2022年3月18日金曜日

万引き小学生

 小学校のとき、同じクラスにAという女の子がいた。Aは四年生ぐらいで転入してきて、卒業と同時ぐらいに転校していった。目を惹くような外見でもなく、話しかけたら返事をするぐらいの活発さで、これといって印象に残るような子ではなかった。Aは眼鏡をかけていたのでぼくは「おとなしい子」という印象を持っていた。小学生にとっては「眼鏡をかけている女子=おとなしい」なのだ。ばかだなあ。


 それはそうと、Aが転校していってから一年ぐらいたったときのこと。
 中学生になっていたぼくは、Aと仲の良かったIという女の子としゃべっていた。どういう流れだったかは忘れたけど、Aの話になった。

 Iが言った。

「知ってる? Aって万引き常習者だったんやで」

 ぼくは驚いた。えっ。だってAだよ。眼鏡かけてたんだよ(まだ「眼鏡=まじめ」とおもってる)。

「あの子、毎日のように万引きしててんで。Aの弟も万引きしてたし。親から万引きしてこいって言われて」

「まさか」

 まさかAが、と言えるほどAのことを知っていたわけではない。
 ぼくがその話を信じられなかったのは、Aが、というよりそもそも「そんな親がいるわけがない」とおもったからだ。

 人の親が、我が子に向かって「万引きしてきなさい」と命じるはずがない。
 中学生のぼくは本気でそうおもっていた。

 まだピュアだったのだ。
 親は子に正しい道を教えるもの、そして眼鏡をかけている女の子はまじめ。当時のぼくはまだ純粋に信じていたのだった。


 だけど今は知っている。

 我が子に万引きを命じる親がいるということを。そして、眼鏡をかけている子がおとなしい子ばかりではないことを。


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2022年3月17日木曜日

出木杉の苦悩


もちろん、おもしろくないですよ。

いや、もっと率直に言うと、不愉快ですね。

こないだは小さくなって宇宙戦争をしてましたよね。その前はタイムマシンで恐竜時代を冒険ですか。その前は、月世界の探検でしたっけ?

ええ、みんな観てますよ。劇場でね。

そうなんです。ぼくはいっつも後から知らされるんです。野比くんから。ぼくたちドラえもんといっしょにこんなすごい冒険をしてきたよ、って。
ぼくは誘ってもらえずに、後から聞かされるだけです。

この気持ちわかりますかね。
野比くんならちょっと考えれば容易に想像できるとおもうんですけどね。彼はいっつも骨川くんから自慢されて、そのたびに悔しい思いしてるんだから。でも彼にはドラえもんがいる。悔しいと言えば、その悔しさを解消してくれる道具を出してもらえる。だけどぼくはただただ悔しがるだけです。

ええと、『のび太の結婚前夜』でしたっけ。
あの作品の中で、しずかちゃんのパパが言ってましたよね。野比くんについて、「あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ」って。
ぼくに言わせれば、あんなの嘘っぱちですよ。ぼくが冒険に参加させてもらえずに悲しい思いをしているとき、野比くんがぼくの気持ちを想像して悲しんだことがありますか? 自分だけが世界中の不幸をしょいこんだみたいな顔をして、ぼくみたいな子の不幸については想像してみることすらしないんだ。


自分でいうのもなんですが、ぼくは人一倍知的好奇心の強い子どもだとおもいます。宇宙、過去の世界、海底、地底。どれもとても興味がある。ぜひドラえもんといっしょに探検してみたい。行けば、得るものもいっぱいあるとおもう。はっきりいって、野比くんたちよりずっと多くのことを学べると自負している。

なのにぼくは誘ってもらえない。


いや、いいんですよ。誰を誘おうと彼の自由ですから。

でもね、ぼくは都合のいいときだけ利用されるんです。宿題を見せてほしいとか、むずかしいことを教えてほしいとか。

『のび太の大魔境』観ました? あの映画で、謎の巨像がある場所はヘビー・スモーカーズ・フォレストだと気付いたのは誰だか知ってますか? そう、ぼくです。

『のび太の小宇宙戦争』観ました? 冒頭でジオラマ撮影をしますよね。あそこで知恵を出して映画のクオリティを高めたのは? そう、ぼくです。

決してぼくは貢献してないわけじゃない。それなのに、いざ冒険となるとぼくは誘ってもらえない。それが許せないんです。

そのくせ、連中ときたら映画ではすぐに「仲間は見捨てておけない!」とか「友だちを放ってはいけないよ!」とか口にするでしょ。ぼくのことは見捨てておいて。あれ、どの口が言うんでしょうね。連中にしたらぼくなんて友だちじゃないってことなんですかね。なーにが「あの青年は人の不幸を悲しむことができる人だ」なんですか。


