ふだんスーツを着ない人にはぴんとこないかもしれないが、スーツのジャケットにはベントというものがある。
背中の下の部分にある切れ込みのことだ。
んで、スーツを作ると、ここにしつけ糸がついたままになっている。
もちろんこのしつけ糸を切ってから着るのが正しい着用方法だ。
でも、見落とす。
毎回、見落とす。
ぼくもいい大人だから、シャツを買ったときやクリーニングから返ってきたときは、値札やタグを取りわすれていないか、チェックしてから着るようにしている。
そうでなくても、タグはたいてい襟のところについているので、着るときに目に入るし、取らずに来たらうなじがちくちくするのですぐにわかる。
でも、ジャケットのベントはわからない。
背中のいちばん下のところですよ?
どんなに視野が広かろうが、自分の背中は目に入らない。
おもいっきり体をひねっても、ぎりぎり視界の隅に入るかどうか。
スーツでそんな無理のある動きをしたら、どこかがびりっと破れる。
で、ベントにしつけ糸がついたままになっていることに気づかずに、しばらく着つづけることになる。
そして何日かしてから誰かに指摘される。
「糸がついたままになってますよ。ばかじゃないですか」
と。
あれ、なんなんでしょう。
スーツ業界の悪しき慣習ですよね。
しつけ糸をとってから客に渡せばいいじゃん。
そこはスーツ屋の仕事でしょうよ。
本来、あんなの客にとらせちゃいけないものでしょ。
しつけ糸をとらずに商品を渡すなんて、
美容院でパーマあてたお客さんに対して、カーラーをとらずに
「お客様おかえりでーす!」って言うようなものでしょ。
なんならあのポンチョみたいなやつもとらずに、てるてる坊主状態で帰らせるようなもんでしょ。
どんなひどい美容院だ。
なぜとらないんでしょうね。
あれかな。
正真正銘できたてのスーツですよ、誰かが着ていた古着じゃないですよ、っていうアピールのためにあえてしつけ糸を残しとくのかな。
中華料理で猿の脳みそを食べるらしいんだけど、それを注文したら、新鮮な猿ですよってアピールするために厨房から生きた猿をつれてきて、オーダーした客の目の前で猿を殺すそうなんだけど、
それと一緒ですか?
ジャムのビン詰めを開封したら、ビンのふたがべこんってふくらんで、はじめて開けたことがわかるようになってるけど、
それと一緒ですか?
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