2015年7月28日火曜日

マダムと四色問題

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 昼間にバスに揺られていると、マダムたちが6人ほど連れだって乗り込んできた。
 マダムたち(というよりおばちゃんたち)は乗車するなり、
「ちょっとちょっと。このバス若杉町に行かへんやつちゃうの!」
「もう発車するで。はよ降りて降りて!」
「大丈夫!城山町に行くやつやから若杉町にも行く!」
などと口やかましくやっている。
 あまりに大きな声でやりあっているものだから、見かねたのだろう、運転手さんが車内アナウンスを使って
「このバスは若杉町に行きますよー」
と告げた。
 これにて一件落着。

と思っていたら、マダムたち(というよりおばちゃんたち(というよりオバハンたち)の百家争鳴はそれでもまだ収まらないのだった。
「城山町に行くやつでも若杉町に行かんことあるで!」
「でもこのバスはたぶん若杉町にも行くやつやと思うで」
「まああかんかったら途中で降りたらええんちゃう」

 なんということだろう。
 他ならぬ運転手さんがマイクを使ってまで「若杉町に行く」と断言したのだ。
 にもかかわらず、マダムたち(というよりおばちゃんたち(というよりオバハンたち(というよりババアたち)はまだ
「このバスは若杉町に行くか行かないか」で議論しているのだ。
 いったいどれほど多くの詐欺に引っかかってきたら、人はこれほど疑り深くなれるものだろうか。



 話は変わるが、最近ロビン・ウィルソンの『四色問題』という本を読んだ。
 四色問題というのは数学の世界では非常に有名な問題で、
「地図上の隣り合う国を違う色に塗り分けようと思ったら、どんなに複雑な地図でも、四色あれば十分である」ことを証明する問題だ。
 この一見単純な問題が極めて難しく、多くの数学者が百年以上挑んでは跳ね返され、最近になってやっとコンピュータを使って証明されたのだ。
 実際に地図を塗ってみればいいじゃん、というのは素人考えで、それでは数学の世界では証明として認められない。
 一億枚地図を塗ってみてすべて四色で塗れたら、ふつうの人は「じゃあどんな地図でも四色で塗れるんだろう」と思ってしまう。
 しかし99.999999パーセント正しくてもまだ信用しないのが数学者というやつで、その正確性の追求こそが科学を今日のように進歩させてきたのだから、彼らの取り組みにはただただ頭が下がるばかりだ。



 というわけで、運転手の言うことすら信用せず、森羅万象を疑ってかかる。
 こうしたババアたちの姿勢こそが科学技術を躍進させるのだ
……ということはまったくなく、躍進どころかただただバスの発車を遅滞されるばかりなのだった。

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