2026年6月9日火曜日

【読書感想文】朝日新聞「志布志事件」取材班『虚罪 ドキュメント志布志事件』 / 鹿児島県警によって捏造された事件

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虚罪

ドキュメント志布志事件

朝日新聞「志布志事件」取材班

内容(e-honより)
前代未聞の捜査権力による「でっち上げ事件」はなぜ起こったのか。捜査内部の「情報提供者」の協力を得て、朝日新聞鹿児島総局の報道が捜査当局を追いつめる過程を詳細に報告し、元被告たちの苦悩の日々を追う。裁判員制度が始まろうとする今、まさに必読の書。

 2009年刊行。

 2003年の鹿児島県議会選挙で、自民党所属の現職議員3名の間に割って入るような形で新人が立候補し、見事当選。ところがその陣営が住民に現金や物品などを配ったとして、15名が逮捕・起訴され、厳しい取り調べを受けた。

 ところがこの容疑自体が県警の捏造であり、真っ赤な嘘だった。裁判においては全被告人の無罪が言い渡された。

 ここのところ全国で冤罪事件が相次いでいるが、この志布志事件は、その中でも極めて異常といえる。多くの冤罪事件は、事件そのものは存在し、警察が間違って容疑者を捕まえたケースだ。もちろんそれも許されないことである。だが、今回は、事件そのものを警察がでっち上げ、一三人の無実の人を容疑者に仕立て上げ、起訴したものだ。「冤罪」というより、いわば「警察の犯罪」と言える。
 起訴事実となった買収会合そのものが存在しなかったのである。誤って無実の人を逮捕、起訴したのではない。捜査権力がなかったことをあったとして無実の人の「罪」を問うたのだ。このようなことが、二一世紀になった現代でも実際にあるということに、驚くとともに、恐ろしさを感じずにはいられなかった。

 とんでもない事件だ。

 たとえば「他殺死体が見つかった。捜査を進めた結果、有力な容疑者が浮かびあがったので逮捕して起訴した。だが裁判の結果、無罪になった」というケース。冤罪事件だ。決して許されることではないが、これを100%防ぐことはできないだろう。人間誰しもミスは犯す(100%防ぐためには、ちょっとでも疑いが残る場合はすべて放免するしかない)。

 だが志布志事件は、このような冤罪とはちがう。鹿児島県警による事件の捏造である。本来なら存在しない事件だったのだ。間違えたのではなく、でっちあげられた事件だったのだ。まさに“虚罪”だ。

 警察が事件をでっちあげるのなら、もうなんでもありだ。どんなに品行方正な人だって、警察が気に食わなければ逮捕することができてしまうのだ。

「まちがって真犯人でない人を逮捕した」なら真犯人を見つければ無実が証明されるが、そもそも存在しなかった事件で逮捕された場合、身の潔白を証明するのは至難の業だろう。



 なぜこのような事件が起きたのか。

 警察が調べていないのではっきりした事情は判明していないが(そもそも調べないことがおかしな話なのだが鹿児島県警はそういう組織なのだ)、かぎりなく疑わしいのは、この事件によってくりあげ当選したP県議と県警の関係だ。

 実はP県議とX警部は、県警関係者の間では「親子同然の仲」と呼ばれていた。県警の内部関係者によると、二人の関係の親密度は県警も認知していた。かつて、県議会の正副議長選をめぐる贈収賄容疑でP県議が逮捕されたときには、二課の捜査員だったX警部を、県警は事件の捜査から外したという。ある県議会関係者は言う。「無投票だったらP県議は引退し、息子に地盤を譲るつもりだった。中山の立候補で計算が狂った」。P県議周辺で、中山さんの出馬に対する不満がくすぶり始めたのではとみる。

 県警の警部と県議が親密な仲だった。県議が選挙で落選した。あいつが立候補しなければ当選してたのに。で、その県議と応援者たちを逮捕。誰が見たってそういう構図だろう。だが県警はそれを認めない。とんでもなく異常な組織だ。



