2026年4月20日月曜日

【読書感想文】山里 亮太『天才はあきらめた』 / 努力の天才

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天才はあきらめた

山里 亮太

内容(e-honより)
「自分は天才にはなれない」。そう悟った日から、地獄のような努力がはじまった。 嫉妬の化け物・南海キャンディーズ山里は、どんなに悔しいことがあっても、それをガソリンにして今日も爆走する。 コンビ不仲という暗黒時代を乗り越え再挑戦したM-1グランプリ。そして単独ライブ。 その舞台でようやく見つけた景色とは――。 2006年に発売された『天才になりたい』を本人が全ページにわたり徹底的に大改稿、新しいエピソードを加筆して、まさかの文庫化! 格好悪いこと、情けないことも全て書いた、芸人の魂の記録。

 漫才コンビ・南海キャンディーズの山里亮太さんによる自叙伝的エッセイ。

 文章はちょっと読みにくいが(半端に技巧を凝らしてるせいで文章が上滑りしている。こういう自叙伝みたいなのは飾らない文章でいいんだけどな)、内容はおもしろかった。

 己の醜い部分、思い悩んだこと、芸人としてかっこよくない面もつまびらかにしている。後からふりかえって書いているので当時の本心とはちがう部分もあるかもしれないけど。



 山里さんはかなり早い段階で「自分は天才じゃない」と悟ったらしい。

 ここでの天才とは、「打算や戦略などとは無縁で、自分がやりたいことをやっているだけで周囲から高く評価されるような芸人」だ(はたしてそんな人がほんとにいるのかわからないが)。

 ここが、天才の方々と凡才の僕の大きな違い。天才は、計算などせずに自然とやったこと・言ったことを、周りが勝手に「特別だ」とか「変わっている」と思う。そういうものだ。
 それに対して僕は、周りに「特別だ」と意識させるように仕向けて、自分をそこに追い込んでいく。
 芸人は数々のエピソードを持っている、それは普通だったら出会えないようなことしないようなことばかり。その中にも天才と凡人の違いがある。だけどそれはエピソードのすごさ……ではなく、意識の有無だと僕は思っている。
 僕は奇抜なことをしようと思ってする。一方、天才は、したことが奇抜ととらえられる。ここは埋められない大きな差である。しかしこの二つとも、見ている人には同じ「奇抜なことをしている人」になる。
 そこで僕の中で重要になってくることが一つあった。それは、「凡人が奇抜なことをしようとしている」と見せないように努力をすることだった。
 こういうことは言うと恥ずかしいことかもしれない。でも努力することによって得るものは相当大きい。得るものとは「おもしろい」「何者かである」と思われるということ。
 僕は見せない努力をすることと同時に、偽りの天才としての士気の上げ方を覚えた。例えば頑張って何か奇抜なことをしたときに、自分があたかもそれを無意識にやったかのように自分で自分を褒めるのだ。「いやぁ、よくこんなことやったね! 普通はこんなことやらないよ! すごいね俺」といった感じで、自分が特殊だと思い込ませた。
 人からその奇抜さを言われたときは「え?」みたいな顔をして、僕は当然だと思うけどみんなは違うの? って感じを出した。本当は全然当然だと思っていないし、頑張っただけなのに。

 この気持ち、痛いほどよくわかる。ぼくも学生の頃はなんとかして「特殊な自分」を演出しようとしていた。あえて人がやらないことをする。「やっぱおまえ変わってるな」と言われるたびに(それって褒められているわけじゃなくて呆れられたりばかにされたりしていたんだろうけど)気を良くし、ますます「変わり者」であろうとする。

 そうやって「人とはちがう特別な自分」を築こうと必死になっていた。

 ぼくはなんだかんだで三十歳ぐらいまで「自分が天才である可能性」を捨てきれなかったけど、山里さんはもっと早めに自分が天才でないことに気づき、天才でないからこその戦い方に舵を切った。そのおかげで芸人として成功することができた。



 成功する芸人はほとんどみんなそれぞれ才能を持っている人だけど、見ていると
「芸人という職業があってよかったな。他の道に進んでいたらどうしようもない人生を送っていたかもしれないな」
とおもわせる人と、
「この人はどの道に進んでもある程度成功していただろうな」
とおもわせる人がいる。

 山里さんは後者だ。もちろん芸人としても大成功している人だけど、ひょっとしたら別の道ならさらに大きな成功を手に入れていたかもしれない。なぜなら、表舞台に立つ芸人でありながら、しっかりと裏方の視点を持っているから。


