2018年1月23日火曜日

見事に的中している未来予想 / 藻谷 浩介『デフレの正体』

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『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』

藻谷 浩介

内容(e-honより)
「生産性の上昇で成長維持」という、マクロ論者の掛け声ほど愚かに聞こえるものはない。日本最大の問題は「二千年に一度の人口の波」だ。「景気さえ良くなれば大丈夫」という妄想が日本をダメにした。これが新常識、日本経済の真実。

2010年不況期に刊行された本だからちょっと古いんだけど、今読むと見事に著者が書いているとおりになっている。
生産性が上がって景気も良くなっているのにいっこうにモノは売れない、労働者の給与は上がらない。
失業率は下がって有効求人倍率は上がっているはずなのに、誰も景気の良さを実感できない。
それは生産人口が減っている上に、若い人に金がまわっていないから。

書いてあることがことごとく当たっていて、だから余計に陰鬱な気持ちになる。はぁ。
もう日本の状況が良くなることはないんだな。まあ日本だけじゃなくて遅かれ早かれ他の国も同じ道をたどるんだろうけど。

いろんな人が「景気さえよくなれば日本の経済は再びよくなる」って言ってるけど、この本を読めばそんなことはぜったいに起こりえないということがわかる。生産人口が減っている以上、もうどうしようもないのだと。
もしかしたら「景気さえよくなれば」って言ってるほうも、それが嘘だってわかってて言ってるのかもね。だって「もう何がどうなろうと日本の経済が以前のように回復することは100%ありません」って言うのはつらいもんね。たとえ逃れようのない真実であっても。
だから景気だとか失業率とか有効求人倍率とか、どうとでもできる(ということは意味がないということでもある)数字をあれこれ言って現実からみんなで目を背けているのかもね。

だって書いてあることは、景気が良くなっても状況は良くならない、日本製品が海外で売れても良くならない、子ども産んでも良くならない、って話だからね。
じゃあどうしたらええねんって思うでしょ。どうにもならないんですよ、これが。笑っちゃうよね。ははっ(乾いた笑い声)。


バブルの原因である地価の高騰について。

 ただ、顧客の中心がわずか三年間に出生の集中している団塊世代である以上、需要の盛り上がりは短期的であることが本当は明らかでした。ところが当時の住宅業界、不動産業界、建設業界は何と考えたか。「景気がいいから住宅が売れている」と考えたのです。こういう発想ですから、「このまま景気が良ければ、いくらでも住宅は売れ続ける」という考えになってしまいます。でも実際には逆で、「団塊世代が平均四人兄弟で、かつ親を故郷に置いて大都市に出てきている層が多いため、一時的ながら大都市周辺での住宅需要が極めて旺盛になり、その波及効果で景気が良くなった」ということでした。日本史上最も数の多い団塊世代が住宅を買い終わってしまえば、日本史上二度と同じレベルの住宅需要が発生することはないわけです。そこに、住宅の過剰供給、「住宅バブル」が発生します。
 つまり住宅市場、土地市場の活況は、最初は団塊世代の実需に基づくものであってバブルではありませんでした。ところが日本人のほとんどが住宅市場の活況の要因を「人口の波」ではなく「景気の波」であると勘違いしたために、住宅供給を適当なところで打ち止めにすることができず、結果として過剰供給=バブルが発生してしまいました。その先には値崩れ=バブル崩壊が待っていたわけです。

ということはもう二度とバブル期のような伸びはこないんだよね。これから一組の夫婦が十人ぐらい子どもを産んで爆発的に人口が増えて、老人だけが死ぬ伝染病が大流行でもしないかぎり(もしそうなっても経済の伸びがやってくるのは数十年後だけど)。


一応、対策も書いてある。こうやったらまだマシですよ、という施策が。
ひとつは、女性の雇用を増やすこと。でもそれって達成できたとしても一時的な解決であって、人口が減っている以上根本的な解決にはならないよね。
ひとつは、外国人旅行者に使ってもらうお金を増やすこと。これはわりと達成できつつあるよね。
ひとつは、財産を老人から若い人に移すこと。これはクーデターでも起こらないかぎり不可能でしょう。

はー、つらい。読めば読むほど日本の状況って八方塞がりなんだと気が付かされる。政治が悪いとかそういう話だったらまだよかったんだけどね。それだったらまだ改善の見込みがあるから。
いやでもほんとに革命政権が実権握って〇歳以上は全員死なす、とかしないかぎりどうにもならないんだろうね。どっちにしろぼくらみたいな中年に明るい未来はないね。
もうしょうがない。みんなで老人の介護しながらゆっくり滅んでいきましょう。



著者の藻谷さんって頭いい人なんだろうなあ、と思う。ほんでほんとのことをビシバシ言ってすぐに敵をつくっちゃうんだろうなあ、とも。

いかに自分が正しいと思いこんでいることがいいかげんか、ということに気づかされる。
「女性の社会進出が進むと少子化が加速するんじゃないか」という話、聞いたことありませんか?
ありそうな話ですよね。ぼくも直感的にそう思う。

 それではお聞きしますが、日本で一番出生率が低い都道府県はどこでしょう。東京都ですね。それでは東京都は、女性の就労率が高い都道府県だと思いますか。低いと思いますか。高いと思いがちですよね、でも事実は違います。東京は通勤距離が長い上に金持ちが多いので、全国の中でも特に専業主婦の率が高い都道府県なのです。逆に日本屈指に出生率の高い福井県や島根県、山形県などでは、女性就労率も全国屈指に高いのですよ。
 同じくお聞きしますが、専業主婦の家庭と共働きの家庭と、平均すればどちらの家庭の方が子供が多いでしょう。これまた専業主婦で子沢山という、ドラマに出てくるような例を思い描いてそれが全体の代表であるように考えてしまう人がいるでしょうが、事実は違います。共働き家庭の方が子供の数の平均は多いのです。

へえ。
たしかに昔は「専業主婦ほど子だくさん」だったんだろうね。というか子どもが生まれたら専業主婦になる人のほうが多かったわけだから。
でも今は経済的に恵まれている人のほうが子どもを持てるんだろうね。あと働いていると保育園に預けられるからつきっきりで面倒みなくていい、ってのも大きいかもしれない。これは人によると思うけど「大人とほとんど話すことなくずっと子どもの面倒みてる」ってのをきついと思う人も少なくないだろうからね。


2010年の本だけどおもしろかった。ひょっとすると当時読むより今読むほうがおもしろいかもしれない。「怖いぐらい当たってる……!」って思えるから。
そして当時よりもっと状況が悪くなっていることに気づいて慄然とするから……。



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