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2022年5月30日月曜日

爆弾犯あれこれ

「爆弾犯」という言葉がある。

「凶器」+「犯」という呼び方、他ではちょっとお目にかかれない。

「ピストル犯」や「ナイフ犯」はほとんど聞かない。

 Google検索をしてみたら、"爆弾犯"の検索結果37,500件に対して"ピストル犯"は103件、"ナイフ犯"は575件だった。爆弾よりもナイフのほうが圧倒的に多くの犯罪に使われていることをおもえば、「爆弾犯」だけが突出していることがうかがえる。


「凶器」+「犯」という呼び方はなかなかおもしろい。

「ナイフ犯」だとナイフで刺すか脅すかしたのだろうとだいたい想像がつく。

「カメラ犯」だと盗撮でもしたんだろうなとおもう。

「バールのようなもの犯」はよくわからないけどとにかく何かをこじあけたのだろう。

「自動車犯」はむずかしい。ひき殺したのかもしれないし、あおり運転かもしれない。逃走の手段に使ったということも考えられるし、自動車を盗んだということもありうる。


「凶器」+「犯」は「爆弾犯」ぐらいかな、と考えていたらもうひとつおもいついた。「知能犯」だ。凶器とはちがうが、「犯行に使われたもの」+「犯」になっている。

 しかしこれまたどうして知能だけなのだろう。同じ理屈でいえば、殴ったら「拳犯」、痴漢は「掌犯」、詐欺は「口犯」でもよさそうなものなのに(詐欺は知能犯か)。


 犯行に使われなさそうなイメージの言葉に「犯」をつけてみると想像がふくらむ。

 ラブレター犯、カフェラテ犯、おりがみ犯、アブラゼミ犯……。

 どんな犯罪なんだろうとわくわくする。小説の題材になりそうだ。


 爆弾犯や知能犯は例外で、ふつうは「行為」+「犯」で呼ぶ。殺人犯、ひき逃げ犯、ひったくり犯、食い逃げ犯、万引き犯、盗撮犯、窃盗犯。

 これまた例外があり、「犯」以外の字を使うこともある。

 たとえば。詐欺。詐欺犯ではなく詐欺師と呼ぶ。ペテン師、スリ師も「師」チームだ。

 どうして「師」なのだろう。「師」といえば、教師、講師、恩師、牧師などものを教えてくれる人や、医師、薬剤師、絵師、漁師、猟師、講談師、漫才師、呪術師などあるジャンルで高い能力を持った人を指す。そりゃあペテン師や詐欺師も一芸に秀でてはいるが、わざわざ「師」の字をつけなくたっていいのに。ぼくが医師や猟師だったら「詐欺野郎といっしょにしないでくれ」と言いたくなる。


 痴漢もわざわざ「漢(おとこ)」と呼んでいる。「痴犯」でいいとおもうのだが。

 そりゃあ圧倒的に男が多いわけだけど、女が電車内で別の人のおしりをなでまわしたらなんと呼ぶんだろうか。やっぱり痴漢だろうか。「痴女」だと意味が変わってしまう。たぶんだけど「痴漢女」とか呼ばれるんだろう。デビルマンレディーみたいに男なのか女なのかよくわからない呼び名だ。


「爆弾犯」の話に戻る。

 よく見ると、とても物騒な三文字熟語だ。「爆」も「弾」も「犯」もみんなそれぞれ暴力的な響きがある。

 三文字とも暴力的な熟語。他にあるだろうか。

 おもいついたのは「銃撃戦」「剣闘士」「争奪戦」「核戦争」「死刑囚」とか。あと昔の力士で「戦闘竜」とか。



2022年5月27日金曜日

【読書感想文】花村 萬月『笑う山崎』 / 愛と暴力は紙一重

笑う山崎

花村 萬月

内容(e-honより)
マリーは泣きそうな子供のような顔をした。「なにする!」圧しころした声で言った。「犯しに来た」その一言で、マリーは硬直した。冷酷無比の極道、山崎。優男ではあるが、特異なカリスマ性を持つ彼が見せる、極限の暴力と、常軌を逸した愛とは!フィリピン女性マリーを妻にしたとき、恐るべき運命が幕を開けた…。

