2024年3月13日水曜日

R-1グランプリ2024の感想

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R-1グランプリ2024の感想。


真輝志 (入学初日)

 おもしろかった。個人的には優勝でもいいぐらい。

 青春アニメの第一話のような導入から、ナレーションによって微妙な未来を提示される。そのくりかえしから、執拗な軟式ラグビー部、女子生徒、英語、天の声が壊れる、女子生徒の人生との交錯など様々な変化をつけて飽きさせない。

 変化はあれど、ちゃんと最初の設定は壊さない。このバランス感が見事。寿司屋に行ったらいろんな種類の寿司を食べたいけど、だからってハンバーグおにぎりとかはちがうもんね。いくらおいしかろうと寿司の枠は壊さないでほしい。


ルシファー吉岡 (婚活パーティー)

 今までは見たルシファー吉岡のネタってたいていルシファーがヤバい人だったけど、このネタに関してはルシファーはツッコミ役。ちょっといい人すぎて変ではあるけど、でもまあ常識人の範囲にはおさまっている。これはこれでいい、というか、R-1グランプリという大会ではこっちのほうがいいんだろうな。

「ヤバい人」より「ヤバい人にふりまわされる人」のほうが安心して笑えるもんね。ベルの音や「私以前、私以後」といったフレーズの使い方も見事。

 でも個人的には、ずっとやってきた下ネタを捨てて、大会にあわせにきたルシファーさんを見るのはちょっと寂しい気もしたな。


街裏ぴんく (温水プール)

 前評判がよかったので楽しみにしていたのだが、期待外れだったな。やろうとしていることはわかるんだけどそれだったらもっとうまいやり方があったんじゃないの?

 だって「温水プールに行ったら石川啄木がいた」って嘘がすぎるじゃない。嘘のおもしろさってさ、「嘘かほんとかわからないけど自分にはギリギリ嘘だとわかる」ぐらいのラインを突くのがいちばんおもしろいわけじゃない。「おつむの弱い人はわからないけど自分にはわかる」ぐらいが。

 なんかさ、最初はもっと絶妙な嘘をついて(嘘っぽいけどありえなくもないぐらいの)、そこからちょこちょこ嘘を発展させて、でもときどき真実性の高いことも混ぜて……みたいな構成のネタを見てみたかったな。ハライチのラジオで岩井さんがやっているような。

 石川川石とか言ったときは一部の客が「へえー」とか言ってて、そうそうこういう嘘! とおもったんだけど、その後もまた真っ赤な嘘に終始してしまった。


kento fukaya (マッチングアプリ)

 んー。どこかで見たことのあるようなフォーマットを集めたネタだったな。

 おもしろくないわけじゃないんだけど、新鮮味がなかった。R-1って何をやるのも自由だから、新しい試みが感じられるものが見たいな。何をやるのも自由なんだけど、さすがに昨年優勝者の風味が感じられたのは、それはどうなのとおもってしまったな……。

 映像にツッコミを入れるネタって、よほどうまくやらないと「自分で用意したものに自分で文句をつけてる人」になっちゃうんだけど(もちろん実際はその通りなんだけど)、そこをうまく見せられるかどうかは「映像の中に第三者の人間味が感じられるか」にかかっている。昨年の田津原理音さんのネタはカードの開封という演出を入れることでうまく偶発性を演出していた。

 このネタに関してはkento fukayaさん以外の人の体温が感じられなかった。


寺田寛明 (国語辞典のコメント欄)

 昨年の「言葉のレビューサイト」に似たネタ。去年のほうがおもしろかった。

「この言葉にはこういうコメントがつくだろうな」という想像を、そこまで大きくは超えてこなかった。そして毎年のことだけど、この人のネタには「誰が演じても大して変わらない(というかもっとうまく演じられる人がいそう)」という問題が。なんならデイリーポータルZの記事でもいいんんだよな。


サツマカワRPG (不審者対策講習)

 なんか、R-1に何度も出ていたころの友近を思いだしたというか、もう優勝とか関係なく好きなことをやってやるぜ!という開き直りを感じた。ふつうはだんだんえぐみがとれていくものなのに、この人の場合は年々理解されなくなっていくのがおもしろい。

 一人コントだけど、防犯ブザーの音を効果的に使っていて、セリフはないけど子どもたちの表情が見えるよう。丁寧につくりこまれたいいコントだった(ラストのオカルト展開は個人的にはいらなかったようにおもうけど)。

 ところでハガキ職人をネタにしてたけど、そこまで伝わるのだろうか。劇場に足を運ぶようなお笑いファンならラジオを聴いている人も多いだろうから伝わるだろうけど、一般的にはそこまで伝わる題材じゃないとおもうな。ウエストランド井口がもう手をつけているところだしパワー面でも勝っているようにはおもえないので、流れ的に入れる必要あったのかなとおもってしまった。


吉住 (結婚の挨拶)

 結婚の挨拶に来た女性が武闘派のデモ活動家、というひとりコント。サツマカワRPGに続いて狂気性を扱ったコントだけど、どこか嘘くささが終始漂っていた。

 コンビだったら楽なんだけどね。ヤバい人に対してツッコミを入れる人がいれば、異常さが際立って笑いになる。

 ひとりだと、自分で説明をして、観客に心の中でツッコミを入れさせなくてはならない。でも「説明」という行為と「異常な人」は相性が悪い。異常な人は、自分がなぜその行為をするに至ったかを他人にわかりやすく説明しないから。

