2024年1月30日火曜日

【読書感想文】ヘレン・E・フィッシャー『愛はなぜ終わるのか 結婚・不倫・離婚の自然史』 / 愛は終わるもの

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愛はなぜ終わるのか

結婚・不倫・離婚の自然史

ヘレン・E・フィッシャー(著) 吉田利子(訳)

内容(e-honより)
愛は4年で終わるのが自然であり、不倫も、離婚・再婚をくりかえすことも、生物学的には自然だと説く衝撃の書。男と女のゆくえを占う全米ベストセラー。

 1993年刊行(邦訳版)。

 居間において置いたら妻からいらぬ誤解を生みそうなタイトルだったので、カバンに入れておいて外出時にこそこそ読んだ。

「ヒトはなぜ愛しあった相手と別れるのか」を、生物学、人類史の観点から読み解いた本。すごくおもしろかった。




「愛はなぜ終わるのか」を考えるために、まずは「愛はなぜ終わらないのか」を考えなくてはならない。

 一夫一妻は自然なのか。
 そのとおり。
 もちろん、例外はある。機会さえあれば、男性は遺伝子を残すために複数の配偶者を得ようとしがちだ。一夫多妻もまた自然なのである。女性は不利益を資産がうわまわればハーレムに入る。一妻多夫もまた自然である。だが、複数の妻たちは争うし、複数の夫も角つきあわせるだろう。男も女も、よほどの財政的魅力がなければ、配偶者を共有しようとはしない。ゴリラ、ウマ、その他多くの動物はつねにハーレムをつくるのに、人間の場合だけ、一夫多妻も一妻多夫も例外的な選択でしかなく、一夫一妻がふつうなのだ。ひとは、強いてうながされなくても、ふたりずつペアになる。ごく自然な行動である。わたしたちは異性を誘い、情熱を感じ、恋におち、結婚する。そして大半が、一時にひとりの相手とだけ結婚する。
 一対一の絆は、ヒトという動物のトレードマークである。

 オスとメスが一対一で結びつく動物は多くない。一回限りの関係、乱婚、ハーレム、出会いと別れをくりかえす……。「決まった相手とペアになり一生過ごす」なんて動物は他にいない。

「おしどり夫婦」で知られるオシドリのように夫婦で子育てをする動物はいるが、これも繁殖期間だけの関係で、毎年相手を変えている。


 そう、相手を変えるのが自然で、一生連れそうほうが不自然なのだ。

 実際、人間社会でも何年かしたら相手を変える文化がある。

 ニサはわずかな言葉で、女性が性的多様性を求めることが、いかに適応に有利かを説明している。物質的な余剰だ。大昔、不倫をした女性は余分の品物やサービス、住み処食べ物が手に入った。これらは安全に守られて健康に過ごすための必要条件で、結局は余分の子孫を残すのに役立ったのだ。第二に、不倫は大昔の女性にとって、一種の保険の役割をしただろう。「夫」が死んだり、家庭を捨てたりしたら、親としての仕事をこなすにあたってほかの男性の助けを借りられる。
 第三に、大昔の女性が近視で臆病な、あるいは無責任でできの悪い「狩人」と結婚したら、ほかの優秀な遺伝子をもつ男性との子供をもうけることで、遺伝子の改良をはかれる。
 第四に、子供の父親がそれぞれちがっていたら、子供もまたさまざまだから、環境に予想外の変化が起こっても生きのびる確率がふえる。
 先史時代の女性は相手を選んで情事をするかぎり、余分の資源を手に入れ、保険をかけ、遺伝子を改良し、多様なDNAを生物学的未来に伝えることができた。だから、こっそりと恋人と藪のなかにしのびこむ女性が栄えた。そして、無意識のうちに、何世紀ものちの現代の女性のなかに浮気の性向を伝えたのであろう。

 ここに書いているのは女にとってもメリットだが、男にとっても同様のメリットがある。逆に、繁殖のパートナーを変えないことのメリットは特にない(パートナーが一途であることのメリットはある。いちばんいいのは自分だけ浮気をして、パートナーは浮気をしないことだ)。


 著者が様々な文化での「結婚から離婚にまで要した期間」を調べたところ、離婚を許されているほとんどの文化に共通して、「結婚してから四年ほど」で別れる割合が最も多かったという。

 この四年という期間は、妊娠・出産をして、子どもが乳離れする期間にあてはまる。子どもが乳離れすれば母親は自分で食べ物を捕りにいけるし、ということは父親なしでも子育てができるわけだ。

 だからヒトの異性に対する求愛が成功した場合、四年ほどで愛情は冷める。次の相手を探したほうが遺伝子を残す上でメリットがあるからだ。よく「男が浮気をするのは遺伝子で決まっている」なんてことを言うが、それは間違いだ。なぜなら女も浮気をしたほうが遺伝子を残す上で有利だから(上で引用した文章は女の浮気のメリットを書いている)。

