2026年6月22日月曜日

【読書感想文】高野 和明『グレイヴディッガー』 / 風呂敷を畳むのに失敗していろんなものがはみ出してしまった

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グレイヴディッガー

高野 和明

内容(e-honより)
改心した悪党・八神は、骨髄ドナーとなって他人の命を救おうとしていた。だが移植を目前にして連続猟奇殺人事件が発生、巻き込まれた八神は白血病患者を救うべく、命がけの逃走を開始した。首都全域で繰り広げられる決死の追跡劇。謎の殺戮者、墓掘人の正体は?圧倒的なスピードで展開する傑作スリラー巨編。


 一年以上前に死んだはずなのにきれいな状態で発見された死体、異常な殺し方の連続殺人事件、「見えない炎で焼き殺された」焼死体、なぜか追われる主人公。

 前半は謎だらけだ。犯人もわからなければ被害者の正体もわからない。被害者に共通していたのは骨髄ドナー登録をしていたことだけ。犯人の人数も謎だし、殺しの動機もわからない。主人公・八神が追われる理由も、ワルの八神が「どうしても骨髄提供をしたい」と考えて必死に警察から逃げ回っている理由もわからない。

 うーん、謎が多すぎて何が何やら。

 中盤で、タイトルになっている“グレイヴディッガー”という言葉が出てくる。

 その聞き慣れない単語は、しかし確かな重量感をもって耳の奥で反響した。「グレイヴディッガー?」
「ええ。英語で、『墓掘人』の意味です。魔女迫害の機運がイングランドに及んだ頃、異端審問官たちが何者かによって虐殺されるという事件が起こりました。魔女裁判と同じ拷問の方法を使ってね。それに怖れをなした異端審問官たちが、魔女狩りを自粛したのではないかというのです。今となっては事件の真相は分かりません。しかし当時の人々は、拷問によって殺された男が墓の中から蘇り、自分を殺した者たちに復讐をしたのではないかと噂しました。そして、この蘇った死者を、『グレイヴディッガー』と呼んだのです」

 魔女狩りをしていた異端審問官たちを私刑に処していたのが“グレイヴディッガー”らしい。言ってみれば「『魔女狩り』狩り」。

 これによってすべての謎がつながって一気に真相に近づく……とはならない。どうやら犯人が“グレイヴディッガー”を模倣して犯行をしているらしいということだけはわかるが、一向に真相は見えてこない。

 ひたすら八神が追手から逃げまわっている姿だけが描写される。ついに捕まった、とおもったらまた逃げて、やっと捕まった、とおもったらまた逃げて、今度こそ捕まった、とおもったらまた逃げて……。

 しつこい。もういいって。逃避行自体が目的の作品ならそれでいいんだけど、謎解きがメインなので逃亡劇は冗長に感じる。逃亡劇がなくても成立する小説だったんじゃないかな。



 きれいな状態で見つかった死体、公安組織、骨髄ドナー、グレイヴディッガーという一見ばらばらに見える伏線が一本につながる手腕は見事。ただ要素が多すぎて荒唐無稽な印象も受ける。

“グレイヴディッガー”側も、“グレイヴディッガー”に狙われる側も、「その目的のためにそこまでやらんだろ……」という感じなんだよな。やってることの壮大さのわりに、目的がしょぼすぎる。

 逆トロッコ問題みたいな感じ。「1人を助けるために5人の命を奪う」みたいなことをやってる。そんなやついるか?

 犯行のスケールの大きさに動機が釣り合ってないように感じた。


 あと最終的に「あいつもこいつもお咎めなし」で決着したのも、なんか腑に落ちない。あんな都内各地で大騒動をくりひろげておいて、みんな無かったことになっちゃうの!?

 ということで、おもしろい小説ではあったんだけど、風呂敷を畳むのに失敗していろんなものがはみ出してしまった印象。遠い外国が舞台、とかのほうがまだすんなり読めたかも。


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