 異常な人というのはよくわからないから異常なのであって、丁寧に説明をしてくれたら狂気性が薄れてしまう。そこのジレンマをうまくクリアできているようにはおもえなかったなあ。


トンツカタンお抹茶 (かりんとうの車)

 サツマカワRPG、吉住と不快さをまとわりつかせたコントが続いた後で、ばかみたいに平和なネタ。これこれ、今はこういうのが見たいんだよ! 最高の出番順だった。

 何にも残らない最高にアホみたいなネタ(褒めてます)だったけど、だからこそ点数は低くなってしまったのかな。同じように意味のない歌ネタ『井戸』で優勝を勝ち取った佐久間一行さんはすごかったなあ。

 くぐもった声のコーラスのせいで聞き取りづらい箇所があったのが残念。からっぽなネタ(くりかえし書くけど褒めてます)だからこそ、ノーストレスで見たかったなあ。


どくさいスイッチ企画 (ツチノコ発見者の一生)

 作品の完成度は今大会ピカイチだとおもう。起承転結、ストーリーの寓話性、そして表現の巧みさ。ベテラン落語家のように完成された芸だった。

 アマチュアだというから発想のおもしろさで一点突破したのかとおもいきや、そんなことはなく、いちばん技術が高かった。

 技術を評価するタイプの審査員が少なかったのが残念だなあ。




【最終決戦】


吉住 (鑑識)

 女性監視機関が来たのが彼氏の職場だった、という発想はおもしろいが、その設定だったらこういう展開だろうな、という流れから大きく裏切りがなかったのが残念。

「1番にしちゃった」などのよくわからないデレ方はおもしろかった。女性芸人の「かわいい部分と怖い部分の使い分けで笑いをとりにいく手法」はさすがにもううんざり。


街裏ぴんく (モーニング娘。の結成秘話)

 一本目よりは絵がイメージしやすかった。「スマートボール」などのあってもなくてもいい題材が飛び出してくるのもおもしろい。

 とはいえ虚構全開で「嘘かほんとかわからないおもしろさ」がないのは相変わらず。二本目はみんな「この人の言うことは嘘だ」とわかっているわけだから、もっと虚実の境界ぎりぎりをえぐるようなネタでもよかったとおもうけどな。


ルシファー吉岡 (隣人)

 なんとなく中途半端な印象。隣室の会話を聞きすぎているルシファー吉岡の異常さを見せたいネタなのか、隣室の人間関係を見せたいのか。そしてひとり語りで説明するには隣室の“五人”という人数は多すぎやしないか。しかもその五人はどう考えても始終一室に集まる取り合わせじゃないだろ。「いっつも部屋に集まって遊んでる五人組」だったらもっと性格とか似てるとおもうんだよね。くそマジメタイプの女の子がこの部屋に入り浸るか?

 芝居がうまいからこそそのへんのリアリティの欠如が気になってしまった。




 SNSなんかを見ると「街裏ぴんくは何がおもしろいかわからなかった」「どくさいスイッチ企画はおもしろかったのに不当に点数が低かった」という声がとにかく多かった。

 まあこういう大会のたびに「優勝者は何がおもしろいのかわからない」「〇〇のほうがおもしろかったのに!」という声はあるんだけど(異論がない人はあまり声を上げないしね)、それにしても今回のR-1はその声が例年にないぐらい多くて、たぶん視聴者投票したら街裏ぴんくさんは下位に沈むだろう。ひょっとしたら「審査員票では優勝だけど一般投票なら最下位」もあるかもしれない。逆ならかっこいいんだけど。

 それぐらい会場と視聴者の乖離が大きかった。

 ぼく自身も同じように感じて、個人的に三人選ぶなら、真輝志、ルシファー吉岡、どくさいスイッチ企画になる。彼らのネタはおもしろいだけでなく「ひとりである必然性」があったからね。ひとりでしか表現できないネタ。吉住さんはツッコミがいたほうがおもしろかったんじゃないかな。

 でもまあやらせだとか陰謀論を唱えるつもりはない。たぶん会場のウケとテレビ視聴者のウケはちがうだろうし(大声、歌、勢い系のネタはテレビよりも会場の評価が高くなりがち)、審査員(特に野田クリスタルさんとザコシさん)の好みが偏っていただけで審査に良からぬ意図がはたらいていたとはおもわない。審査員を変えたって、それはそれでべつの問題が起きるだろうし(昔のR-1は芸人というよりタレントに近い人たちが審査員をやっていて、大衆の感性には近かったけどマニアックなものは拾われにくかったし、あと出番順に大きく左右されていた)。

 ということで「いや大衆から何と言われようとR-1グランプリが次の時代を切り拓いていくんだ!」ぐらいの信念があって今の審査員体制を貫くのであればそれはそれでいいんだけど、大会方針の二転三転っぷりを見ているととてもそんな信念や覚悟があるようには見えないんだよなあ……。


 ま、ちょっともやもやの残る結果にはなったけど、芸歴制限を撤廃したり、ネタ時間が増えたり、観ている側としては特に必要性も感じない敗者復活戦をやめたり、大会がいい方向に向かっていることはまちがいない。このままの方向性で進んでいってくれよ!!


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