2022年3月3日木曜日

【コント】少年サッカーチームのお手本

「いや、見事なプレイでしたね」

「ありがとうございます!」

「今日はいつにも増して精彩を放っていたように見えましたが」

「そうですね、今日はぼくが支援している少年サッカーチームを客席に招待していたので、子どもたちにかっこ悪いところは見せられないとおもっていつもより気合が入りました!」

「なるほど、そうでしたか。子どもたちにもハナカミ選手のプレイはしっかり届いたとおもいますよ」

「ありがとうございます! おーい、ジュニアチームのみんなー! やったぞー!」

「特に前半二十四分のフリーキックにうまく頭をあわせたシーン」

「あれは自分でも会心のシュートでした」

「シュート直前に相手チームのユニフォームをがっしりつかんで離しませんでしたよね」

「えっ」

「ユニフォームの裾をひっぱることで相手がジャンプするのを見事に妨害していました」

「えっ、いや」

「あれはやはり日頃から練習を重ねていたんですか」

「いや、練習っていうか、とっさに」

「なるほど。とっさに手が出てしまったということですね。非常にラフなプレイでした」

「……」

「それから後半開始直後。相手のスライディングによって転倒したシーン」

「あれはヒヤッとしました」

「そうですね。でも当たらなくてよかったですね。スロー映像で確認したところ相手の足はまったく当たっていませんでした」

「えっ、そうでしたっけ」

「ですがその直後の大げさに痛がるシーン、あれは見事でした。まるで当たったかのように見えました(笑)」

「大げさにっていうか、実際に痛かったし……」

「ははあ、自分自身も騙されるほどの演技だったということですね。やはりああいった演技は普段からイメージしているのでしょうか」

「演技っていうとアレですけど、まあ誰しもやっていることですので」

「そうでしたか。『みんながやっていることだったらフェアじゃないプレイでもやってもかまわない』というハナカミ選手のメッセージ、しっかり子どもたちに届いたとおもいます!」

「いやそんな意識はないんですが……」

「そして最後にロスタイムに大きくボールを外に蹴りだしたシーン。あれは見事な時間稼ぎでした」

「時間稼ぎっていうとアレですけど、あれも戦術っていうか」

「最後まで手を抜かない、勝利のためならどんな手も使う、勝利への執着。ハナカミ選手のひたむきなプレイ、プロを目指す子どもたちにも刺激になったんじゃないでしょうか」

「ですかね……」

「では最後に、ハナカミ選手から、客席にいる少年サッカーチームの子どもたちにメッセージをお願いします!」

「ええと、あの、ぼくみたいな薄汚れた大人にならないでください……」



2022年3月2日水曜日

動物キャラクター界群雄割拠

 各動物ごとの、国内知名度1位動物キャラクターについて考えてみた。


ネズミ

 これはもうミッキーマウスで決まり。異存はあるまい。

「某ネズミのキャラクター」といえば誰もがミッキーマウスを思い浮かべるぐらいに圧倒的なパワーを持っている(版権の厳しさをネタにされるから、ってのもあるけど)。

 ジェリー(『トムとジェリー』)、ぐりとぐら、メイシー、ねずみくん(『ねずみくんのチョッキ』シリーズ)などはとうてい足下にも及ばない。

 1位がミッキーマウス、2位がミニーマウス。この座は揺るがない。唯一善戦できるとしたらピカチュウぐらいか。あいつをネズミと見なしていいのであればだけど。

 

イヌ

 これまた世界に通用するキャラクター・スヌーピーが圧倒的知名度を誇る。主役じゃないのにこの知名度。「主役じゃないのに主役よりはるかに有名ランキング」があるとすれば、これまたスヌーピーが上位にくるだろう(ピカチュウと一、二位を争うぐらい)。

 犬のキャラクターで他におもいつくのは、プルート、グーフィー、ポムポムプリン、シロ(『クレヨンしんちゃん』)など。どれもぱっとしない。イヌってペットの定番なのに、なぜかキャラクターとしてはあまりかわいいやつがいない(愛らしいのってリトル・チャロぐらいでは?)。ケンケン(『チキチキマシン猛レース』)とかイギー(『ジョジョの奇妙な冒険』)とか、かわいくないどころか憎らしいもんな。