ぼくが許せないのは、彼が己の非情さに気づいてすらいないことなんですよ。そうやって、利用できるときだけクラスメイトを利用しておいて、用が済んだら切り離して、それで勝手に地球代表を名乗るんじゃないよって話ですよ。


だいたいね。メンバー選出もどうかとおもいますよ。

しずかちゃんはわかりますよ。好きな女の子を誘いたいって気持ちは理解できます。
骨川くんもまあいいでしょう。なんといっても彼には財力がありますからね。実際、『小宇宙戦争』なんかは彼のラジコンがなければどうしようもなかったわけですし。
理解できないのは、剛田くんですよ。いっつも野比くんをいじめてるじゃないですか。それなのに冒険には誘ってもらえる。そして「映画のジャイアンは男気があっていいやつ」だなんて言ってもらえる。ヤンキーがたまにいいことをするとものすごく褒められて、ふだんから品行方正な人間は評価してもらえないのと同じですよ。みんな何もわかっちゃいない。

自分で言うのもなんですが、あんな粗野な男をメンバーに入れるぐらいならだんぜんぼくを入れたほうがいいですよ。ぼくが、このぼくが、剛田以下だっていうんですか!




2022年3月16日水曜日

【コント】お金をくれる人

「あげるよ」

「えっ。なにこのお金」

「なにって……。一万円だけど」

「いやそういうことじゃなくて……。えっと、おれおまえに金貸してたっけ?」

「借りてないけど」

「だよね。じゃあなんで」

「なんでって……。あれ、もしかしてお金嫌い?」

「嫌いじゃないけど。大好きだけど。嫌いな人なんていないだろ」

「じゃあいいじゃん。もらっとけば。かさばるものでもないし」

「いやいやいや。もらえないよ」

「なんでよ。お金好きなんでしょ」

「お金は好きだけど、こんなよくわかんないお金もらえないよ。怖いよ」

「あーたしかに福沢諭吉ってちょっといかめしい顔してるもんな」

「そういうことじゃなくて。この状況が怖いって言ってんの。いきなりこんな大金渡されたって受け取れないよ」

「じゃあいくらなら受け取ってくれるの」

「いくらとかじゃなくて、百円でも嫌だよ。理由なく渡されたら。まあ十円ぐらいなら受け取るかもしれないけど」

「じゃあとりあえず十円渡しとくわ」

「いやいいって。なんでそんなにお金渡したがるかがわかんないんだけど」

「なんでそんなにお金を受け取ろうとしないのかがわかんないんだけど」

「え、この状況でおかしいのおれのほう!?」

「そりゃそうだよ」

「なんでよ」

「だってさ、おまえはお金が好きなんでしょ。よく金ほしーとか今月金欠だわーとか言ってるじゃない」

「言ってるけど」

「だからどうぞって言ってるの。それで受け取らないほうがおかしいでしょ。定食屋でうどんくださいって言って、うどん運ばれて来たらいりませんって言うようなもんじゃない」

「いやそのたとえは違うくない? おれはおまえから金ほしいって言ってるわけじゃないから」

「じゃあ誰からほしいのよ」

「誰ならいいとかじゃなくて」

「あ、わかった。おまえ、おれが金貸そうとしてるとおもってる? だから嫌がってるんだろ。大丈夫、これは貸すわけじゃなくてあげる金だから。ぜったいに返せとか言わないから」

