2018年12月25日火曜日

【映画感想】『シュガー・ラッシュ:オンライン』

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『シュガー・ラッシュ:オンライン』

内容(Disney Movieより)
 好奇心旺盛でワクワクすることが大好きな天才レーサーのヴァネロペと、ゲームの悪役だけど心優しいラルフ。大親友のふたりは、アーケード・ゲームの世界に暮らすキャラクター。
そんなふたりが、レースゲーム<シュガー・ラッシュ>の危機を救うため、インターネットの世界に飛び込んだ!そこは、何でもありで何でも叶う夢のような世界――。しかし、思いもよらない危険も潜んでいて、ふたりの冒険と友情は最大の危機に!? 
果たして<シュガー・ラッシュ>と彼らを待ち受ける驚くべき運命とは…。

(『シュガー・ラッシュ:オンライン』のネタバレを含みます)

劇場にて、五歳の娘といっしょに鑑賞。

うーん、おもしろかったかと訊かれたらまあおもしろかったんだけど、ぼくは好きじゃないな。
というかディズニーがこんなの作っちゃだめでしょと言いたくなる作品だった。

世俗的すぎるというか。いや、率直に言おう。低俗だ。
ゲームの世界を舞台にした前作『シュガーラッシュ』でも、「ん? これは子ども向けなのか?」と首をかしげてしまうシーンが多かったけど、今作はインターネットの世界が舞台ということでもっとひどい。

ポップアップ広告が出てきてクリックしするとあっという間にべつのWebサイトに連れていかれるとか、検索エンジンに単語(「バレエ」とか)を打ちこむとものすごい勢いで検索候補(「バレエ教室」「バレエシューズ」「バレエダンサー」とか)を出されるとか、「インターネットあるある」がそこかしこにちりばめられているんだけど、ぼくには理解できるけど五歳の娘はさっぱり理解できていなかった(パソコンやスマホをさわらせないようにしているので)。

あげくにラルフが動画投稿サイト「BuzzTube」に動画を投稿して金を稼いだり炎上したりするという展開は、あまりにも時代性が強すぎてたしなみがない。
いやディズニーにそういうの求めてないから。何年たっても変わらないおもしろさを期待してるから。

さらに、予告篇でも話題になったプリンセス大集合のシーン。
白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫、ポカホンタス、ムーラン、ジャスミン、アナ、エルサ、ラプンツェル、モアナ、メリダといったディズニーの歴代プリンセスが一堂に会してくっちゃべっている。
うちの娘はこれを観るために映画館に行ったようなものだ(プリンセスだけでなく、バズ・ライトイヤーやベイマックス、ニック・ワイルドといったキャラクターも出演している)。
ぼくも歴代プリンセス勢ぞろいに、「おおっ、豪華キャスト!」とテンションが上がった。
だが、その内容には失望した。

プリンセスたちが愚痴をこぼしたり、「プリンセスが夢を語るときはスポットライトが当たって歌いはじめるのよ」なんて台詞を当のプリンセスに言わせたり、メリダが話した後に他のキャラクターに「彼女だけべつのスタジオの制作だから」と言わせたり(『メリダとおそろしの森』はピクサースタジオ制作)。
とにかくセルフパロディや内輪ネタがひどい。
一時的なウケを狙いにいくあまり長い時間をかけて築いたブランドを棄損していることに気づいてんのかな(ちなみに劇場でもぜんぜんウケてなかった)。
もう一回言うけど、ディズニーにそういうの求めてないから

無関係の人が「ディズニーランドのキャラクターの中の人が……」と言う分にはおもしろくても、当のキャラクター自身が着ぐるみ脱いで「ほら着ぐるみでしたー!」ってやってもぜんぜんおもしろくない。
こっちはわかってて騙されてんのに、ディズニー自身がその夢を壊したらダメ。

ぼくは「宝くじなんて買えば買うほど損するだけだよ」という意見だけど、宝くじ売り場のおばちゃんがそれを口にしてはいけない。
それを言っちゃあおしめえよ、というやつだ。



何もディズニーに変わるなといっているわけではない。
逆説的だけど、ずっと同じように愛されるためには、ずっと同じでいてはいけない。
だが変わるということは、それまで築いてきたものを破壊することではない。古きを残しつつもその上に新しさを構築することだ。

『アナと雪の女王』があれだけヒットしたのは、「女性はすてきな男性に愛されることが幸せ」という古い価値観から脱却したことが大きな要因だろう。
だがアナやエルサという存在は、オーロラ姫やアリエルのような「王子様に守られるかよわいプリンセス」を否定しているわけではない。新しい価値観を提示しただけだ。
だからこそ、旧来のディズニーファンにも受けいれられたし、新たなファンを獲得することにもつながった。

『シュガーラッシュ・オンライン』も新しい価値観の提示に挑戦していた。
パーカーを着たプリンセスがいてもいい、危険なダウンタウンで命を賭けたカーレースに興じるプリンセスがいてもいい。
その試み自体はすごくよかった、だがヴァネロペというキャラクターの夢と対比させるために、歴代プリンセスを茶化す必要はなかった。
「女性がもっと働きやすい社会にしよう!」というメッセージ自体は大賛成だ。だが、専業主婦という存在まで否定すべきではない。



『シュガーラッシュ・オンライン』はおもしろかった。特にラストのプリンセスたちがそれぞれの強みを生かしてラルフを助けるシーンなんて最高だ。ディズニーファンなら昂奮することまちがいない。

だが、同時にディズニー史に残る失敗作でもある。
ディズニーにとってはこの映画によって得たものより失ったもののほうが大きかったんじゃないだろうか。長期的に考えれば特に。

一言でいうなら「悪ふざけが過ぎる」映画だった。ディズニーがまた迷走期に入らなきゃいいけど。


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