2019年12月11日水曜日

【読書感想文】昭和の少年が思いえがいた未来 / 初見 健一『昭和ちびっこ未来画報 』

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昭和ちびっこ未来画報 

初見 健一

内容(e-honより)
本書には1950~70年代の間に、さまざまな子供向けのメディアに掲載された“未来予想図”が収録されています。小松崎茂、石原豪人をはじめとする空想科学イラストの巨匠たちが描いた未来画を暮らし、交通、ロボット、コンピューター、宇宙、終末の六項目に分けて紹介。

未来予想が好きだ。
このブログでも、真鍋 博『超発明 創造力への挑戦』、ミチオ・カク『2100年の科学ライフ』、エド・レジス 『不死テクノロジー 科学がSFを超える日』といった硬軟さまざまな未来予想本を紹介してきた(ページ下の【関連記事】参照)。

未来の世の中(21世紀後半~22世紀ぐらい)はこうなる、という予想もおもしろい。
わくわくして長生きしたくなる(20世紀生まれのぼくが22世紀まで生きるのはまず不可能だろうが。少なくとも肉体は滅びるはず)。

それもおもしろいが、過去の未来予想もおもしろい。
50年前、100年前の人たちが予想した未来を、21世紀を生きるぼくが答え合わせをすることになる。
これがたまらなくおもしろい。
優越感をくすぐられる。なにしろこっちは未来人だ。20世紀人の「未来」については圧倒的にこっちのほうが知識がある。
「ははーん。こんなことを予想してたのかー。しょせんは20世紀人、ばかだねー」
とか
「おっ、まあまあいいセンいってんじゃん。とはいえここまでの予想しかできないのが20世紀人の限界だよなー」
とか上から目線で語れる。
べつにぼくの力で科学が進歩したわけではないのだが(むしろ過去の人のおかげなのだが)、しかし「新しい知識を持っている」というのはそれだけで優位に立てる条件なのだ。未来人でよかったー(20世紀生まれだけど)。



『昭和ちびっこ未来画報』は過去の未来予想を集めた本だ。

1950~1980年ぐらいの少年誌に掲載されていた「未来はこうなる!」というイラストがたっぷり載っている。全ページカラー。
すごくおもしろい。
イラスト(小松崎茂氏のものが圧倒的に多い。未来予想イラスト界の大家だ)もいいし、著者のツッコミも笑える。

雑誌だけでなく大阪万博の「未来生活」の写真なんかもあって、昭和の少年(あるいは大人も)がどんな未来を思いえがいていたかがよくわかる。もちろん全面的に信じていたわけではないだろうけど。


都市の未来予想はけっこうあたっている。

立体交差道路、動く歩道、モノレール、屋上ヘリポート、室内野球場、街頭テレビ。
どれも2019年現在あたりまえのように存在しているものばかりだ(モノレールはあまり一般的にならなかったけど)。

とはいえ「そりゃないだろ」というアイデアもあふれている。


高速道路で事故が起こらないように、巨大ロボットが違反車を(物理的に)つまみあげるという仕組み。
こえー。
こんなにすごいロボットが動いているのに「速度おとせ」という看板で注意を呼びかけているのが笑える。看板は進歩しないのかよ。

っていうかこんなロボットを動かす技術があるならとっくに自動運転車が実用化されてるだろ……。そもそも自動車が必要なくなってるんじゃないか。

あと「空港が空を飛ぶ」とか、脱線した機関車を持ち上げる飛行艇とか、いろいろツッコミどころの多いアイデアもおもしろい。
そんなすごい飛行艇が飛んでるのにまだ機関車使ってるのかよ。

すごいスピードで郵便物を運ぶ「ゆうびんロケット」は、ああ昔の人のアイデアだなあという気がする。
そうだよね。「いかに速く手紙を届けるか」という発想になっちゃうよね。「電子メールが一般化して紙の手紙を出す必要はほとんどなくなる」というパラダイムシフトにたどりつくのはむずかしい。

 今だっていろんな学者が「どうやって健康を維持するか」とか「安全でエコな自動運転車を作るにはどうしたらいいか」とか頭を悩ませているけど、将来的には肉体が不要になっている可能性もあるもんなあ。そうなったらとうぜん自動車なんて不要になるわけで。



コンピュータ、通信などの分野に関しては現在の状況は昔の想像をはるかに超えているかもしれない。
誰もが手のひらサイズの高性能コンピュータを持ち歩いている時代なんてほとんど誰も予想しなかっただろうなあ。

しかし、宇宙開発、海底開発、気象操作などは残念ながら「未来予想」にとうてい及ばない。
宇宙や海底は、今のところ「そこまでする必要がない」から開発してないだけで、「もうすぐ陸上に人類が住めなくなる」などのせっぱつまった状況になればちょっとはマシになるんだろうけど。
天気を操るとか台風を鎮めるなんてアイデアが紹介されてるけど、制御するどころか2019年になっても予想すらまともにできてない状態だもんな。
地球は手ごわいな。

ロボットに関しては、昔の少年が思いえがいていたヒト型ロボットが活躍する時代は当分こないんじゃないかな。ヒト型であるメリットがあんまりないもんな。



登山サポートロボットやおかあさんロボットの想像画が描かれているが「キモいし無駄」という感想以外は出てこない。
特におかあさんロボットの不気味さといったら……。ぜったいこの触手で絞め殺されるだろ。



終末予想も数多く紹介されている。

核戦争、温暖化、隕石の衝突、大洪水などで地球が滅ぶという暗黒未来予想だ(寒冷化がしきりに唱えられているのが20世紀らしい)。

放射能により動物や植物が巨大化・凶暴化、なんてのも昭和のSFって感じだなあ。ゴジラとかウルトラマンとかでも「放射能により凶暴化」ってのはけっこう扱われてるもんなあ。

今だったらアウトだよね。原発事故地域の風評被害がーってなってしまう。
けどそれはそれで臭い物に蓋って感じでイヤな感じなんだよなあ。
「風評被害はやめろー」って言う人の大半が被害者を慮ってるわけじゃなくただ単に遠ざけてるだけに見える。



著者も書いているけど、少年誌の定番だった未来予想は最近ではすっかり鳴りを潜めてしまった。
ぼくが子どもの頃読んでいた雑誌でも見た記憶がない。

ノストラダムスだ終末論だのオカルトが流行るのは歓迎しないけど、長生きしたいとおもわせてくれるような未来予想がもっとあってもいいのになあ。
未来に期待が持てない時代になってしまった。さびしいな。まあ人口も経済も衰退していく一方の今の日本じゃあなあ。


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