2025年10月15日水曜日

キングオブコント2025の感想

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ロングコートダディ

 地底人モグドンと少年の交流。


 いいねえ。メルヘンな設定に、中盤からロングコートダディらしい底意地の悪さがふんだんにちりばめられている。ロングコートダディのコントって堂前さんの「どうやったら兎さんを悪く見せられるか」という熱い思いが根底にあるよね。

 前半部分をたっぷりとフリにつかう贅沢な構成にうならされる。そしてその長いフリに耐えられるパワフルなボケ。観客にじんわりと浸透させていたモグドンへの違和感を、心地よく浮き彫りにしてくれる。

 モグドンへ痛切な言葉をぶつけながらも、モグドンとの友情は持ち続けている少年のスタンスが絶妙。「モグドンかわいそう」という意識が薄れて笑いやすくなるし、同時に悪気がないからこその残酷さが際立つ。

 実際、いじめってこんな感じなんだよね。フィクションのいじめは「何もしてないのに悪意あるやつに標的にされる」描かれ方をすることが多いけど、現実には「みんなとうまくやっていける人間が、みんなから嫌われる人間を排除する」パターンが多い。大人になるほど。「あいつは会話に否定から入る不愉快なやつだから排除してもいい」という理屈をつけて。誰しも人を不愉快にさせる存在を受け入れたくないので、きっぱりとモグドンを拒絶する少年の姿に溜飲を下げる。これは正当な理由のある排除であっていじめではない、と自分に言い聞かせて。

 ロングコートダディのラジオを聴いていると兎さんは否定から入ることが多くて、これは堂前さんの日頃の不満をぶつけたコントだったのかなー。

 品位を保ちながらも風刺性も隠しもった上質なコントだった。



や団

 中華料理屋での駆け引き。


 餃子の値段交渉で場を支配する男の鮮やかな駆け引きを見せておいて、後半は落ちた餃子を食べたり服に吸わせたラーメンをすすったり、だんだんとイカれた展開へ。計算高さとバカバカしさのバランスがいい。綿密な構成なのにそう感じさせないのがや団の魅力。

 どんな展開になっても力技で笑いに変える本間キッドさんの剛腕がすごい。

 惜しむらくは中嶋さんがただのエキストラになってしまったことで、これまでのや団コントにあった「伊藤さんとは別方向のヤバさ」を見せてほしかったところ。


ファイヤーサンダー

 不祥事芸人の復帰明けバラエティ番組。


 ファイアーサンダーらしい細かい切り口のコント。「復帰明けのバラエティでの立ち振る舞い」という、誰もがうっすらと居心地の悪さを感じるシチュエーションを題材にするセンスがすばらしい。

 殺人はアウト、自動車事故はセーフ、じゃあどこからがアウトなのか、過失致死ならどうなのか……、そこには明確な基準などなくて「空気」がルールを決めているのではないかという社会への問題提起にも感じられる(ウソ)。

 ただ殺人犯であったことが明らかになるところが最大のピークになってしまったのが残念。一昨年の「日本代表」、昨年の「毒舌散歩」のネタでは種明かし後にもさらなる裏切りが用意されていただけに、過去のファイアーサンダーと比べて見劣りしてしまったのも事実。常連の苦しさ。

「もしものときのためにプロレスラーが配置されている」のセリフは、終盤まで取っておいたほうがよかったんじゃないのかなあ。


青色1号

 会社の休憩室でのゴシップ話。


 いやあ、よかった。トリオで噂話のネタをしたら「当事者に聞かれている」というわかりやすい展開に持っていきそうなものだけど、そうせずに「聞き手のリアクション」にスポットを当てるのがすごい。

 きっちり芝居で魅せてくれた。3人とも現実にいるぐらいのリアリティ(審査員が「あのネタをやるには若すぎる」って言ってたけど、ああいうゴシップで盛り上がるのは若い社員だよ!)。誰も変なことはしていない。なのにコントとして成立している。

 水やふるふるジュースなど小道具の使い方も絶妙。「こんなの買うやついるのかよ」みたいなどうでもいい会話がすごくリアリティがあっていい。

 オチも上品。このコントを東京03がカバーしたバージョンも観たいなあ!


