F.アッシュクロフト(著) 矢羽野 薫(訳)
タイトルの通り、「人間は生きたままどれだけ高く登れるのか」「どれだけ深く潜れるのか」「暑さや乾燥にはどれぐらい耐えられるのか」「寒いとどうなるのか」「他の動物はどうやって耐えているのか」について書かれた本。
数々の文献を漁って書かれた本であり、著者が命を賭けて「どれぐらい耐えられるか」の実験したような本ではありません。念のため。
ふだん生きていてあまり意識することはないが、「気圧」は身体に対して大きな影響を与える。
人間がギリギリ耐えられる低い気圧は、厳しいトレーニングを受けた人でも350hPaぐらい。高さにすると標高8,000mぐらい。エベレストの標高が8,848mなので、世界最高峰の山が人間のギリギリラインというのはなんともよくできた偶然だ。
気圧が低くなると人体には様々な影響が出て、とてもまともに活動ができない。平地でも気圧が低くなると人によっては体調が悪くなるようだが(ぼくはほとんど感じたことがないけど)、その比じゃないぐらいしんどくなるようだ。
加えて、気圧が低いと酸素が薄くなるわけで、ちょっと動いただけでものすごく疲れる。エベレストの山頂で100m進むのは、低い山を100m歩くのとはまったく疲労度が違うという。
「登山家は山の標高を語りたがるけど、海抜0m地点から登りはじめるわけじゃないから、あんまり意味なくない?」とおもってたんだけど、そんなことなかったんだね。標高0m→100mと標高8,000m→8,100mはまったく違うのだ。
標高8,000mが限界なのに、高度10,000mぐらいを飛ぶ飛行機って、相当無理のある乗り物だよね。
飛行機に乗っているときに「もし墜落したら確実に死ぬな」なんて考えるのだが、墜落しなくても窓が開いただけで死んでしまうのだ。宇宙船や潜水艦と同じで、「一歩出たら外は死の世界」だ。
たった30秒で意識を失う……。ま、それはそれであまり恐怖を感じなくて、悪くない死に方かもしれない。
人類は暑い地域で進化したので、他の動物に比べれば、寒さよりも暑さに強いようだ。
中でもヒトが優れているのが「汗をかける」という点だ。汗を蒸発させることで身体の熱を外に逃がすことができる。ヒトは全哺乳類の中でもトップクラスに走るのが遅い(身体のサイズのわりに)だが、それは短距離走の話であって、長距離走ではウマと並んで非常に優れたランナーである。
熱中症にならないために気温を気にするけど、二、三度の気温のちがいよりも、湿度や風のほうがずっと重要なんだね。そういや扇風機なんて気温にはぜんぜん影響を与えないけど(どっちかっていったら気温を上げる要因になる)、あるのとないのとではぜんぜん涼しさがちがうもんね。
ヒトは寒さにはあまり強くない……。はずなのだが、ある程度は寒さに慣れることができるし、例外的にめちゃくちゃ寒さに強い人もいる。
寒さに限らず、暑さでも、気圧の低さも、気圧の高さも、耐えられる度合いは人によって大きくちがう。
基礎体力などの要因もあるが、もってうまれた体質も大きい。たとえば高山病のなりやすさ、症状の重さは、どれだけ鍛えているかには関係ないようだ。暑さも寒さも同じ。気合を入れようが、心頭滅却しようが、無理なものは無理! なのだ。
「おれが若い頃はこれぐらいは耐えられた」と口にする人は、ぜひとも人類がこれまでに乗り越えてきた最高高度、最高気温、最低気温、最高気圧、最低気圧のすべてに挑戦してから言ってほしい。他に耐えられた人がいるんだから、あんただって平気なんだよね?
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