 ちなみに小さい子がいる家庭に限ればワンワン(『いないいないばあっ!』)が1位になりそうな気もするが、あいつはほぼ人間だからな……。


ネコ

 ダントツ有名なのはハローキティだろう。やつの強みは、誰とでも寝る節操のなさ 何とでもコラボする社交性の高さ。

 しかしネコのキャラクターってたくさんあるようで、案外思い浮かばない。ジジ(『魔女の宅急便』)、トム(『トムとジェリー』)、タマ(『サザエさん』)、タマ(『うちのタマ知りませんか』)、ねこ(『すみっコぐらし』)、トロ(『どこでもいっしょ』)……。意外と地味だな。
 化け猫のイメージがあるからか、なぜか妖怪化したやつが多いのがネコキャラの特徴。ジバニャンとかネコバスとかひこにゃんとか。


クマ

 日常的になじみのない猛獣でありながら、なぜかキャラクター界では絶大な人気を誇るクマ。

 プーさん、くまモン、ダッフィー、リラックマ、パディントン、ジャッキーなど人気者がひしめきあう。知名度ではプーさんが圧倒的人気だったが、ここ数年でいえばくまモンがそれを抜いたかもしれない。とはいえひこにゃん人気があっという間についえたように、くまモンの人気もいつまで続くかわからない。まだまだクマキャラクター争いからは目が離せない。


ウサギ

 1位はやはりミッフィーか。本名ナインチェ・プラウス、過去の名はうさこちゃん、と複数の名を持つキャラクターだ。本名でない名前がここまで広まっているのはミッフィーくらいのものだろう。

 かわいくないやつが多いイヌ界とはちがい、マイメロディ、ピーターラビットなど、ウサギのキャラクターはただ純粋にかわいらしいやつが多い(ピーターラビットは性格がかわいくないけど)。
 かわいくないウサギキャラといえば……ウサビッチぐらいかな。


トラ

 寅年なのでトラのキャラクターを考えてみたが、しまじろう、ティガー(『くまのプーさん』)、トニー(コーンフロスティ)あたりが横一線で並んでいて、「トラといえばこれ!」というほどの知名度のあるキャラがいない。しかもどれもあんまりかわいくない。

 これから動物キャラをつくるのであれば、トラはねらい目じゃないですかね。トラの赤ちゃんはかわいいし。



2022年3月1日火曜日

【読書感想文】北尾 トロ『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』

ぼくはオンライン古本屋のおやじさん

北尾 トロ

内容(e-honより)
ここ数年で急激に増えているネット古書店。たった一人でサイドビジネスとして始める人、従来の古本屋さんのネット進出、さらには脱サラ独立組みもいて、活況を呈している。開業のための講座も人気だ。著者はライター稼業から、ネット古書店・杉並北尾堂を始めてしまったのだ。具体的なノウハウはもちろん、日々の楽しみなどを綴る。

 まだインターネットといえば個人ホームページが中心だった時代(1999年)に、ネット古書店を立ち上げた著者のルポルタージュ。北尾トロさんといえば裁判傍聴の人(『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』)というイメージだったのだが、それ以前はこんな活動もしていたのか。

 この本では「ネット古書店の作り方・運用の方法」を懇切丁寧に書いてくれているのだが、残念ながらここに書かれていることは今となってはまったく役に立たない。なぜなら、インターネットの世界がこの二十年でまったく様変わりしてしまったから。

 なにしろ、書かれているのが個人ホームページの作り方。それも、アクセスカウンターを設置とか、掲示板を作るとか、リンク集ページを作って相互リンクを貼ってもらうとか。ああ、なつかしいなあ。ぼくがかつて作っていた大喜利ホームページ(2004~2010年ぐらい)もまさにこんなんだった。この頃はまだこれで人を呼べたんだよなあ。インターネットのつながりっていっても口コミの延長みたいなもんだった。

 この頃って、まだインターネットは個人のものだったんだよね。企業はホームページを持っていない会社も多かったし、持っていても「とりあえず作っておくか」ぐらいの気持ちだったのでWeb上で集客をしたり販促をしたりというのはあまり本気で考えてなかったんじゃないかな。

