谷岡 一郎 『「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ』
著者はめんどくさい人だなあ、というのが第一の感想。あたりかまわず正論をふりかざす正義感に燃えた中学生みたいな人だから、身近にいる人は迷惑してるだろうなあ。ま、それはそれとして本の内容はおもしろい(困った人だからこそ、かもしれない)。
これは2000年発刊の本だが、今でもメディアが報じる社会調査の質は変わっていない。
統計や分析の仕方をまったく知らない。あるいは、知っていてわざと誤った解釈をする。
この本で紹介されている、新聞や研究機関にはびこるさまざまな「社会調査のウソ」の例をいくつか……。
◆データをもとに、誤った解釈を導きだす。
(例:「ジャンクフードを食べる頻度が多い子は非行に走りやすい」というデータから、ファストフードやスナック菓子は「キレやすくなる食事」だと決めつける。実際はおそらく、育児に無関心な親がジャンクフードを子どもに食べさせているだけで、そういう子が非行に走りやすいのは当然のことだ)
◆データがそもそも誤っている。
(例:選挙の1年後に「誰に投票しましたか」と訊ねると、当選した人に入れたと答える人が7割。ところが1年前の実際の得票率は、有権者数の3割程度。人はすぐ忘れるし、かんたんに嘘をつく)
◆結論ありきで調査をする
(「中学生の4割がナイフやエアガンを所持していた」という新聞記事。調べてみると、平日に繁華街で調査をしている。部活にも塾にも行かずに平日に繁華街にいる中学生を対象に調査しているわけだから、「今の中学生は怖い」という結論を出すために調査をしている)
◆ある方向に誘導するための質問の工夫をしている
(「自衛隊は必要だと思いますか」という質問の前段階として「自衛隊の平和活動は海外でも評価されていますが……」といった説明を混ぜる)
単なる無知、調査不足、意図的な嘘、嘘とはいえないまでも作為的なデータのとりかた……。
原因はさまざまだが、メディアの中には嘘が満ち満ちている。
これをもってして、
「報道機関は腐っている」
「これだからマスゴミは」
と断じるのはたやすい。
でも、「純真なおれたちを騙すなんて!」と憤るのは、大人と子どもの境のお年頃の中学生ならいざ知らず、いい大人としてはあまりにもお人好しすぎる。
人間が意図をもって企画、集計、発表をしている以上、何のバイアスもかからない中立公正な調査などというものは存在しない。
NHKだって研究機関だって省庁だって、自分のところが非難されるような調査結果が出たら、そっとふたをするか、せいぜい無難な形にデータを切り貼りしてから発表するかぐらいだろう。
それがまともな人間のやることだ。
イエス・キリストは言いました。
「今までに過ちを犯したことのないものだけが、この盗人の女に石を投げなさい」と。
データそのものの改竄は論外としても、ある情報から都合のいい解釈を導きだすことは、やってあたりまえだと思っておいたほうがいい。
今の日本のマスコミが堕落しているとは思わない。どの時代の、どの国のメディアだってやっているに決まっている。
恥ずべきは、歪んだ調査結果を出す研究機関ではなく、稚拙なデータ集計に騙される己なんじゃないだろうか。
歪められたデータから、本来あった姿を想像することのできない自らなんじゃないだろうか。
「情報操作を糾弾するのではなく、自分だけが騙されないようにする」
それがいちばんの得策。
賢い人はとっくに知っているかもしれませんが。
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