エド・レジス『不死テクノロジー―科学がSFを超える日』
「最先端科学のさらに先をいく理論」の本。
「今の科学では実現不可能だけど、将来的にも不可能だとは立証されていないこと」に挑戦する科学者たちを紹介している。
サイエンス2割、伝記2割、SFが6割という感じ。
1993年に書かれた本だけど、内容はまったく古びていない。
なぜならこの本で予想されている未来は、まだぜんぜん実現していないから。
たとえば......。
作り方はこう。
小さなロボットを作る。
そのロボットには「自分と同じ動きをする、自分より小さなロボットを作る」というプログラムを組んでおく。
すると、ロボットがひとまわり小さなロボットを数体作り、そのロボットがもっと小さなロボットを数体作り……となって、ナノサイズの動きを制御できるロボットが大量にできあがる。
このロボットは分子単位の操作ができる。鉄を金にすることはできないが(原子が違うから)、炭素をダイヤモンドにすることは可能かもしれない(同じ炭素原子からできているから)。
分子を並び替えることによって、牛がいなくても牛肉がつくれる。
金属の分子を並び替えることによって車も宇宙船もつくれてしまう。
そうなると、生産のための労働は不要になる。
このナノロボットを使えば細胞レベルで治療ができるから、ガンもあっという間に治せる。
それどころではない。
人間を冷凍保存して、数万年後に解凍する。解凍時に破損した細胞はナノロボットで治せるから、未来旅行もできてしまうのだ。
おお。
バラ色の未来。
しかもこれってそう遠くない未来にできそうなことだよね。
ひょっとすると百年後には実用化してるんじゃないかっていう気もする(『不死テクノロジー』によると、もう未来での復活を信じて冷凍されている人はたくさんいるんだって。復活した人はまだいないみたいだけど)。
星新一ファンのぼくからすると「冷凍保存して未来の世界に生まれ変わったら、そこは現代よりもずっと退屈な世の中だった」というシナリオしかイメージできないけど……。
ただ、この本で描かれる未来の技術は、こんなもんじゃない。
SFだとしても「ありえない」ぐらいの未来を、本気で信じている人がいる。
「宇宙へ出ていって、コロニー(居住空間)をつくる」方法を模索している人たちの話。
なんて壮大なスケールの空想……。
「99.9999%失敗するだろ」としか思えない無謀な試み。
でも、その「0.0001%」に挑戦してきた人がいるからこそ、今、人類が宇宙に進出できてるわけだしね。
ライト兄弟が有人飛行に成功するまでは、「人間を乗せて空を飛ぶなんて理論上不可能だ」と科学者にすら思われていたそうだ。
そう考えると、宇宙コロニーもありえないことではないのかも。ひょっとするとあと百年くらいで形になっているのかもしれないね。
それにしても感心するのは、この本に出てくる科学者たちの、科学への全幅の信頼と、底抜けのポジティブさ。
「地球環境を守って住みよい地球にしよう」と皆が話しているときに、
「じゃあ地球なんて捨てて別の居住地を作っちゃえばいいじゃん!」という発想。
発想の次元がちがいますよね。
もう楽観的というか、傲慢というか......。
彼らからすると、地球は「ただ偶然に固まっただけの欠陥品」で、「現在のバージョンの太陽系はエネルギー効率が悪い」。
ぼくみたいな常識にとらわれたつまんない考えしかできない人間からすると、ただもう呆然とするばかり。
太陽を分子加速器の巨大なリングのなかに入れて絞りあげ、太陽を分解して必要なエネルギーを取りだそう、なんてアイデアが出てくるに及んでは、もう完全についていけない……。
そんな中、ぼくが「これはもうすぐ実現するんじゃないかと思ったのは、「心の転送」というアイデア。
人間の情報、思想、記憶なんてものはすべて情報だから、これらすべて読み取り、情報記憶装置に移すというもの。
人間の脳内のデータをすべてコンピュータに移植するってことだね。
こうすれば移動(転送)も容易なので、宇宙旅行もかんたん。死ぬこともないし、万が一のデータが消失してしまうという事態に備えてバックアップをとっておくこともできる。
これができれば、もう宇宙コロニーも必要なくなるよね。
一ヶ所にいながらにして何でもできちゃうんだから。
これはひょっとするとあと十年くらいでできちゃうんじゃないかな。
脳内で起こっていることを解析する研究はどんどん進められていってるし、データを保存するサーバーは今でもあるし。
いや、ひょっとするともう実現してるかも。
たとえば火星や金星には(我々が思うところの)生命体は存在しないけれど、たとえばただの電気信号だけの存在となって思考したりコミュニケーションをとったりしているやつらがいるとか……。
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