 楽天市場ができたのが1997年、Amazonの日本向けサイトAmazon.co.jpが誕生したのが2000年11月。まだまだ「インターネットで本を買う」のがめずらしかったどころかほとんど誰も知らなかった時代だ。

 北尾トロさんが作ったネット古書店「杉並北尾堂」は、かなり先駆け的存在だった。当然ながらWeb決済なんて影も形もなかった時代ので、注文はメール、決済は郵便為替。メールで注文して、入金方法や発送方法はメールでやりとり。今から見ると、ずいぶんのどかな時代だ。

 Web広告もSEOも存在しない。なんせGoogle日本版がサービス開始したのが2000年。「検索する」という行為すら一般的でなく、Yahoo!のようなポータルサイトからリンクをたどってWebサイトを見つけなくてはならない時代だった。

 だからこの本に書かれている集客方法は「有名サイトにリンクを貼ってもらって集客しよう」。インターネット自体がこぢんまりとしたコミュニティだったのだ。ああなつかしい。


 懐古しだすときりがないのでこのへんにしておくが、とにかく「杉並北尾堂」がそれなりの集客をできて、スタートしてすぐにある程度の売上を確保できていたのは、「インターネットで商売をやる」がまだめずらしかった時代だからだ。当然ながら今このやりかをまねても、一ヶ月で一冊も売れないとおもう。それどころかほとんど誰もやってこない。

 今はどうなっているんだろうと「杉並北尾堂」を検索してみたが、やはりというべきか、跡形もなかった。当時北尾トロ氏がやっていたブログは見つかったが、店へのリンクは当然ながらリンク切れ。

 Amazonや楽天やマーケットプレイスに飲みこまれ、個人古書店サイトが生き残る余地などなくなってしまったのだ。寂しいことだ。

 だが、古本屋自体は今の時代も健在。大きい街には古本屋は存在するし、Amazonなどのサービスを使ってオンラインで売上を立てている古本屋も多い。「個人ホームページで売る」という販売形態が立ちいかなくなっただけで、ビジネス自体は衰えていない。まあ楽な商売ではないだろうけど。

 結局、始めやすいものは終わりやすいんだな、ということをつくづく思い知らされる。

 毎年毎年「これからは〇〇で副業の時代!」と次々に新しいサービスが生まれるが、その中で十年後も同じように稼げる仕事がいくつあるだろうか。うまくいかないものは消えるし、うまくいくものには大手資本が参入してきて競争力を持たない個人は駆逐される。
「〇〇でかんたん副業」は、趣味程度に考えておいた方がよさそうだね。




 やってみてわかったのは、こんな本が売れるのかと半信半疑でアップしたものは、よく売れることである。どんな古本が売れるかを一般論で考えてはいけない、逆だ。一般性がないものだから新刊で売れず、すぐ絶版になり、ずっと探し続ける読者がいるのである。本好きをナメてはいけないのだ。彼らの懐はぼくなど及びもつかないほど深い。

 なるほどなー。
 たしかに素人考えだと、人気作家の本やベストセラーのほうがよく売れるだろうとおもってしまうが、そんな本はブックオフにもあるし新刊書店でも買える。わざわざオンライン古本屋で買う必要がない。

「こんなの誰が買うんだ」とおもうような本は新刊書店からはすぐに姿を消し、市場に多く出まわっていないから古本屋でもなかなか見つからない。

 そういやぼくがはじめてインターネットで買い物をしたのもたしか星新一の絶版になっていたエッセイ集だった。ショートショートはどこでも買えるけど、エッセイは需要が少ないので見つからなかったのだ。

 今でこそネットでものを買うのはあたりまえだが、当時はごく一部の人だけの行為だった。一般的じゃない人が一般的じゃない方法で買うんだから、そりゃあ世間一般のトレンドとはちがうよなあ。

 人気のないもののほうがよく売れる、というのはおもしろい(もちろんまったく人気がないものはダメだろうけど)。




 古本屋は大好きな商売だけど、好きだからこそ古本屋ごときに必死になりたくないという気持ちがぼくにはある。せめて古本屋ぐらいは儲けた損したなんて二の次でいたい。なぜなら、オンライン古本屋になることは、ぼくがようやく見つけた余計なことはみんな忘れて熱中できる仕事』なのだ。大切にしないとバチがあたると、甘いのは承知でそう思う。

