最後の秘境 東京藝大
天才たちのカオスな日常
二宮 敦人
日本最難関の大学は東大ではない。東大入試の倍率は3~4倍。一方、東京藝大の倍率は学科にもよるが高ければ数十倍。入ることの難しさでいえば、圧倒的に東京藝大のほうが上である。しかも芸術的才能を開花させるには、勉学よりも遺伝・家庭環境・どれだけ早くから始めたかがものをいう。大人になって一念発起して数年間必死に勉強をして東大に入れることはあっても、大人になって必死にピアノを練習しても東京藝大には入れないだろう。
宝塚音楽学校と並んで、日本で最も入るのが難しい学校と言っていいだろう。
そんな、とにかくすごい大学。が、その中身はベールに包まれている。いやべつに包んでいるわけではないだろうが、ほとんどの人には縁のない世界だ。
もちろんぼくにもまったく縁がない。そもそも芸術と縁がない。ド音痴だし、美術館にもほとんど行ったことがない。藝大生がどんな生活を送っているのか、まったく想像もつかない。美大や音大といっても『のだめカンタービレ』『はちみつとクローバー』程度の知識しかない。漠然と「変わった人が多いんだろうな」とおもうだけだ。
そんな、変人が集う芸術系大学の中の最高峰・東京藝大の卒業生・在学生・教授へのインタビューを通して藝大生の生態を明らかにしたルポルタージュ。ものすごくおもしろい。
藝大は大きく音校と美校に分かれているのだが、その二者は似ているようでまったく別物だそうだ。
うひゃあ。こんな人がごろごろしているのだそう。
音楽センスに恵まれていて、本人も音楽が好きで、必死で努力して、でもそれだけでは入れない世界なのだ。家に経済的余裕があって、かつ毎月五十万円出してくれないと入れない。かつ、三歳ぐらいからずっと一流のレッスンを受けさせてくれる家でないと。
しかしこれはこれでたいへんよなあ。生まれたときから音楽家になることが義務付けられているようなもんだもんなあ。皇室に生まれるのとあんまり変わらない。
多くの天才が集う場所だけあって、藝大は入試も独特。
十二時間かけて人を描く……。とんでもない難問だ。ぼくなんか一時間ももたないや。
勉強のほうでも、一流校は意外と問題がシンプルなんだよね。東大入試の数学の問題なんか、問題文は二~三行だったりするもんね。
入試にはみんな画材を持ち込むので、スーツケースで会場入りしたりするらしい。それにもかかわらず……。
重い画材を抱えて階段を上がる……。まさにハンター試験だ。あの体力自慢デブが自信をこっぱみじんに砕かれたやつね。
入試、授業、学祭、卒業後の進路。どれもふつうの大学とはまったくちがっていておもしろい。藝大に入りたいとはおもわないけど(当然ぼくなんか入れてくれないだろうけど)、学祭ぐらいは行ってみたくなったな。
本を読む愉しさのひとつが、自分とはまったくちがう異なる人生を追体験できることなんだけど、この本はまさにその愉しさを存分に味わえる本だった。こんな生き方もあるのか、と自分の視野がちょっとだけ広がった気がする。
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