人類の足跡10万年全史
スティーヴン・オッペンハイマー(著) 仲村明子(訳)
人類がアフリカで誕生した後、どのように世界に広がっていったのかを、考古学的、遺伝的証拠から解き明かした本。
とても丁寧……なのはいいけど、丁寧すぎる。はっきりいって門外漢には難解すぎた。まだ結論だけ書いてくれりゃいいんだけど、「Aという説もある。これはこうこうこういう理由で賛同しがたい。B説はこのような理由でもっともらしいが、かくかくしかじかの証拠により信憑性が低い。一方のCにはこのような証拠があり……」と延々書いてくださるので、読んでいて眠くなってしまう。
ううむ、こっちは一緒に研究をしたいわけじゃなくて結論だけ読んで「へーそうなんだー」とばかみたいにつぶやきたいだけなのに。
「人類がアフリカを出たのはいつか」の話はおもしろかった。
アフリカを出たといったってユーラシア大陸と陸続きになってるんだからかんたんに出られるじゃんとおもうのは今の感覚で、数万年前の人類にとって、そして当時の環境では、アフリカを出るというのはいくつもの偶然が重ならないとなり遂げられない難事業だったそうだ。
アフリカ大陸から外に出るには北と東の出口があったが、砂漠によって閉ざされていた。地球規模での気候変動によりごくわずかな期間だけ(といっても数千年規模だが)サハラが歩いて通行できるようになる。
その間隙をついてアフリカを脱出した人類は、一部は海沿いを東に進んでインド、インドネシア、オーストラリアへと渡り、一部は北に分かれて東アジアやロシアとアラスカの間のベーリング海峡を渡って(これまた一時は陸続きになっていたため)北アメリカ大陸、そして南アメリカ大陸へと移動した。また一部はインドあたりから北西に進んでヨーロッパへと渡った。
このように人類はずっとずっと旅をして、世界中に広まった。何万年もかけて。
大航海時代に世界を舞台に冒険をしたがったとか、アメリカ人がフロンティアスピリッツを持っているだとか言われているけど、その時代の人間にかぎらず、人類はずっと未知なる場所を探して旅をしつづけてきたんだね。もっといえば、人間にかぎらず、他の動物や植物だってそうやって居住地を広げてきた(あるいは失敗して絶滅してきた)んだけど。
少し前に読んだ三井 誠『人類進化の700万年』にも書いてあったが(タイトル似てるなー)、人間の個々の能力というのは数万年前と比べて高くなっているわけではない、どちらかといえば劣っている可能性が高いそうだ。筋力や持久力はもちろんのこと、知能でさえも。
ついつい今の自分たちが人類史上最も賢いとおもってしまうけれど、我々の科学力が高いのは先人たちが残した膨大な知識の蓄積の上に立っているからであって、今生きている人類がゼロから発見したことなんてほとんどない。
何度読んでもついつい「今の人類がいちばん賢い」と勘違いしてしまうので、これは胸に刻んでおかねば。
この本、「ヨーロッパ人は自分たちが人類進化のいちばん最終形態であり最も優秀だとおもってるがそんなことはないぜ」みたいな論調にすごくページが割かれてるんだよね。
いやいやべつにヨーロッパ人がいちばん賢いなんておもってないぜ、誰と闘ってるんだよ、とおもうけど、実際のところ「人類が最後に到達したのがヨーロッパで、だから最も優秀なのだ」とする考え方がかつてあり、今でも(特にヨーロッパに)根強く残っているのだそうだ。
ま、どこの国にもいるよね。自分たちがいちばん優秀だ! って人が。自分自身ではなく自分が属している民族にしか誇りを持てない人が。
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