世界でいちばん透きとおった物語
杉井 光
【核心のネタバレは避けるようにしますがネタバレにつながるヒントにはなってしまうとおもいます】
前情報を知らずに読んだらびっくりしただろうな。
帯の「電子書籍化絶対不可能!?」が余計。これはヒントを出しすぎ。
「映像化不可能」はよくあるけど、「電子書籍化絶対不可能!?」じゃあね。紙そのものか文字組か装丁に仕掛けがあるんだろうな、と容易に想像がついてしまう。
で、タイトルが『世界でいちばん透きとおった物語』とくる……。
わりと早めに『世界でいちばん透きとおった物語』がどんなものかわかってしまった。それがわかれば、主人公が「電子書籍は読めるけど紙の本は読めない」という情報とあわせて、作中の「世界でいちばん透きとおった物語」がどんな目的で書かれた本なのかもわかってしまう。
ま、それはいい。はっきり言って、ミステリにおいてトリックは物語を彩る一要素だ。重要な要素ではあるが、それがすべてではない。
……はずなのだが。
残念ながら、『世界でいちばん透きとおった物語』においてトリックがすべてだった。このトリックが見破られてしまえば、とんでもなく退屈な物語だ。おまけに文章が読みづらい。トリックを実現するために無理のある文章構成にしているものだから文章のリズムが悪い。もはや物語を彩る一要素どころか、トリックが物語の進行を邪魔している。
プロ野球における「フォークだけすごいピッチャー」みたいなものだ。とんでもなく落差のあるフォークを投げる。それはすごい。みんなびっくりする。
でも、そんなピッチャーはプロでは通用しない。びっくりするだけ。
ストレートも速くて、コントロールもよくて、変化球も多彩で、スタミナもあって、その上ですごいフォークを持っていたら一流投手になれるかもしれないが、残念ながら「フォークだけすごいピッチャー」はすぐに対策されて使い物にならない。
結局、トリックでびっくりさせることが目的になってるんだよな。おもしろい物語をつくることじゃなくて。
パズルとか手品じゃないんだから、トリックよりも物語のおもしろさを優先させてほしい。短篇ならワンアイディアでいい作品になったかもしれないけど。
うちの五歳児が絵を描いたときなんかは「がんばって描いたね。すごいすごい」と努力を褒めてあげるようにしてるんだけど、今もそんな気持ち。がんばって書いたねー。すごいすごーい。
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