 つまり、わたしの理論はこうだ。繁殖期間だけつがうキツネやロビンその他多くの種と同じように、ひとの一対一の絆も、もともと扶養を必要とする子供ひとりを育てる期間だけ、つまりつぎの子供をはらまないかぎり、最初の四年だけ続くように進化したのである。
 もちろん、さまざまな変形があっただろう。あるカップルは交配のあと数カ月あるいは数年妊娠しなかったかもしれない。子供が幼いうちに死んで、周期が再開されて関係が長期化することもあっただろう。子供が生まれなくても、好きあっているために、あるいはべつの配偶者が見つからないために、長くいっしょにいることもあったにちがいない。さまざまな要素が、太古の一対一の絆の長さに影響したはずだ。だが、季節が変わり、何十年か何世紀かがたってちくなかで、最初のホミニドのうち子供が乳離れするまで配偶関係を続け、逐次的一夫一妻を選んだ者たちが残る率が圧倒的に高かったのだろう。
 ひとの繁殖のサイクルによってできあがった、七年めの浮気ならぬ四年めの浮気は、生物学的現象のひとつなのかもしれない。

 パートナーを選び、セックスをし、子どもを産み、ある程度の大きさまで育て、パートナーとは四年で別れて新たなパートナーを見つける。それが遺伝子を残す上で最良(に近い)戦略であり、それこそが自然な生き方だ。だからこそ結婚後四年で離婚する夫婦が多いのだ。




 では、四年で別れるほうが遺伝子を残す上で有利なのに、多くの文化では夫婦が一生添い遂げるのが基本になっているのか。

 つまり考えるべきは「愛はなぜ終わるのか」ではなく「愛が終わってもなぜ別れないのか」だ

 その転換点になったのは、意外にも「鋤」の発明だと著者はいう。土を耕すのに使う、あの鋤だ。

 まず、これまでわかっていることを整理してみよう。鋤は重い。引くのに大きな動物がいるし、男の力を必要とする。狩人として、夫は日常の必需品の一部のほか、毎日の生活を活気づけるぜいたく品を供給していたが、耕作が始まると、生存のために不可欠の存在となった。いっぽう女性の採集者としての重要な役回りは、食物供給源が野生の植物から栽培作物に移るにつれて小さくなっていった。長いあいだ毎日の主たる食物の提供者だった女性が、今度は草とりや摘みとり、食事の支度といった二次的な仕事にたずさわるようになった。男性の農業労働が生存に不可欠になったとき、生活の第一の担い手が女性から男性に移ったという見かたで、人類学者は一致している。
 この生態学的要因———男女間のかたよった分業と、主要な生産資源の男性による支配だけでも、女性の社会権力からの脱落を説明するには充分だ。財布のひもを握っている者が、世界を支配する。だが、女性の凋落にはもうひとつの要因が働いていた。鋤を使用する農業の発展とともに、夫も妻も簡単に離婚できなくなり、力をあわせて土地を耕して働かなければならなくなった。パートナーのいずれも、土地の半分を掘りおこしてもっていくわけにはいかなかったからだ。夫も妻も共通の不動産にしばりつけられていた。恒久的な一夫一妻制である。
 鋤と恒久的な一夫一妻制が女性の地盤沈下にどんな役割を果たしたか、農業社会に特有なもうひとつの現象を考えるとさらにわかりやすい。階級である。太古の昔から、移動民のあいだにも狩猟や採集、交易の旅などのあいだに「ビッグ・マン」が生まれていたにちがいない。だが狩猟・採集民族には平等と分かちあいの強い伝統がある。人類の大きな遺産である公的な階級はまだ存在しなかった。だが、毎年収穫の計画をたて、穀物や飼料を貯蔵し、余った食物を分配し、長距離の組織的な交易を監督し、宗教的な集まりで共同体を代表して発言するために、長が登場してきた。

 農耕が広がり、女が独身で生きていくことがむずかしくなった。木の実や野草を集めてくるのは女だけでもできるが、鋤を引き、家畜を飼うのはひとりではむずかしい。また、夫婦が別れたときに財産を分割できなくなってしまった。集めた木の実を半分に分けることはできるが、耕作地や牛を分けることはできない。

 農耕の広がりにより、離婚がしづらくなり、男の立場が強くなった。

 つまり、男女の愛は四年ほどで終わるのが自然(ただし愛情は冷めるが愛着は強くなるので必ずしも別れたくなるわけではない)。農耕により離婚がをして生きていくことがむずかしくなり、離婚は悪であるという価値観が強くなった。

 ただし人類の歴史としては狩猟採集で生きていた時代のほうが圧倒的に長いので、パートナーへの愛情が覚める、浮気をしたくなる本能はなかなか抜けない。そのギャップのせいでいろんなトラブルが起きている。




 おもしろい本だった。人間に対する理解が深まった気がする。

 古い本なので最新の知見とはちがう部分もありそうだけど。


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