 この小説の主人公・山崎はとんでもない男だ。ヤクザからも恐れられ、些細なことで初対面の女の顔面を殴ったり、敵対する人間には残虐な拷問をおこなって殺したりもする。それでありながら、京大中退の過去を持ち、色白細身、下戸、喧嘩は弱い。

 漫画『ザ・ファブル』を想起するが、あっちはもはや〝単に強いだけの善人〟だが山崎のほうはあくまで悪人だ。敵とみなした相手はどこまでも追い詰める。死ぬ覚悟ができている相手を助け、食事や女に触れさせて生きる気力が湧いてきたところで拷問にかけて殺すなんていう悪魔のような所業もおこなう。

 とことんワルでありながら、山崎はなんとも魅力的なキャラクターだ。どこか憎めない(もちろん近づきたくないが)。稀代のダークヒーローである。

 あ、エロとグロと暴力の描写がきついし、すかっとする部分もあるけど基本的に山崎は極悪非道のクズ野郎なので胸糞悪いくだりも多い。万人におすすめはしません。




 山崎は血のつながらない娘・パトリシアを溺愛し振り回される一方で、さして怨みもない相手に残虐な仕打ちを加える。慕ってくるヤクザに対して優しさを見せるが、銃撃されたときは平気で盾に使う冷徹さも持っている。どうも一貫していない。行動がちぐはぐな印象を受ける。

 物語のラスト、自身の行動原理を問われた山崎は答える。

「愛だよ、愛」

 これだけ見たらじつに安っぽい言葉だ。「愛だよ、愛」なんて歯の浮くような台詞を吐く人間は信用できない。ましてヤクザと濃密なつながりのある男が口にしたら冗談にしか聞こえない。

 しかし、ここまで読んで山崎という男の不器用きわまりない生き方を見てきたぼくとしてはおもう。まったく、その通りだと。山崎はまさしく愛に生きているのだと。

 山崎だけでない。山崎を取り巻くヤクザや情婦たちも愛を求めて生きている。

 もっとも彼らの愛はみんな歪んでいる。登場人物の多くは親の愛を知らぬまま大人になり、それを別のもので埋め合わせようとしている。
 彼らにとっての愛の表現は、女の顔面を殴りつけることだったり、身代わりとなって死ぬことだったり、誘拐した少女をあちこち連れまわすことだったり、覚醒剤を欲しがる男の代わりに手に入れてやることだったり、一般常識からすると狂っている。

 しかしぼくはおもう。歪んでいるからこそ愛なんじゃないか、と。

 常識で測れるものは愛じゃない。「こうした方が得だから」「こっちのほうが世間的に認められるから」という原理で動くのは愛とは言わないだろう。

 親から子への愛だって同じだ。どんなに悪い子でも、どんなにダメな子でも、献身的に尽くす。それこそが愛。親とはそういうものだとおもっているけど、冷静に考えればいかれている。

 そして愛と暴力はけっこう近いところにいるとおもう。

 ぼくが誰かを殴ったのは中学生のときが最後だ。それ以来誰も殴ったことはないし、殴ろうとおもったこともなかった。数年前まで。
 でも最近はある。相手は、娘だ。こっちが娘のことを大事にして、心配して、甲斐甲斐しく世話を焼いてやる。にもかかわらずまったく言うことを聞いてくれなかったり、露骨に反発されたりすると、つい手を出したくなる。

 どうでもいい相手のことは殴ろうとおもわない。殴っても損をするだけだから。そもそもそこまで他人の行動に感情を動かされない。でも、愛する娘のことは猛烈に憎くなることがある。愛と暴力は近いところにある。