 この気持ちはよくわかる。

 ぼくはこうして読書感想文を書いている。ほんのわずかながら広告料も入ってくる(といっても年間で本を一冊買えるぐらいなので大赤字だが)。

 いろんな本の感想文を書いているうちに、どんな本の感想を書けばページビュー数を稼げるかはわかってきた。出てまもない本、話題の本、コミック、タレント本。要するに「多くの人が読む本」だ。

 そういう本の感想を書けば、アクセス数は稼げるだろう。人気作家の本を発売日当日に読んで誰よりも早く感想をアップすれば、ひょっとすると広告費が増えて黒字化できるかもしれない。

 でも、それをやると「いやいややる仕事」になってしまう。ぼくは読書感想文を書くのが好きだからこそ、必死になりたくない。市場を読んだり仮説を立てたり成果を検証したり利益を増やすために努力したり、そんなのは仕事だけで十分だ。わざわざ読書感想文を嫌いになることはない。




 ほんとはぼくも、こんなふうに好きなことを仕事にして生きていきたい。たとえ月の収益が数万円でも。

 でもぼくにはそういう生き方はできない。「なんとかなるさ」ではなく「どうにもならなくなるかもしれない」と悲観的に考えてしまう人間なので。

 だから筆者が古本屋稼業を楽しんでいる姿を読むだけでも愉しい。

 でも「その後オンライン古本屋がどうなったか」を知っているものとしては、読んでいて胸が痛む。

 文庫版(2005年)のあとがきより。 

 一方、アマゾンでは自分で値段がつけられる。しかも、新刊書との値段の比較になるので、どこにでもありそうな本でも、よく売れるという。そのためか、仕入れに混じる不要本だけをアマゾンで売る古本屋はかなりいる。ブックオフに代わる本の処分法として、これはこれで悪くないと思う。
 じゃあなぜやらないかと言えば、価格競争で消耗したくないからだ。アマゾンでは各店の値段が一目瞭然だから、安いものから売れていく。使用するデータは共通で、他にライバルがいたら値段の勝負になるわけだ。
(中略)
 そんなことが繰り返されれば、やがてはオンラインの古本屋はアマゾンがあればいいってことにもなりかねない。売り上げを伸ばすための参入が、めぐりめぐって店の存続をおびやかすことになるかもしれないのだ。最後に笑うのは、参加費と手数料で儲けるアマゾンだけ? うーん、それじゃあ哀しい気がする。 「ぼくとしては個人も業者も入り乱れた土俵には上がらず、なるべくマイペースで店をやっていきたいと思っている。

 著者の懸念である「やがてはオンラインの古本屋はアマゾンがあればいいってことにもなりかねない」がまさに現実化したのが今の状況だ。寂しいことだ。アマゾンヘビーユーザーのぼくがいうのもなんだけど。

 オンライン古本屋だけでなく、あの頃はまだ「インターネットをうまく使えば無名の個人でもすごいことできる」という夢が十分現実的だった時代だったな。じっさいうまくやってた人もいたし。 

 でも誰もがPCやスマホを使うようになると、結局は大手資本と著名人が人の流れを寡占してしまうようになった。ああ、せちがらいぜ。


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古本屋の店主になりたい

本の交換会



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2022年2月28日月曜日

1~3歳が好きな絵本

 次女(現・3歳)が1~3歳のときに好きだった絵本。


もいもい

 幼児教育の研究者が実験をおこなった結果、もっとも多くの赤ちゃんを引き付けたという触れ込みの絵本。長女のために買ったのだが長女はあまり食いつかなかった。が、次女が1歳ぐらいのときは大好きだった。誰にでもウケるわけではないようだ。そりゃそうか。

「もーい、もい」「もももい、もい」「もいもい まいまい むいむい」といった意味のない音が並んでいるだけだが、読むたびに次女はにこにこ笑っていた。よく長女が次女のために読んであげていた。


ノンタンシリーズ

 1976年に第1作が発表されてから、今なお日本中の子どもたちに愛される大人気シリーズ。正直、後半の話は微妙なものが多いが(→ 【読書感想文】ノンタンシリーズ最大の異色作 / キヨノサチコ『ノンタン テッテケむしむし』)、初期の作品は子ども受けがいい。

