星の見える家
新津 きよみ
短篇集。内容も登場人物はバラバラだが、主人公はみんな四十代ぐらいの女性。
『危険なペア』には三人の女性が出てくるが、全員「均等法一期生」。そんな言葉があるなんてぼくもこの本で知ったのだが、男女雇用機会均等法が施行された1986年4月に社会人となった世代を指す言葉らしい。
この本の刊行が2009年なので、主人公たちは45歳ぐらい。今だと60手前か。団塊の世代と団塊ジュニアの間ぐらいだね。
均等法一期生である主人公たちは、みなあまりいい境遇に置かれていない。
離婚してシングルマザーになっていたり、失業していたり、機会に恵まれずいまだ独身だったり。
今もそうだけど、均等法一期生の女性ってとりわけたいへんだっただろうなあ。タテマエとしては男女平等になってるけど、実態はぜんぜんそうなってない。上の人たちはみんな古い考えのまま。
いつだって楽な時代なんてなかったとはおもうけど、何がつらいって「理想と現実の違いが大きい」ことがいちばんつらい。
ぼくは80年代生まれなんだけど、この世代はそもそも世の中に対してあまり期待していない人が多い。生まれたときからずっと不況で、羽振りが良かった時代をほとんど見ていない。子どものころからリストラだ経営破綻だというニュースを観てきた。
だからそもそも「がんばれば必ずいい暮らしができるようになる」とか「ふつうに就職してふつうに結婚してふつうにサラリーマンと専業主婦になって……」とかの価値観を持っていない。
でも、均等法一期生世代とか団塊ジュニア世代はきっとそうじゃない。子どものころにはまだ「ふつうにがんばればいい暮らしができる」幻想が生きていたんじゃないかな。
上の世代を見ているとおもうもん。「幸せは努力すれば勝ち取れるものとおもってるんだろうなー」って。
そういう「理想とはほど遠い生活を送っている中年女性」をうまく描いている。まあ理想通りの人生を送っている人なんてどこにいるんだって話だけど。
サスペンスやミステリっぽい短篇が並ぶが、どれもいまひとつ。
どうも切れ味が鈍いんだよね。
軒並み期待を下回ってくる。
あっと驚く展開はない。かといってほんとにありそうかというと、そこまでのリアリティはない。
ちょっと嘘っぽくてちょっとだけ嫌な展開が続く。
一篇選ぶとしたら『再来』。
「主人公の娘が、前世の記憶を持っているらしい」と
「主人公の友人がかつて誘拐軟禁事件の被害者だった」というまったく別の話が同時進行で語られる。
これがどうつながるのか……という謎の張り方はおもしろかった。
だが結末は、うーん……悪くはないけど……。
ほとんどつながらないのか……。
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