 徹頭徹尾いびつな愛を見せつけてくれる、愛と暴力にあふれた小説だった。


【関連記事】

【読書感想文】あいたたた / 花村 萬月『父の文章教室』

【映画感想】『凶悪』



 その他の読書感想文はこちら


2022年5月26日木曜日

【カードゲームレビュー】NHKカガクノミカタ くらべてみるゲーム

NHKカガクノミカタ
くらべてみるゲーム

「賢くなる」を謳い文句にしているゲームは基本的につまらないので買わない、という信念があるんだけど、これはルールを読んでおもしろそうだったので買ってみた。


 ルールはこんな感じ。

・「動物X」役(一人)と、「博士」役(それ以外の全員)に分かれる。

・「動物X」はさまざまな動物(哺乳類)が書かれたカードから一枚めくり、こっそり見る。

・比較対象となる動物カードをめくる。

・「博士」たちは質問カードにもとづいて「動物X」役に質問をして、「動物X」が何かをあてる。


 シンプルなルールだ。たとえば「動物X」がオオカミで、比較対象がハリネズミだとする。
 動物X役は、「どっちが大きい?」ならオオカミ、「どっちが飼いやすそう?」ならハリネズミと答える(主観も入る)。質問を重ねて、一種に絞っていくわけだ。




 八歳の娘と何度かやってみたが……。

 まず、ルールに忠実にやるとつまらない。おまけにむずかしい。欠点だらけだ。


質問カードがクソ

「強そうなのはどっち?」とかならいいが、「空を飛ぶのが上手そうなのはどっち?」とか「鼻が長そうなのはどっち?」とか、なんとも微妙な質問が多い。

 動物カードは哺乳類ばかりなので、空を飛べるのなんてはモモンガぐらいしかいない。そりゃあカバよりもウサギのほうがまだ飛べそうだけど、そのあたりは主観なので人によるとしか言いようがない。

「どっちが鼻が長い?」もひどい質問だ。ゾウと比べたらすべての動物が短い側に入るので、まったく絞り込みに役立たない。カバとヒトのどっちの鼻が長いかなんて比べようがない。ウマやオオカミは顔の中心がつきでているが、あれは鼻が長いのか? それとも口が長いのか? よくわからない。

 質問カードはダメな質問ばかりだ。「草を食べていそうなのはどっち?」とか(そんなの比べるもんじゃねえ)、「角が大きそうなのはどっち?」とか(両方ない場合比べようがない)、「耳が大きそうなのはどっち?」とか(絶対的な大きさなのか、それとも相対的な大きさなのかわからない。たとえばウサギは相対的に耳が大きいが、絶対的な大きさではサイより小さいだろう)。


動物カードが微妙

 ゾウやキリンはいいとして、クマとかイノシシとかアルパカとかキツネとか、そんなに特徴のないやつも多い。二択の質問をくりかえしてタヌキかキツネかを見分けるとか、ライオンかトラかを見分けるとか、大人でもむずかしいぜ。子どもにはまず無理だ。

 哺乳類にこだわることなく、ニワトリとかカメとかカブトムシとかタコとかバラエティ豊かな顔ぶれにしたらいいのに。


質問をしても絞れないことが多い

 たとえば「比較対象カード」がライオンで、質問カードが「強そうなのはどっち?」なんてことが起こる。この質問をして、答えがライオンでも、答えがまるで絞れない。ライオンといい勝負ができるのはトラかゾウぐらいだからだ。ほぼ無意味な質問だ。



「比べることで動物Xを当てる」という大枠はいいのだが、ルールがひどすぎる。開発者はじっさいに子どもと遊んでみたのだろうか。


ってことでルールを改変してみる

 まず質問カードをなくした。質問は自分で考える。
 また、「比較対象カード」も自由に変えられることにした。

 たとえば比較対象の動物をブタにして「大きいのはどっち?」と訊けば、だいたい半分ぐらいに絞られる。

 これでなんとかゲームとして成立するようになった。しかし「タヌキとキツネを見分ける質問をするのがむずかしい」といった問題が残る。

 もう動物カードもいらないかもしれないな。自分で動物を考えて、「それはキツネより大きいですか?」「それとネズミ、食べるならどっち?」といった質問をくりかえすことで当てるのだ。

 質問カードも動物カードもいらない……。となると、そもそもこのゲームを買う必要がないな!



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