「だからそれが怖いんだって。借りるほうがまだいいよ」

「なんでよ。もらうより借金のほうがいいなんておまえ変わってるな」

「変わってるのはおまえのほうだよ」

「なんで怖いの。あ、もしかしてこの金と引き換えになにか要求されるとおもってるんでしょ。後からとんでもないお願いされるかも、って」

「あーそうかも。だから怖いのかも」

「大丈夫だって。ほんとにただあげるだけ。恩を売るつもりもないし。こうしよう、おれがおまえに一万円あげて、そのことをお互いに忘れよう。それならいいでしょ」

「忘れられるわけないだろ。こんな異常な事態

「なんで受け取ってくれないかなあ」

「なんでそんなにおれにお金くれようとするわけ。あ、もしかして宝くじ当たったとか万馬券当てたとか? 幸せのおすそ分け的な?」

「いやべつに」

「こんなこと聞いちゃわるいかもしれないけど……。もしかして宗教の教えとか? 喜捨しなさい、みたいな」

「おれがそういう不合理なこと嫌いなこと知ってるだろ」

「だよなあ。でも、理由もないのに友だちにお金あげるほうが不合理じゃない?」

「おいおい。おれは不合理なことは嫌いでも、人としての情はあるの。
 たとえば、おまえが十個入りのチョコレートを食べてるとするよな。そこにおれが来たとする。おまえはどうする?」

「一個どう? って訊くよ」

「そう。それがふつうの人間の感覚なんだよ。だからおれが十万円持ってたら、おまえに一枚どうぞって言うのが人としての常識なんだよ」

「なるほどな……。ん?  いやいや、やっぱりおかしいって。その例でいうならさ、チョコレートどうぞって勧めて、いりませんって言われてるのに無理やり押しつけようとしてるようなもんじゃん。それはやっぱりおかしいよ」

「まったく、ああ言えばこう言う……。それは本心からチョコレートをいらないとおもってる場合でしょ? そこで無理に勧めるのはたしかにおかしいよ。だけどさ、おまえの場合はお金好きなわけじゃん。そしてお金ダイエットをしているわけでもない」

「なんだよお金ダイエットって。お金減量中です、なんて人いないだろ」

「つまりおまえは遠慮してるわけだよ」

「まあ遠慮といえば遠慮かな……」

「だったら無理やりにでも押しつけてあげるのが優しさだろ。さ、受け取れよ」

「嫌だってば。おまえから一万円渡されたって受け取れないよ」

「じゃあ誰ならいいわけ?」

「誰であっても知り合いからもらうのは嫌だよ」

「じゃあ知らない人ならいいわけ?」

「もっと嫌だよ。知らない人からいきなり一万円渡されるとか、怖すぎるだろ」

「知ってる人からもらうのは嫌、知らない人も嫌。なのにお金ほしいってどういうことだよ?」

「うーん……。わかった、理由がないのが嫌なんだ。貸してた金を返してもらうとか、労働の対価とか、理由があれば受け取るよ、ぜんぜん

「こないだおまえ『あー、どっかの金持ちがぽんと十億円ぐらいくれないかなー』って言ってたじゃん」

「あれは冗談。実際にはもらうべき理由がないのにお金渡されたら怖いよ」

「そんなもんかねえ。でもさ、こないだミナモトさんが四国に旅行行ってきたからってお土産のお菓子買ってきたとき、おまえももらってたじゃん」

「もらってたよ」

「なんでよ。もらうべき理由がないじゃん」

「あれはお土産じゃん」

「だからなんでよ。ミナモトさんが休みの日に四国に行ったこととおまえにどんな関係があるの? おまえがミナモトさんの旅費出したの? だったらわかるけど」

「いやそうじゃないけど。でもほら、お土産ってそういうもんだから。特に理由なくてももらうもんだから」

「じゃあおれもこないだATMに行ってきたから、そのお土産としておまえに一万円あげるよ」

「だからそれはおかしいじゃん」

「なんで? お土産なら理由なくてももらうんでしょ」

「だからそれは……。
 ああ、もういいや。この件で議論するの疲れたわ。もらう、もらうよ。その一万円もらうよ」

「もらってくれるのか」

「ああ」

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

「どういたしまして。で、おまえに折り入って頼みがあるんだけど……」

「やっぱり! やっぱりそうきた! でもちょっと安心した! ちゃんと理由のある金でよかったー!」


2022年3月15日火曜日

【読書感想文】白石 一郎『海王伝』

海王伝

白石 一郎

内容(e-honより)
海賊船「黄金丸」の船頭・笛太郎は明国の海賊・マゴーチの本拠地であるシャムのバンコクに赴く。そこで笛太郎はマゴーチが実父であることを知るが、異母弟を殺してしまったことから、親子の宿命的な対決が始まる―。笛太郎は海の「狼」から「王」へ変わることができるのか?直木賞受賞作「海狼伝」衝撃の続編。

