2017年11月15日水曜日

ヴァカンス・イン・桂林

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今までいちばん贅沢な時間を過ごしたのはいつだろうと考えてみると、十数年前に中国・桂林で過ごした日々に思いあたる。

学生の貧乏旅行で友人ふたりと中国をまわり、中国南部の桂林という田舎町に数日滞在して、鉄道でベトナムに渡る予定だった。
ところがハプニングがありチケットが取れず、最終的に旅行会社と喧嘩をして「だったらいらんわ!」と日本語で啖呵を切って、ビザが切れるギリギリまで桂林に滞在することになった。今だったらスマホでささっと検索をして新しい目的地を見つけるんだろうけど、そこまでインターネットが身近でもなかった時分のこと、また中国各地を転々とする生活に疲れていたこともあり、そのまま桂林に二週間滞在することにした。

当時の北京の物価が日本の十分の一ぐらいだったが、桂林はもっと安く、三元(五十円くらい)出せば腹いっぱい飯を食えた記憶がある。外国人向けのわりと上等なホテルに泊まっていたが、それでも一泊千円くらいではなかったか。だから学生でも悠々とホテル住まいができたのだ。日本でひとり暮らしで自炊生活をするよりも中国でホテル住まい&外食のほうが安くつくぐらいだった。

ほとんどの人は桂林と聞いてもぴんと来ないだろう。それもそのはず、特に何もないからだ。
一応鍾乳洞とゾウの鼻みたいな形をした岩が有名だったが、そんなものは一日あれば見てまわれるので、あっというまにやることがなくなった。
ぼくは気管支炎になって病院に行き、そこでなぜか医者(若い兄ちゃん)に誘われて一緒に食事をして観光地をまわったり、飯を食いに行った店でなぜか料金を請求されなかったのでそのまま何食わぬ顔で店の外に出て食い逃げに成功したりしたが、めずらしい体験と呼べるのはそれぐらいであとはのんべんだらりと過ごしていた。

朝起きると、ホテルの食堂に飯を食いにいく。餃子や中華饅頭といった点心を食う。
午前中の涼しいうちに近所の商店街を散歩して、暑くなってきたらホテルに戻ってテレビ観戦(中国では人気なのか、やたらとビリヤードやモータースポーツの番組をやっていた)。昼頃近くの丼屋に行く。丼の上に好きな具をトッピングしてもらえるシステムの店で汗をかきながら昼めし。汗をかいたのでホテルに戻り、シャワーを浴びて昼寝。
夕方涼しくなってきたら街に出て、目についた店でビールを飲みながら夕食。一元(十五円ぐらい)のアイスクリームを食べながら夜の街を散歩してホテルに戻り、床に就く。

というなんとも自由気ままで自堕落な生活を送っていた。こんな暮らしを十日ばかり。今思い返しても天国のような日々だ。
史上最高に贅沢な時間だった。何が贅沢って「何もしない」ということが贅沢だった。もう二度とあんなゆとりのある暮らしはできないかもしれない。

トッピングを選べる丼屋。最高にうまかった。

とはいえ、わずか二週間ばかりの期間と数万円のお金があればできる贅沢だから、その気になればいつでもできるんだけどな。ちょっとした勇気の問題なんだが。
ヨーロッパの人たちは夏にまとまったヴァカンスをとると聞くから、毎年そんな生活をしているのだろう。なんともうらやましい。日本人にはなかなか心理的ハードルが高い。
ドラえもんのマッドウォッチ(時間の進み方を部分的に早くしたり遅くしたりできる道具)が実用化されるのをただ待つばかりだ。


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