M-1グランプリ2024の感想。
いつもは早めに書くんだけど、今年はあまり書く気がおきなかった。つまらなかったわけではなく、むしろ逆で、「いいものを観たー!」と満足してしまって、何かをつけたしたいという気にならなかったんだよね。
それぐらいいい大会でした。
敗者復活戦
個人的におもしろかったのは、
・顔だけで蝶の羽化を表現したダンビラムーチョ(深夜だったら優勝だったかも)
・強いフレーズで舞妓の世界を描いたマユリカ
・人の性と理性というテーマで漫才をした男性ブランコ
・大したことを言ってないのになぜだかずっとおもしろかったシシガシラの浜中クイズ
ドンデコルテはまだまだ良くなりそうな気がした。いいフォーマットを見つけたね。二年後ぐらいに決勝行くかもねえ。
敗者復活戦ではしっかり作りこまれたネタよりもばかばかしい漫才の方が映えるね。
■1st Round
令和ロマン (理想の苗字)
「どんな苗字がいい?」という導入ではなく、「子どもにどんな名前をつけるか」という話から広げていく構成がうまい。令和ロマンの漫才って、唐突なところがまったくないんだよね。すべてが流れるように進んでいく。相当練りこまれているのを感じる。
全体の流れがスムーズだから、ちょっと難しめのボケでもパワーで押し切ってしまう。ふつうさ、ビャンビャン麵、幼卒、刀Yなんて文字にしないと伝わらないじゃない。それで笑わせる力がすごい。
ビャンビャン麺のビャン |
令和ロマンのうまいところは、難解なボケとわかりやすいあるあるを混ぜてくるところだよね。ほけんだよりの風船とかね。テレビで観てたら「保護者会で漫才したいだろ」でなんで拍手笑いが起こるのかわからないんだけど(本来ならジャブ程度だよね)、そこにいたるまでの雰囲気や口調でねじ伏せてしまう。きっと生で観たらもっとおもしろいんだろうな。
ヤーレンズ (おにぎり屋さん)
なんかちょっと間が悪かったな。本人たちも感じていたのか、ちょっと言葉に詰まっていた箇所が。ヤーレンズのようなテンポが命のコンビがリズムをくずされたら致命的だよなあ。
テンポとネタがあってないように感じた。石川啄木、石川さゆり、KAT-TUNなどのこみいったボケはもうちょっと時間をかけてくれないと処理しきれない。
緩急を少なくしてボケを詰めこんだことが去年の躍進の原因だったが、今年はそれが裏目に出てしまったなあ。疲れてきた時間帯に出てきたらもっとよかったんだろうけどね。
真空ジェシカ (商店街ロケ)
毎度感心するのが導入の鮮やかさ。「子育て支援だろ、おまえがちゃんと否定しろこういうときは」と、導入でもきっちり強いパンチを叩きつけてくる。
一個一個ボケの強度もすごいんだけど、真空ジェシカのすごいところはそれを単発にしないところ。
ジャンプみたいな商店街→「ジャンプは最後までおもしろいんですけど」→「出口が近そうだな」の鮮やかさ(「迷走してる店が増えた!」と明言しないところがオシャレ)。
武田よく寝た→もらい画像→ゆうじという人、「偏った政党のポスター」偏った政党大喜利→「今年の都知事選みたい」のように二つ三つ追撃を入れてくるのがすごい。
都知事選もそうだが、「TVer?」や薬指を立てるボケのようなあぶなっかしさも魅力。いやあ、真空ジェシカってずっとクオリティ高いんだけどそれがさらにレベル上げてくるんだからすごいねえ。
ネタもすごかったけど、ネタ後の「優勝するかもしれませんからね」に対する即座の「それみんなそうですから」も見事だった。天才だ。
マユリカ (同窓会)
令和ロマンや真空ジェシカの緻密で隙の無いネタを観た後だったので、いろいろ粗さが目立ってしまった。同窓会という設定なのに女の子が校歌をはじめて聞いた設定とか。
あとツッコミのセリフもいろいろ間違えてなかった?「どんな顔して明石海峡大橋渡ったん?」とか、最後の「なんでゆで卵担当せなあかんの」に「あんたらモーニングセットの」をつけたしたところとか。それがベストではないのでは、という気がした。
ネタのうまさで魅せるコンビではなく、関西の漫才師に多いしゃべりのうまさで勝負するタイプなので、その分パワーのあるネタを持ってきてほしかった(その点敗者復活戦ではこの二人が舞妓を演じているだけでおもしろかったのでよかった)。
去年もネタ後のトークがおもしろかったけど、今年も「大急ぎで負けに来たんですか?」「うんこサンドイッチの顔」などしっかり強い印象を残してくれた。
ダイタク (ヒーローインタビュー)
ずっとストロングなしゃべくり双子漫才をやってきたダイタクが、ラストイヤーでM-1グランプリに合わせたこじんまりした枠に収める漫才をしているのを見てちょっと寂しくなってしまった。枠がある分笑いやすいけど、広がりを感じなかった。
でも地元のショッピングモールに営業に来ていちばん笑うのはダイタクなんだろうな。とにかくわかりやすいし、どこを切り取ってもおもしろい。
M-1の場にはちょっと合わなかったけど、THE SECONDにはあってるとおもうので、来年以降のダイタクが楽しみ。
ジョックロック (医療ドラマ)
最初の「やっぱりちょっとカードつくるの怖いなー」がめちゃくちゃ良くて、次の「あんまぴんとこない人は健康な人生で良かったですねー」も良かっただけに、後半がしりすぼみになってしまった。あれだけたっぷり間をとってツッコむんなら、相当パワーがないとね。
間が長いので、野外ステージとかでやったらすごくウケそう。
