『星寄席』
星新一(原作), 古今亭志ん朝 , 柳家小三治 (演)
ショートショートの神様・星新一の作品を落語家が演じたもの。
『戸棚の男』を古今亭志ん朝が、『ネチラタ事件』『四で割って』を柳家小三治が落語化。
もともとは1978年にレコードで発売されたものだが、なぜか2015年にCDで再発売されたらしい。
星新一に関連するものなら全集から評伝まですべて揃えずにはいられないぼくとしては見逃せないということで購入。上方落語を聴いて育ったので江戸落語は肌に合わないんだけどね。
星新一作品と落語って相性がいいね。
まず落語は古典でもSFの噺が多い。『犬の目』『一眼国』『地獄八景亡者戯』など。あたりまえのように幽霊や死後の世界が出てくる。
また『蛇含草』『天狗裁き』のようなあっと驚くオチ(サゲ)で落とす噺もあり、そのへんもショートショートに似ている。
星新一自身、江戸落語が好きだったようで、『いいわけ幸兵衛』のように落語(『小言幸兵衛』)を基にした作品も書いている。本CDに収録されている『ネチラタ事件』も、古典落語の『たらちね』を下敷きにしている。 また『うらめしや』のように落語原作も書いている。
描写を必要最小限にしていること、登場人物に特徴が少なく記号的であること、時事性が強くないことなども落語的だね。
というわけで『星寄席』だけど、話のチョイスが絶妙だった。
- 絶世の美女を妻にしたら声帯模写の達人、ルパンの孫、キューピッド、フランケンシュタインたちが間男としてやってくるようになった『戸棚の男』
- 世の中の人々の言葉遣いが突然乱暴になる病原菌が広まった世界を描く『ネチラタ事件』
- 賭け事が好きすぎて命を賭けたギャンブルに挑戦した男たちが地獄に行く『四で割って』
とはいえそれは原作が良かったからこその出来であって、落語として聴いたら、正直おもしろくなかった。
まずひとつには原作を忠実に言葉にしていたこと。
落語の噺というのは著作権フリーであり、噺の改編も自由にしていいことになっている。
大筋は残しつつも、時代にあったわかりやすいオチに変更したり、節々にギャグを交えたりすることは当たり前におこなわれている。ところがこの『星寄席』に関しては、そういった”あそび”がまったく存在しない。ただの朗読劇になっており、落語としては笑いどころがほとんどない。
そしていちばん残念だったのが、スタジオ録音だということ。タイトルに「寄席」と入っているにもかかわらず高座でかけられたものではないのだ。
したがって客席の笑い声も皆無なわけで、他の客の笑い声も一体となってひとつの話を形作る落語と呼べるものではない。
これではただの朗読劇で、落語家が演じる必要性が感じられなかったなあ。
ついでにいうと、柳家小三治の『ネチラタ事件』は上品すぎた。
高座ウケするようにアレンジして客の前で演じたらずっとおもしろいものになっただろうに。
40年前の音声でもまったく古びない星新一のショートショート。ぜひ落語に取り入れて、今後もしゃべりついでもらいたいものだ。
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