 事件自体も異常なのだが、もっと異常なのだが志布志事件が鹿児島県警の捏造だと判明した後の県警や地検の対応。

 久我本部長が会見すべきではないかと問われると、岩井田刑事部長は紅潮した表情で「執務時間なので本部長室で執務をしている」などと答えた。
 捜査を指揮した当時のQ志布志署長の責任については「(責任は)負っているが、二月末で退職したのでもう身分がない」と述べた。
 この日、警察庁は、当時の県警本部長だった稲葉一次・関東管区警察局総務部長に対し、長官が文書で厳重注意した。ただし、国家公務員法上の懲戒処分ではなく、業務上の指導。だが、長官自らが文書で行うのは異例という。漆間巌警察庁長官は同日の記者会見で「全体を見渡して指揮するのが本部長の役割。事件を見極めて引くなら引く、更に詰めが必要なら詰めるよう言える資質がないと失格だ」と語った。
 二〇〇七年六月二九日の久我本部長の定例会見では、志布志事件の処分についてのやりとりがあった。一二人全員が無罪となったこの事件の捜査をめぐる内部調査(後述)で、「(処分済みの「踏み字」事件をのぞけば)現時点で懲戒処分として取り上げるべき事由は把握していない」と述べた。三日前にあった接見交通権をめぐる国家賠償請求訴訟の口頭弁論で、当時の捜査幹部が、事件を指揮したX警部が捜査報告書を改ざんしたことを証言したが、X警部の行為も懲戒事由にあたらないとの見方を示した。清水警務部長は捜査報告書の改ざんについて、「係争中の裁判の具体的な証言内容についてのコメントは控える」とした。
 また、一二人の被告全員の無罪が確定したことを受けての責任の取り方を問われ、本部長ら幹部にボーナスを返上する考えがないことも示した。岩井田刑事部長は「判決は重く受け止めている」と断った上で、「法律違反があったというような判決内容ではない」と説明。ほかの県警での事例を踏まえて判断したとした。
 結局、この事件の処分は、捜査をした当時の本部長の稲葉一次関東管区警察局総務部長が警察庁長官名の文書での厳重注意。捜査の指揮をとったX警部と当時の志布志署生活安全刑事課長の二人が県警による口頭での厳重注意だった。しかし、X警部とともに捜査を指揮したQ志布志署長に対しては、二〇〇七年二月二六日付で退職したことを理由に県警は責任を問わず、退職金は規程通り払われた。しかも、X警部らへの口頭での厳重注意は、「職務上の注意」で、正式な処分ではない。

 当時の署長は注意を受けただけ。退職金を満額受け取って退職している。さらに警部や捜査主任は訓戒。要するに口頭注意で、「気を付けてね」で済まされている。

 担当警部補は3ヶ月の減給を受け、後に特別公務員暴行凌辱罪で執行猶予付きの有罪判決が下っているが、これは「取り調べの手段が適切でなかった」という理由の処分であり、「そもそも事件が捏造だった」ことの責任は誰もとっていないのだ(そしていちばん悪いのは取り調べにあたった警部補ではなくもっと上の人間だろう)。

 なんちゅう組織だ。



 事件の捏造が起きたのはもちろん悪いことだが、それが捏造だと判明した後も保身と組織の擁護に終始し、反省・改善を見せない鹿児島県警。

 反省がないのだからまた同じようなことをくりかえす。

 案の定、その後も鹿児島県警では不祥事が相次いでいる。個々の警察官による不祥事を隠蔽しようとしただけでなく、内部告発した勇気ある警察官を国家公務員法(守秘義務)違反で逮捕するなど、組織的なひどい動きは続いている。

Wikipedia:鹿児島県警内部告発事件

 こちらはまだ公判が始まってもいない。

 はたして骨の髄まで腐敗しきった鹿児島県警や鹿児島地検がまともになる日は来るのか。残念ながらあまり期待できない。


 ところで……。

 志布志事件の無罪判決が出たのが2007年の2ケ月。そのわずか4ヶ月後の6月に、くりあげ当選した県議が真夜中の交通事故で急死したそうだ。

 えっ、なにそれ。めちゃくちゃ怖いんだけど……。消された……?


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