ロビンフッド
(1973)
今から五十年以上前の作品。
ぼくが子どもの頃、家にディズニー映画のビデオテープが何本もあった。ミッキーマウス、ピーターパン、くまのプーさん……。いろいろあったが、いちばん好きだったのは『ロビンフッド』だった。何度も何度も巻き戻して、五十回は観たんじゃないだろうか。
そんな『ロビンフッド』がAmazonプライムにあったのでレンタルして子どもに見せたところたいへんなおもしろがりよう。「またみたい!」と言うので、それじゃあということで購入した。
特に下の子(五歳)がハマって、毎日のように観ている。五十回以上は観ている。ぼくもいっしょに観ることも多いので、通算百回は観ていることになる。
今のディズニー映画(というより今の映画作品)に慣れた身からすると、『ロビンフッド』は昔の映画だなあという気がする。強くてかっこよくて正義感の強い主人公がいて、わかりやすい悪役がいて、かわいくて優しくて一心に主人公のことを想うヒロインがいて、気のいい仲間たちがいる。主人公は正義のために闘い、ピンチもあるけど知恵と勇気で切り抜け、悪いやつをやっつけて街には平和が訪れてお姫様と結婚してめでたしめでたし……。なんてありがちな話なんだろう。
でも、それがいい。特に五歳の子にとっては。
なんかさ、今のアニメって複雑だよね。ディズニー映画とかドラえもんとかの子ども向け作品であっても、二転三転、ピンチ、ピンチ、またピンチ。優しいとおもってた人物が実は悪いやつで、一見とっつきにくそうなやつが実はいい人で、悪いやつにもそれなりの同情すべき事情があって……とかなり複雑な構成になっていることが多い。
もちろんそれはそれでおもしろいんだけど、子どもからすると、もっとシンプルに「いいやつが悪いやつをやっつけました。めでたしめでたし」って話が観たいんじゃないだろうか。大人だってたまにはそんなのが観たい。むずかしいことは考えずに「いけいけー!」と正義のヒーローを応援するような作品も観たい。
『ロビンフッド』はそんな期待に応えてくれる。いいやつはどこまでもいいやつで、悪いやつはとことん悪くて愚か。
シンプルなストーリーが多いからこそひねった設定が光るのに、最近は猫も杓子もひねってくるんだもん。かえってシンプルなストーリーのほうが新鮮に見えてしまう。
『ロビンフッド』の筋書きはわかりやすいが、だからといって退屈ではない。それはキャラクター造形がとにかく優れているから。
勇敢で洒脱なロビンフッドはもちろん、包容力があって頼りになるリトル・ジョン、とにかくチャーミングなマリアン姫、最強の女官レディ・クラック、聖職者なのに実は武闘派のタック神父、ロビンフッドにあこがれる少年スキッピー坊や。
どのキャラクターもいいが、特筆すべきは悪役もみんな魅力的なところ。マザコンで泣き虫のプリンス・ジョン、知恵者なのに冷遇されがちな参謀ヒス、冷酷だが小悪党意識の抜けないノッティンガムのシェリフ、凸凹コンビの早撃ちとトンマ、どの悪役もどこか抜けていて愛らしい(まあ早撃ちとトンマは職務をまっとうしているだけなので敵ではあるが悪くはないのだが)。
うちの五歳児はロビンフッドだけでなく、プリンス・ジョンやシェリフのことも好きになってよく「ノッティンガムのシェリフが徴税するときにうたう歌」を口ずさんだりしている。たぶん今この歌をうたえるのはうちの子だけだぜ。シェリフ役の声優でももう忘れているだろう。
重税に苦しむ民の様子など陰鬱な場面もあるのに『ロビンフッド』がずっとユーモラスなのは、それぞれのキャラクターを動物が演じているからだろう。
最近だと『ズートピア』でもこの手法をとっていたが(おじさんにとって八年前は最近)、もっとやったらいいのにね。『ズートピア』も人種差別問題をそのまま描くと生々しすぎるから動物にして成功だった。
これは邪推かもしれないけど、本当の『ロビンフッド』ってイングランドで悪政を敷いたジョン王に義賊・ロビンフッドが立ち向かう話で、仮にもイングランド王家の人を茶化すのはよくないってことで動物キャラクターにしたのかも。
いい手法だよね。言いにくいことはどんどん動物に言わせて寓話にしたらいい。オーウェルの『動物農場』みたいにさ。
ディズニーの長い歴史ではほとんど無視に近い扱いをされている不遇の作品だけど、今観ても十分おもしろいとおもうのでぜひ多くの人に観てほしい。
……とおもっていたらリメイクの話があるそうだ。
米ディズニー、アニメ版「ロビン・フッド」をリメイク Disney+向けに開発中
リメイクされたらDisney+に加入しようかな……。
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