とはいえ、システムが明るみになったここからは大変だろうね。余計な心配かもしれないが、南海キャンディーズが最初のインパクトを超えられなかったのを思い出してしまう。
バッテリィズ (偉人の名言)
アホ漫才と言われていたが、とんでもない。すごく精密に練られた漫才だった。「悩んだことない」「名前書き忘れて落ちた」「毎日楽しいぞ」でしっかりエースのアホさを伝えておいて、徐々に名言に対するピュアなツッコミを聞かせてゆく。
ただのアホにならないよう、楽しませたるわ、謝れるのはえらい、生きるのに意味なんかいらんねんなどポジティブな言葉でエースの魅力を伝えていく。たぶんほとんどのお客さんはバッテリィズは初見だったとおもうのだが、この数分間でみんなエースを好きになったんじゃないだろうか(だからこそ最後に頭を叩くツッコミをしたのは余計だったかな)。
ママタルト (銭湯)
ママタルトの漫才の魅力は檜原さんの長ツッコミにあるとおもうんだけど、初めて見る人はやっぱり大鶴肥満さんの巨躯に目を奪われてしまうのでこんな感じになっちゃうよなあ。もっとわかりやすいネタがあったとおもうんだけど。
みんなの桶が、とか、子どもが車道に、とかは絵が浮かんできておもしろかったんだけどね。あんな感じのファンシーなネタを期待しちゃったな。「こんなにシャンプー丁寧やのに」とか、長々と待ったわりには伝わりにくかったな。
審査員の点数が出るたびに顔を作っていたのがおもしろかったよ。
エバース (桜の樹の下で待ち合わせ)
ツカミもなく、丁寧にフってからのボソッと「さすがに末締めだろ」はしびれる。声を張りたくなるとこだとおもうけど。勇気あるなあ。
強靭なストーリーもさることながら「土地開発か」「女の子って空間把握能力ほとんどないもんね」「女町田」など、フレーズも言い方もおもしろい。強面のツッコミなのに優しさがにじみ出ていてどんどん引き込まれている。
エバースはどのネタもすばらしいし二人の魅力も優れているし、完璧なコンビだよね。
ぼくはエバースを大好きなんだけど、今回負けたことでちょっと安心した。ああよかった、これで来年以降もエバースの漫才をM-1で観られる。まだまだいいネタいっぱいあるし、キャラクターが知れ渡っても不利になるタイプじゃないし。一回で優勝しちゃうのはもったいない。それぐらいいいコンビ。
トム・ブラウン (ホストクラブに通う女の子の肝臓を守りたい)
ふはははは。客にぜんぜんハマってないのが余計におもしろかった。ずっと何やってんのかわかんねえんだもん。
二発撃つことにまったくツッコまないとか、「『Night of Fire』アラームにすんなよ!」のツッコむところそこじゃねえだろ感とか。コンテストの場じゃなくて、みんなで「何やってんだよ!」とか言いながら見るのにふさわしいネタだよなあ。
いやあ、トム・ブラウンが世に認められる世界でよかったなあ。
■最終決戦
真空ジェシカ (ピアノがでかすぎるアンジェラ・アキのコンサート)
いやあ、すばらしかった。これまでにM-1で観た二百本以上のネタの中でもトップクラスのおもしろさだった。
ピアノがでかすぎることや歌詞がめちゃくちゃであることやぶちぎれるアンジェラ・アキが怖すぎることの説明が一切ないのがいい。わからないのにわかる。震えているガクさんの姿だけでも似合いすぎてずっとおもしろい。
むちゃくちゃな設定なのに「信じる神によるけど」や「静かすぎて隣の長渕がうっすら聞こえてくる」といった深いボケが真空ジェシカらしい。ボケのためのボケじゃなくて、ちゃんとその世界に入りこんでいるからこそ出てくる発想だよね。
トム・ブラウンのばかばかしさと、令和ロマンの緻密さの両方を兼ね備えたすばらしいネタだった。
令和ロマン (タイムスリップ)
一本目の席替えのネタとはうってかわって、なぜか固い、無言の乗馬、じじいの知ったか、泣く子には勝てないなど重めのボケが連なる。そして2.5次元、バトルシーン、歌で後半に盛り上がり所をつくる。憎らしいほど隙のない構成。
所作のひとつひとつまでじっくり計算されているんだろうなあ、と感じた。
バッテリィズ(世界遺産)
うーん、構成がしっかりしすぎてるな。お墓の畳みかけとか、芝居がかった言い回しとか。客がバッテリィズに求めていたのはこういうんじゃなかったんじゃないかなあ。もっとシンプルなつくりでエースの魅力が全面に出てくるような。
まず最初に「世界遺産ってのがあるらしいねんけど」とエースが振るのがちがうんじゃない?
とはいえ、お餅焼いてるとこが楽しいとか、公園や鍵穴にわくわくするとことか、エースのピュアさを伝えるのには十分すぎるネタ。
いやあ、すばらしい大会だったね。
2009年大会もそうだったけど、優勝候補とされているコンビが前半に出てくると、お客さんが後のことを気にせずめいっぱい笑える感じがある。後半のコンビへの期待が高まりすぎないのもいいしね。
どのコンビもおもしろかったけど、やっぱり令和ロマンと真空ジェシカが頭ひとつ抜けていたように感じる。1本目の1位はバッテリィズだったけど、そこは出番順次第で変わってただろう。でも令和ロマンと真空ジェシカはどの出番順でも高確率で最終決戦に進めたんじゃないだろうか。それぐらい完成度が図抜けてた。
もう来年の大会が楽しみ。真空ジェシカやエバースはまだまだいいネタあるだろうしなあ。
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