『海狼伝』がおもしろかったので、続編『海王伝』にも手を出してみた。

 前作では津島~瀬戸内海あたりが舞台だったが、今回の舞台は琉球、シャム(タイ)。話のスケールとしては大きくなったが、正直、物語のおもしろさはトーンダウンしてしまったように感じる。

 というのは、『海狼伝』が笛太郎やその仲間の成長を描いていたのに対し、『海王伝』のほうは成長後を描いているからだ。

 『海狼伝』冒頭の笛太郎は何者でもなかった。海女のために船を出してやるだけの男であり、その仕事すら満足にできず海女からもばかにされる始末。そんな男が海に出て、半ば強制的に海賊の仲間に入れられ、囚われの身となって命からがら救われたり、口と商才だけが達者な男の下について借り物の船ではあるが海賊になり、そして幾多の戦いを経て船づくりの天才を味方につけ、ついに自分たちの船を完成させ、中国に向けて出航する……。なんとも波乱万丈な物語だった。

 一方の続編『海王伝』はすでに成熟してしまっている。そんじょそこらの海賊には負けない立派な船があり、笛太郎はお頭であり、戦いに慣れた仲間もいる。これではなかなか血沸き肉躍る冒険にはならない。中盤以降のONE PIECEといっしょで「はいはいどうせ絶対絶命のピンチになっても最後はルフィがボスをぶっとばして宴なんでしょ」と冷めた目で見てしまう。

 だからだろう、『海王伝』では牛太郎という新しいキャラクターの話から始まる。牛太郎は獣が好きなせいで罠にかかった獣を勝手に逃がしてしまい、村八分を食らっている男だ。この男も、昔の笛太郎のように何者でもない。この男が村から追いだされるようにして逃げ出し、初めて目にする海に出ることになる……。というオープニングは、こちらの期待を十分に高めてくれるものだった。

 しかし牛太郎が笛太郎と出会ってからは、いたって平和そのもの。他の船との戦闘になってもどうも緊張感がない。黄金丸(笛太郎たちの船)が強くなりすぎてしまったのだ。

 どおんと後方で大筒の音がした。
 三郎が振り返ると、大型ジャンクが遥か後ろから黄金丸の船尾をめざして来ている。しかし黄金丸のあざやかな上手回しの旋回に慌てたらしく、大型ジャンクと黄金丸の距離は先刻より遠く離れていた。
 上手回しの回頭は詰め開きともいい、最も難しい操船術だ。
 ずんぐりしたジャンクの船体では、むりに上手回しをやると、前進力を失って操船に苦しむ。
 大型ジャンクの場合がそれだった。とつぜん大旋回した黄金丸の櫓走に戸惑い、自分も櫓走に切替えて風上へ向ったが、回頭に失敗したのだ。

  海戦の描写は相変わらずすばらしいんだけどね。海や船のことがさっぱりわからなくても、なんかふしぎと説得させられるんだよね。




 笛太郎の目的のひとつが「父親・孫七郎に会う」だ。その孫七郎ではないかと疑われるのが明の海賊・マゴーチだ。この巻ではついにマゴーチに出会う。

 はたしてマゴーチは本当に笛太郎の父親なのか、そしてふたりはどうやって向き合うのか……。

 引っ張って引っ張って単純な「感動の父子の再開」にはなるまいなとおもっていたら、なんとこういう展開とは。なるほどなあ。
 余韻を残す終わり方もなかなかしゃれている。

 これはこれでおもしろかったんだけど、『海狼伝』がおもしろすぎたので、期待を上回ることはできなかったかなあ。やっぱり一番魅力的だったキャラクターである小金吾が前作のラストで死んじゃったのが残念。彼を主人公にした話を読みたいぐらいだ。


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【読書感想文】白石 一郎『海狼伝』 ~わくわくどきどき海洋冒険小説~



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2022年3月14日月曜日

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