 ドキュメンタリー風のテレビ番組のオーディションを受けることになったときの話。

 僕は決めた。「ぶつかろう」と。富男君を呼び出し、こう伝えた。
「富男君はお笑いをなめている人になって」
 対する僕は「お客さんあってのお笑い芸人」という、完全に良い人の役割をとると宣言した。
 そしてオーディション用のコメントの返答例を書いたものを渡した。その紙の内容は、
(あなたにとってお笑いとは?的な質問に対して)簡単です。喋ってるだけで金がもらえる
(相方について聞かれたら?)まじめすぎる。お笑いなんて一生懸命やったら笑えない
※ 全体的に巻き舌な感じ
というよくわからない注釈もついていた。
 これを使って練習をし、オーディション対策用の台本も書いた。

「どう振る舞ったら制作者は使いたくなるか」を分析して、適切な対策を立て、制作者が求めている通りに振る舞う。

 なるほど、これは制作者としては使いたくなるだろう。やらせを命じなくても、忖度して勝手に要望に応えてくれるのだから。これならやらせじゃない。でもやらせと同じ結果が得られる。


 よく政治家が汚職なんかをしたときに「秘書が勝手にやった」と弁明するけど、あれは言い訳じゃなくてほんとに秘書が勝手にやっていることもあるという。

 ほんとに優秀な秘書というのは「お金を出してくれる人がいるんですけどもらっておきましょうか」なんて確認したりしない。確認した上でお金を受け取ったら政治家も共犯になってしまうから。だから有能な秘書は許可をとらずに勝手に動く。政治家のほうもほんとはわかっているけど、これなら「知らなかった。秘書が勝手にやった」という言い訳がぎりぎり成立する。かぎりなくクロに近くても検察は起訴できない。

 山里さんは政治家秘書になっていたとしても優秀だっただろうね。



 この本を読んでいておもうのは、山里さんはつくづく策略家だということだ。視野が広く、先を読む力があり、リサーチ力も高く、行動力もすごい。会社員や経営者としても成功していた可能性が高い。

「お客さんの反応を見ながら1本の漫才を何百回もマイナーチェンジさせてブラッシュアップしていった」なんて話が出てくるが、まあこれをやっている漫才師は他にもいるだろう。

 山里さんがすごいのは、それが舞台の上だけにとどまらないこと。


 たとえば、しずちゃんを相方にしようと考えたときのこと。周囲から情報を集めてしずちゃんの好きなものを徹底的に調べあげ、それについて学習し、さも自分も前から好きだったかのように話すことで「ほら俺たちってこんなに価値観が合うんだよね」と思わせようとした、なんて話が出てくる。

 すごい。一歩まちがえばストーカーだ。でもここまでやるからこそ成功するのだろう。漫才師としてネタがおもしろいのはあたりまえ、それにプラスして舞台を降りてからも売れるための最短距離を見据えている。

 はじめてM-1グランプリに出たときの回想。

 正直に言うと、僕らはもともと優勝なんて大それたことは考えていなかった。見てる人の記憶に残したいというのが一番の目標だった。
 見てる人とは、もちろん視聴者の方や審査員の方々というのもあるが、正直それと同くらい見て欲しかったのは、テレビを作っている人たちだった。南海キャンディーズという名前をテレビの企画会議で出したくなるようなネタを、という思い、それが2本目のネタを決めた。
 2本目のネタは、しずちゃんがMCの女性タレントに喧嘩を売るというネタだった。賞がかかった大会でこういうネタは嫌われるのはわかっていた。でもあの時点で一番自分たちをわかってもらえ、そして優勝より売れることに直結するのはあのネタだと僕は考えていた。

 M-1グランプリといえば、若手漫才師にとっては最高峰の大会。ほとんどの芸人がそこで優勝することを目標に戦っている中、山里さんはその先を見ている。

 たしかにあの大会(2004年)はアンタッチャブルが圧倒的な力で優勝をしたので、南海キャンディーズが他のネタをやっていたとしても優勝できなかっただろう。だったら1本目よりスケールダウンしたネタを披露するより、審査員からは評価されなくてもテレビマンが「バラエティで使いやすそうだ」と感じるネタを披露したほうがいい。理論的にはたしかにその通りなんだけど、現場にいるとなかなかそう思えないよなあ。

 甲子園で、チームの勝利よりもスカウトの目に留まることを優先してプレーするようなもの。良くも悪くもプロフェッショナルな思考をしている。



 読んでいておもうのは、山里さんは努力の天才だということ。

 目標に向かって戦略を立て、試行錯誤しながら努力の方法を修正し、負の感情を自らを奮い立たせるエネルギーに変換し、褒め言葉はそのまま栄養に変え、自らをおだて、自分を戒め、あの手この手で努力を継続する。自分にも厳しいし、他人にも厳しい。

 これを天才と呼ばずしてなんと呼ぼうか。


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