いや、いいんです。
そういうのじゃないんで。
私の出身は「嘘つき村」です。
あなたも、一度は耳にしたことがあるでしょう?
「必ず本当のことを言う正直村の村人と、嘘しか言わない嘘つき村の村人を、一度の質問で見破ってください」
とかいうやつ。論理パズルっていうんですか?
そのパズルでおなじみの「嘘つき村」です。
そうなんですよ。みなさんびっくりするんですけどね。実在するんですよ。
というより、みんなが作ったといったほうがいいかもしれませんね……。
誰があのパズルを考え出したのかは知りません。
でもあのパズルは人口に膾炙して、私立を受験するような子なら小学生でも知っている。
みんなの頭の中に「嘘つき村」はたしかに存在する。イメージってのはエネルギーですからね。そのエネルギーがあまりにも大きくなったとき、概念としての存在でしかなかった「嘘つき村」はたしかな実体となって生まれたのです。私たち村人と一緒に……。
私は「嘘つき村」で生まれ育ったわけですが、そりゃあ嫌なものですよ。
誰もが嘘しか言わないんだから。
何を信じていいのかわからなくなりますよね。
でももっとつらかったのは、村の外に出るときです。
「嘘つき村の村人」というレッテルを貼られ、誰もまともに話なんか聞いてくれません。
仕方ないですよね、村人全員嘘つきなんだから。
近くに「正直村」があって、そこの村人が誰からも愛されていたのとは大違いです。「正直村」はもうすぐ世界文化遺産に登録されるんだとか。
でもね。最近ふと思うんです。
私たち「嘘つき村」の村人と、「正直村」の村人にいったいどれほどの違いがあるんだろうって。
必ず嘘をつくって、考え方を変えれば、こんな正直な話はないですよね。
全部嘘なんですから。ひっくり返せば、思っていることは全部わかっちゃうわけです。
私たちからすれば、正直と嘘を巧みに使い分けるあなたがたのほうが、よっぽど嘘つきだと思います。
あ、すみません。
愚痴っぽくなっちゃいましたね。
こんなこと言うつもりはなかったんですが。
今言ったことは全部忘れてください。
全部嘘なんです。
だって私、「嘘つき村」の村人なんですから。
……本当ですよ。
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