レインボー

 女芸人とのコンパ。


 単独ライブだとウケそうなネタ。レインボーのファンにはめちゃくちゃウケるんだろうなあ。

 もちろん女芸人の形態模写はうまいけど(モデルは少し前にコンビ名を変えたあの人だよね?)、どこまでいってもモノマネであって、個人的にはあまり見所を感じなかった。まあこれは好みの問題であって、ぼくが人物の描き方よりもストーリー展開に重きをおいているだけなんだけど。

 こういう人間観察系の芸ってわりと女芸人が得意とするところだよね。友近、柳原可奈子、横澤夏子などの系譜。女装コントをやり続けた結果として着眼点までもが女芸人に近づいたのか、それとももともとそっちのセンスの持ち主だから女装がしっくりくるのか。

 たぶん各コンビのネタから10秒間だけ切り取ってSNSに上げたらこのコントがいちばんバズるとおもう。前後の文脈無しでも笑えるはず。この人たちの主戦場はショート動画なんだろうな。



元祖いちごちゃん

 スーパーの試飲。


 バイオレンスなボケで一気に引きこみ、そこからたっぷりと間をとったやりとりで味わい深い世界を表現してくれた。あの間のとり方、スリムクラブを思い出したのはぼくだけではあるまい。

 センスは抜群だったが、技術には課題。単純にセリフが聴きとりづらいとか、ツッコミの植村さんが芝居に入りこんでいないとか(ああいうコントをするなら「わかりやすく客席に届けようとする」姿勢はいらないのでは)。その粗さこそが魅力でもあるのだが。ところで「ブリーチ」って言われてみんなすぐわかるもん? うちの家では「漂白剤」って呼んでるんだけど。そしてブリーチじゃなくてハイター派だし。

 時間で解決させようとするくだりはかなり好き。ただ店員のクレイジーさが強烈なインパクトを与えていただけに、組織的な犯行という着地はかえってスケールが縮んでしまったような印象を受けた。



うるとらブギーズ

 医者にさせたい父親とミュージシャンになりたい息子。


 緊張してセリフを言い間違えている……と心配させる導入から、それを逆手に取った言い間違えコント。まんまと騙された。

 技術はナンバーワンだね。ものすごくむずかしいことをしている(指摘されていたように八木さんの痛恨のミスがなければなあ)。それでいてやってることは実にくだらないので考えずに笑える。うちの12歳と7歳の娘はこのコントでいちばん笑ってました。

 ベタベタな設定も生きている。ストーリーを聞かせたいわけじゃないから、とにかくわかりやすければそれでいいもんね。よく考えられている。

 とんでもなく高度なことをしているからこそ、後半がわざとらしく聞こえてしまったのが残念。笑いの量をとりにいったんだろうけど、英文和訳みたいな話し方になったり白衣を着たりするのはもう間違えじゃくて明確にボケてるもんなあ。

 個人的には言い間違えのまま突っ走ってほしかったけど、笑いを取りにいくことを考えるとそれもむずかしいかなあ……。



しずる

 LOVE PHANTOM。


 若手がワンアイデア勝負で挑むのはよくあるけど、しずるがいろんなパターンのコントをちゃんと20年以上続けてきた結果たどりついたのがこのコントという背景がまずおもしろい。

 ただ、別の番組でこのコントを観たことあったんだよなあ(ここまで長い尺ではなかったが)。インパクト勝負のアホらしいネタなので、やっぱり初見のおもしろさにはかなわない。

 どっちみち大会で優勝しそうなタイプのネタではないので(DVDに音源収録できないしね)、このネタ(曲?)を一本丸々観られただけで満足。



トム・ブラウン

 コント・エリザベスカラー


 最初の「コント・エリザベスカラー」のどなりで一気に心をつかまれた。あれを言うのが古いだけじゃなくて、言い方もいいんだよね。「言い方でウケてやるぞ」って感じの声の出し方。最もセンスのない笑いの取り方。そしてそれが逆にかっこいい。

 ビジュアル的なインパクトもさることながら、ヒデキというネーミングや犬とおできの主導権争いなど見た目だけに頼らないディティールにも工夫が感じられる。や団と同じく計算を計算と感じさせないバカさがいい。

 ふたりのキャラクターが十分強烈なのでVTRを使わなくてもよかった(回想シーンを舞台上で演じるとか)でもよかったんじゃないかな、ともおもう。

 オチの「はぁ?」は大好き。おもわず「こっちがはぁ?だよ!」とテレビに向かって言ってしまった。



ベルナルド

 カメラ男(マン)。


 まず気になるのが、「写真撮影前は客とカメラマンはどう接していたのか?」ってこと。カメラマンが暗幕から出てこないことに引っかかるのは、撮影後じゃなくて絶対に撮影前のはず。芝居なんだからこういうところをうやむやにせずにちゃんと処理してほしい。

