ルポ ひきこもり未満
レールから外れた人たち
池上 正樹
ひきこもり、あるいはそれに近い状態の人たちの事例が紹介されている。
この本で紹介されている人たちのケースは様々だ。うまく問題を克服して社会に出られた人、今ももがき苦しんでいる人、そしてひきこもりの末に自殺した人……。
以前、久田 恵『ニッポン貧困最前線 ~ケースワーカーと呼ばれる人々~』という本の感想でこんなことを書いた。
「ひきこもり」の問題も同じだ。
外に出られないことには原因がある。「出てきなさい」というだけで解決するような問題ではない。ただ仕事を与えて外に出すだけではだめだ。
ぼく自身、いっとき半ひきこもり状態だった。
気心の知れた友人とであれば出かけるが、それ以外の人とは会いたくない。一週間のうち五日か六日は終日実家にいるなんてこともあった。
あれはつらいものだ。「出たくない」とおもっているわけではない。
常に「出たくない」と「でも出なきゃだめだ」が闘っている状態だ。外に出なきゃいけないことは自分がいちばんわかっている。けど動けない。
そんな状態の人に「まず一歩外に出てみよう」と言ったって無駄だ。羽が折れた鳥に対して「さあ外に出ておいでよ。襲いかかってくる犬も猫もいるけど怖がらなくていいよ」と言うようなものだ。まずは身を守る方法を身につけさせなくては。
ぼくの場合は一年ぐらい半ひきこもりを続けた後、「バイトぐらいはしなくちゃな」ということでバイトをするようになり、そのまま正社員登用されてひきこもりを脱することができた。
でもこれはたまたま運が良かっただけだとおもっている。
実家に経済的余裕があったから一年の休息をとることができたけど、その余裕がなく無理して外に出ていたら心を壊していたかもしれない。
一念発起して受けたバイトの面接に落ちていたら意欲をなくしていたかもしれない。
正社員登用されていなかったらそのまま中年フリーターになっていたかもしれない。
いろんな「ラッキー」が重なっただけで今はそこそこ落ち着いた暮らしをできているけど、ほんの少し歯車がずれていたらぼくも『ルポ ひきこもり未満』に載る側だったかもしれない。
ひきこもりに対しては行政も対策を立てている。
が、あまり機能していない。
ひとつには、年齢制限を課していることがある。
せっかく支援制度があっても「二十代・三十代のひきこもりの人が対象」などと制限を設けてしまう。
まあ救いやすいほうから救うという考えもわからんでもないが、しかしより深刻なのは中高年のひきこもりのほうだ。
若ければ本人の意志次第でなんとかなることも多いが(その意志を奮いおこすのがたいへんなんだけど)、中高年の場合は本人の意志だけではどうにもならないことも多い。
正社員はもちろんアルバイトや派遣の職すらなかなか見つからない。周囲の目は厳しくなるどころか認知すらされなくなる。
ほんとはここにこそ行政が手を伸ばすべきなんだろうけど、成果が上がりづらいからか、放置されてしまう。
本人だけでなく、社会にとっても大きな損失なのだが。
『ルポ ひきこもり未満』に出てくる人の経歴を見ると、「たまたま運が悪かっただけ」の人も多いようにおもう。
たまたま最初に入った会社がブラック企業だった、たまたま直属の上司がパワハラ体質だった、たまたま会社の経営が傾いた。
本人の意思でどうにもならない事情が大きい。
もちろんどんな逆境でも乗りこえられるスキルや精神力を持った人もいるが、そんなのは少数派だ。
些細なきっかけでひきこもり生活に転落してしまう。そして一度道を外れると復帰するのはすごくむずかしい。
役所で非正規雇用をされている人の話。
非正規雇用を増やし、一人でやっていた仕事を二人で分ければ数字上の失業率は低下する。
だけど出せる金は限られているから一人あたりの給料は減る。
「ギリギリ生活できる人」を増やしたにすぎない。
公務員はどんどん非正規化されていっている。
政府が「失業率が下がった!」と喧伝するためだけに弱い立場の人が犠牲になっているのだ。
一億総活躍時代の実態は「みんなで貧しくなろう」だ。
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