『ローマ法王に米を食べさせた男
過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?』
高野 誠鮮
おもしろかった!
過疎化・超高齢化が進む石川県羽咋市の神子原地区を「UFOの里」「ローマ法王が食べた米の生産地」として有名にした市職員の話。
書かれている話題は大きく三つ。
「どうやって神子原地区の農業の収益を高めたか」「UFOを使っての町おこし」「無農薬栽培でTPPに勝つ」
最後の無農薬栽培のあたりは『奇跡のリンゴ』を読んでいたので(感想はこちら)より理解しやすくておもしろかった。併せておすすめ。
この人の話はおもしろすぎるので話半分に聞かないといけないが、それにしてもこの行動力には驚嘆。
こんなでたらめな思いつきで行動してしまうのだから(そしてほんとにローマ法王に食べてもらえるのだから)すごい。
これを読むと、自分がいかに想像力にふたをして生きているかがわかる。ふつうはどっかでブレーキをかけちゃうと思うんだよね。「神子原だからキリスト教だなんてこじつけもいいところだ」「ローマ法王が食べてくれるわけがない」「食べてくれたとしてもだからといって米が売れるとはかぎらない」って。
でもやったことといえばローマ法王宛てに手紙を出しただけ。失敗したって損するのは切手代数百円だけ。成功すれば大きなリターンが得られる。って考えたら断然やったほうが得なんだけど、でもふつうは"良識"がじゃましちゃってできないよね。
これができたのはこの人が裁量を持って仕事をしていたからで、上司が「犯罪以外なら何をやってもおれが責任をとる」って言ってくれたからだよね。
公務員でも大企業でも意思決定に多くの人が関わるほど、奇想天外な思いつきは排除されてしまう。
「組織内の事前確認」ってほぼマイナスにしかならないよね。ぼくも「組織内でお伺いを立てて確認をとって報告する」という業務の多さに嫌気がさして仕事を辞めたことがある。すごく手間がかかるわりに何も生みださない業務だからね。結果、前例と同じことだけやるのがいちばん楽ってなっちゃうし。
あとさ。
「山の清水だけを使って作った米がありますが、召し上がっていただく可能性は1%もないですか」この訊き方、うまいよね。
ローマ法王に手紙を出しても読むのはたぶん法王本人じゃなくてお付きの人。「召し上がっていただけないですか?」だったら「いやーたぶん無理だと思いますわー」ってなるだろうけど、「召し上がっていただく可能性は1%もないですか」だと「1%もと言われると、確認とってみないとわかりません」になるもんね。で、確認をとってみたら案外いけたり。
高野誠鮮さんってほんとにすごい人なんだけど、でも実際、同僚だったらやりづらそうだなあ。どんどん突っ走っちゃうもんね。
きっと敵も多かったんだろうなあ。出る杭は打たれるから。
組織には出る杭も必要だよね。
もっとも、すごい人が出る杭だからといって、出る杭がすごい人とはかぎらないけどね。
失敗したってクビにはならないし、倒産するわけでもないし。
世の中には公務員が一円でも無駄にしたら烈火のごとく怒る人がいるけど、もうちょっと寛容でもええんじゃないかな。どうせ何百兆円もの借金抱えてる国なんだから。
失敗を繰り返さないと成功事例は作れないし、それを民の代わりに公がやってくれると思ったらありがたい。良くないのは、新しいことをやって失敗した人じゃなくて、失敗しているものをそのまま続ける人だと思う。年金制度とか。
マイナス点も見方を変えれば長所になるって話があるけど、これなんかまさにその例だよね。
過疎(=マイナス)だから川の水がきれい(=プラス)。
多く獲ろうとしていない(=マイナス)だから米がおいしい(=プラス)。
非効率な方法で栽培している(=マイナス)だから稀少(=プラス)。
こういうのって内部にいる人にはなかなかわからないんだよねえ。
そもそも高野さんが思い切った改革を断行できたのも過疎化しきった神子原地区だったからできたわけで、これが「東京都の行政改革」とかだったらとてもこんな身軽に動けなかっただろうから、それだけでも「人が少ない」ってのは大きな強みだね。
一人の人がやれること、手に入れられる情報ってのは昔よりはるかに大きくなってるから、今後はどんどん「物量作戦」よりも「小回り・スピード」のほうが大事になってくるに違いない。
これから先、大企業はどんどんつぶれていって、中小企業や個人経営が席巻する時代になってくると思うな。
最後に、おもしろかったエピソードをひとつ。
おもしろすぎるのでどこまでホンマかわかんないけど、高野さんはストーリーを作るのがうまい人だねえ。
売りこみにいくのではなく、買いにこさせる。
これはマーケティングを仕事にしているものとしては勉強になるなあ……。
その他の読書感想文はこちら
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