 そのへんの「コントで描かれていないところ」がおろそかになっているので、奥行きを感じない。カメラ男のこれまでの人生だとか今後の展開に興味がいかない。小道具を見せたくて、そのためにコントを作った、そのためにキャラクターを作ったって感じがする。それならR-1グランプリでやっていたような「小道具を見せるためだけの最小限の設定」のほうがいっそ潔くて良かったな。

 小道具のおもしろさはさすがで、写真を吹きだすところは見ていて楽しいし、二重三重の仕掛けも鮮やか。

 トム・ブラウンの直後だったのでビジュアルのインパクトも狂気性も見劣りしてしまったのはかわいそうだったな。



 以下、最終決戦の感想。


レインボー

 六本木の何やってるかわからない社長と何やってるかわからないタレントの女。


 キャラクターのおもしろさ重視だった1本目よりも、ストーリーで引っ張っていくこちらのほうが個人的には好み。

 腕時計と金歯の値段、女がギャンブラーであることなどを前半でうまく明かし、きっちり後半の展開へつなげる。よくできた脚本だ。女の自信たっぷりの態度がブラフだったことが明らかになる裏切りも見事。笑いどころが社長のキャラから女のキャラにシフトしたのはちょっと引っかかった。

 気になったのは、「勝てないギャンブラー」という人間像と、序盤で見せていた「嫌々社長との飲み会に参加させられる」姿がどうもしっくりこないところ。こういう女性だったら、嫌いなタイプの社長なんてむしろ絶好のターゲットなんじゃないだろうか。



や団

 口の悪い居酒屋店主。


 導入の「口が悪いけど愛のあるタイプっぽいな」的なセリフのせいで、もうその先の展開が読めてしまう。とはいえ予想通りの展開をたどりながらも、毒をエスカレートさせていき、しょぼいマジックなどのアクセントも効かせて飽きさせない話運びはさすが。

 ただ個人的には薬物を扱うボケは好きじゃない。お手軽に異常性を出せる上に、どんな異常行動も「薬のせい」にできてしまうオールマイティカードので。薬物というわかりやすい材料に頼らずに異常な空間を表現してほしかったな。



ロングコートダディ

 泣いている警察官とシゴデキ女。


 正直さほど笑えたわけではないが、計算高さに感心した。優勝を獲りにいくためのコントって感じだ。

 毎年のことなんだけど、終盤ってちょっとダレるんだよね。ほとんどのコンビは1本目に強いネタを持ってくるし、観客も疲れてくる。それに会話で世界を組み立てていく漫才と違って、はじめから設定がしっかりできているコントでは序盤の「種明かし」がピークになることも多い(今回でいうとファイヤーサンダーとかベルナルドとか)。

 キングオブコントは採点式だが、最終決戦では点数以上に「どこを優勝させたいか」を考えるはず。だとしたら平均的に笑いをとるコントよりも、前半が弱くても終盤に強いインパクトを残すコントのほうが強い印象に残るだろう。

 ……そんな計算があったかどうかは知らないが、とにかく前半を抑えた構成にすることで後半の爆発力は大きくなり、見事に優勝をかっさらった。シソンヌじろうさんが高得点をつけていたが、そういえばシソンヌが優勝したときもこんな感じだったなあ。

 それはさておき、ちょっと塩梅をまちがえたら顰蹙を買いそうなコントなのに、そう見せないロングコートダディの味付けは見事。だってさ、男の警察官が、何の罪もない女性を撃つんだよ(下着は公然わいせつ罪にならないだろう)。ふつうならひかれるところだ。なのにあのシーンで笑いを起こさせるのがすごい。たっぷり時間を使って言語化女の鼻につく感じを浸透させたことと、兎さんのふてぶてしいキャラクターのおかげで、かわいそうな感じを与えない。丁寧に作りこまれたコントだ。



 ということで、実力、経験、人気すべてをかねそなえた円熟ロングコートダディが念願の優勝。順当に見えるけど、きっちり大会にあわせたネタを持ってきて、それでいて自分たちの持ち味も存分に発揮した納得の優勝でした。おめでとう!


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