人鬼にまつわる備忘録
小林 泰三
「記憶が数十分しかもたない主人公」と「他人の記憶を書き換えることができる悪役」の対決を描いたミステリ。
んー、最後まであんまりわくわくしなかった。
「記憶が数十分しかもたない」はともかく「他人の記憶を書き換えることができる」はもうなんでもありだからなー。無敵すぎて。
その無敵の能力者にとっては「記憶が数十分しかもたない」人物だけは相性が悪い、というのがこの話の妙らしいんだろうけど、いやいやそんなに相性悪くないし。記憶を書き換えられるほうが圧倒的に強い。
そのへんの「強すぎる設定」がじゃまをして、とうとう最後まで入りこめなかった。
「記憶を書き換えられる上に人を殺すことをなんとも思わない人物」と対峙するなら、やることはふたつしかないじゃない。
「とにかく逃げる」か「記憶を書き換えられる前に暴力で制する」か。
なのに主人公は頭脳戦で戦おうとする。記憶が数時間しかもたないくせに。ばかすぎる。
それから設定上しょうがないんだけど、主人公の記憶がもたないので、何度も同じことをくりかえす。同じことばかり書いている。
これがまだるっこしくてしょうがない。ここをもっとうまく処理してほしかったな。
あとひどかったのが「衝撃のラスト」ね。
〇〇と思っていたのが実は××だった、ってことが最後に明らかになるんだけど、××がはじめのほうにちょろっと出てきただけなので「誰だこいつ?」ってなる。
読みかえせば「あーこんなやついたっけ」とわかるんだけど、しかし××がまったくストーリーにからんでいないから「で、それがどうしたの?」って思うだけ。
今までに「衝撃のラスト」の小説をいくつも読んできたけど、その中でもダントツでゴミみたいな「衝撃のラスト」だったな。
この作者のデビュー作『玩具修理者』は丁寧な構成のいいホラーだったんだけどな。
『殺人鬼にまつわる備忘録』はダメダメミステリだった。
ぼくは後味が悪い小説は好きだけど、「よくできていて後味が悪い」小説が好きなんだよね。これはただただ不愉快なだけ!
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