桐野 夏生 『グロテスク』
読みごたえのある小説だった。
ただ、おもしろい、という感想は出てこない。あえて言葉にするなら、気持ち悪い、がいちばんふさわしいだろうか。
残虐な描写があるわけではない。恐怖をあおるような文章でもない。ただ、じわりと不快な気分になる。読んでいる間ずっと。
脇役を入れて数十人の登場人物が出てくるのだが、その誰も彼もが周囲に対する悪意を隠そうともしない、嫌なやつだらけだ。
さらに主要な登場人物はみな歪んだ考えを持っていて(歪み方もそれぞれちがう)、ずっと読んでいると、度のあってない眼鏡をかけつづけているような気持ち悪さがまとわりつく。
それなのにページを繰る手が止まらない。
この小説には魔力が宿っている。ぼくがいちばん薄気味悪さを覚えたのは、登場人物以上に、作者に対してだった。
「嫌な話」を書くのは、ハッピーな話の何倍も体力を使う。
ぼくは趣味でものを書いているだけなので、オチをつけたり、冗談を挟んだりして、少しでも口当たりをまろやかにする。これは読む人のためというより、むしろ自分のためだ。ネガティブなことばかり書いていると、風邪をひいたときのようにどっと倦怠感に襲われるからだ。
だからぼくは、徹頭徹尾「嫌な話」を書ききった、桐野夏生という人がおそろしくてならない。
ここまで悪意に満ちた(ほんとに「満ちた」としか言いようがない)小説を書いているからてっきり狂気の世界の住人かと思いきや、母親として子育てをしていながら書いていたらしい。
それ、かえって怖いぞ。
自分の母親がこんな小説を書いていたらと思うと、おお、身震いが止まらない。
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