 次女が特に好きだったのは『ノンタンおやすみなさい』。はじめて何度も読んでくれとせがんできたのはこの絵本だった。はじめは図書館で借りたのだが、あまりに気に入ったので購入。毎日毎日くりかえし読まされ、次女は文章をおぼえてまだろくにしゃべれないのに「やーめたやめた、かくれんぼやーめた」といっしょに言っていた。

 さすがロングセラー絵本。何十年たっても子どもを引きつける。ちなみにぼくも子どもの頃この絵本を好きだったらしい。


わにわにシリーズ

 これは大人が読んでもおもしろい。
 何作かあるが、基本的に登場人物はわにわにただひとり(『わにわにとあかわに』だけはもうひとり出てくるが)。わにわにが風呂に入ったり、けがをしたり、お祭りに行ったりするだけである。当然ながら会話もない。ひとりで風呂で歌うぐらいだ。

 しゃれたセリフもなければ、奇をてらった行動もない。なのに妙にユーモラス。ふしぎな味わいだ。わにわにがひとりでの生活を満喫するだけなのだが。『孤独のグルメ』にもちょっと似ている。


たいこ

 きもかわいいキャラクターが次々に出てきて、ただたいこを叩くだけ。説明もなければ、台詞もほぼない。擬音語と叫び声しか出てこない。なのにちゃんと起承転結がある。

 これはたぶんほとんどの子どもがおもしろがるんじゃないかな。大人でも楽しい。


あきらがあけてあげるから

 21世紀の大人気絵本作家・ヨシタケシンスケさんの作品。この人の絵本は抽象的な概念を扱ったりするのでちょっと大きい子向けのものが多いが、次女は妙にこの絵本が大好き。

 三歳児が読むにはちょっと内容がむずかしいとおもうのだが、毎晩「『あきらがあけてあげるから』よんでー」と持ってくる。
 毎回あきらが包み紙を開けられなくて暴れるところで笑い、家を開けるところで「ねてたのにー。トイレ行ってたのにー」と喜び、地球を開けるところで「うちゅう!」と叫ぶ。

 ヨシタケシンスケさんの絵本は何冊か持っているが、この人はお話を広げるのがほんとにうまい。些細なこと(この本だと「チョコの包み紙を開けられない」)からだんだん発想を飛躍していって、最終的には家を開けたり地球を開けたりする。だがエスカレートさせるだけでは終わらず、いったんクールダウンしてから最後にほのぼのするオチを持ってくる。話の運びがうまい。上質な落語を聴いているよう。

『なつみはなんにでもなれる』もおもしろい。次女はどちらも大好きだ。

 大人が読んでもおもしろいんだけど、『あきらがあけてあげるから』に出てくる「ぜんぶひとりであけられるようになったら、もうおとうさんはいらなくなっちゃうかもしれないだろ?」は読むたびに切なくなってしまう。



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2022年2月25日金曜日

いちぶんがく その11

ルール


■ 本の中から一文だけを抜き出す

■ 一文だけでも味わい深い文を選出。




女は、その暗がりのなかで、暗がりよりももっと暗かった。

(安部 公房『砂の女』より)





テレビという生き物が、死ぬ音が聞こえた。

(朝井 リョウ『世にも奇妙な君物語』より)





彼女の横に並んだとたん、私もあの中学男達と同様に、腐ったジャガイモになるのだ。

(さくらももこ『たいのおかしら』より)





「俺はおまえら日本人のことを、時々どいつもこいつもぶっ殺してやりたくなるよ」

(金城 一紀『GO』より)





噴火のごとく怒り、噴石のごとく吼えている。

(横山 秀夫『ノースライト』より)





「恥の出所まで答えなきゃならないんですか?」

(湊 かなえ『花の鎖』より)





姉は鼻が大きいせいか、生乾きや嫌な匂いにとても敏感です。

 (阿佐ヶ谷姉妹『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』より)





絶滅の危機に瀕している本が私に集められるのを待っているのだ。

(鹿島 茂『子供より古書が大事と思いたい』より)





「俺は、殺人そのものにしか興味はない」

(今野 敏『ST 警視庁科学特捜班』より)





『現実世界なんかバカだ』とディジエントは宣言した。

(テッド チャン『息吹』より)




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