中学生のときのこと。
近所の本屋で文庫本を買った。商店街の中にある、店主のおっちゃんがひとりで店番をしている小さな本屋だ。
その日のうちに本を読み終わった。
翌日また本屋に行って、同じ作家のべつの本をレジに持っていった。
店主のおっちゃんはぼくの顔を見て言った。
「昨日買った本はもう読んだの? 早いね。この作家の本好きなの?」
「はぁ、まぁ」とあいまいに返事をしながら、内心では「やめてくれ」と思っていた。
この中学生が昨日どんな本を買ったか。店主に記憶されているのがたまらなく恥ずかしかった。
エロ本を買ったわけじゃない。ごくごくふつうの小説だ。決して恥じるような行為ではない。
おっちゃんも褒めるつもりで言ったのだろう。本屋として、中学生が毎日本を買いにきてくれることがうれしかったにちがいない。
だけど本を買う、本を読むというのはぼくにとってすごくプライベートな行為だ。
それを他人には把握されたくなかった。
トイレの前で「一時間前にもトイレに行ったのにまた行くの?」と言われるぐらい恥ずかしかった。
それからしばらく、その本屋からは足が遠のいた。
ぼくがAmazonで本を買うのが好きなのは、便利なだけでなく「店員に覚えられなくて済む」ということもあるんだよね。
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