2025年7月29日火曜日

【読書感想文】ジェンマ・エルウィン・ハリス『世界一シンプルな質問、宇宙一完ぺきな答え 131の質問に111人の第一人者が答える』 / かっこいい質問にすばらしい回答

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世界一シンプルな質問、宇宙一完ぺきな答え

131の質問に111人の第一人者が答える

ジェンマ・エルウィン・ハリス(編)  西田 美緒子(訳)

内容(Amazonより)
人間はなんのために生きているの? どうして右と左があるの? なぜ虹は曲がっているの? ……子どもは疑問の天才だ! 大人が困る子どもの質問に世界の第一人者が答える。


 子どもたちからの質問に、各分野のプロが答えるという企画をまとめたもの。ほぼ日本の「子ども科学電話相談」だね。ただし日本のほうは科学に限定しているけど、こっちはもっとくだらない質問も含まれる。

 どうすれば目から牛乳を出せるの?
 
 質問 ― ベン、一〇歳
 
 回答 ― イルケル・ユルマズ(目から牛乳を飛ばすチャンピオン)
 
 ぼくは目から牛乳を遠くまで飛ばす世界記録をもっている。どうやっているのかって? まず、鼻から牛乳を吸いこむ。それから鼻をつまんで(鼻から息を出すように、しかも鼻をつまんだまま)息を吹くんだよ。そうすると牛乳が強い力で押されて、鼻から目のはじっこまでつづいている涙管に流れこみ、上がっていく。そして目から飛びだしていく!ぼくが牛乳を遠くに飛ばした最長記録は、二メートル七九センチ五ミリ。これをできるのは、ぼくの左目の涙管が、たいていの人よりも太いからなんだ。
 だれにでも目から鼻につうじる涙管があって、目と鼻はなかでつながっている。泣くと鼻水がでるのはそのせいで、涙の一部が目から鼻に流れこむからさ。鏡に自分の目を映してごらん。目がしらの内側の上下に、小さい点が見えるはずだ。それがきみの涙管につがなる穴だね。
 お医者さんは、目から牛乳を出すのはよくないと言うだろうから、きみはやってはいけないよ。目が伝染病になったり傷ついたりすることがある。牛乳は、最後には耳にはいっていくかもしれない。でも、この回答をよろこんでもらえたらうれしいな。

 すばらしい。バカな質問にバカが真剣に回答している。なんだよ“目から牛乳を飛ばすチャンピオン”って。こいつに訊くこと、この質問しかないだろ。

 めちゃくちゃくだらない。くだらないけど、くだらないからといってボツにせず、ちゃんと採用して専門家(しかもこれ以上の適任はいない)に答えさせる姿勢はえらい。何がくだらなくて何が大事かなんて当人にしか決められない。もしかしたらこの回答を読んだ子どもが、人体の構造にさらに興味を抱いて優秀な研究者になるかもしれないしね。それか二代目目牛乳を飛ばすチャンピオンになるか。



 大人が読んでもけっこう勉強になる。

 グルグルまわると、どうして目がまわっちゃうのかな?
 
 質問―ジュマイナ、七歳
 
 回答―エリー・キャノン医師(テレビに登場する開業医)
 
 知らないかもしれないけれど、人がからだをまっすぐにしてじっと立っていられるのは、じつは耳のおかげなの。耳は音を聞きわけるだけでなく、からだのバランスもとっている。ほんとうにすぐれものね。
 耳の奥のほうの、脳のすぐ近くに、アーチ形をしたとても小さい管が三つあって、そのなかには液体がいっぱい詰まっている。
 その小さい管の内側には、もっと小さい毛がびっしり生えていて、液体が動くと、つられて毛もゆれる。
 海の底の海藻にちょっと似ているわね。でもその毛には、脳に信号を送って、「今はたくさん動いている」とか「今はあまり動いていない」と伝える役割があるのよ。
 あなたが動いていないときには、液体はおだやかな池の水のようにじっとしているから、両足でしっかり立っているかじっとすわっていることがわかって、管のなかの毛が脳にそう教える。でもグルグルまわりはじめると、液体は嵐の日の海のように激しくかきまわされるから、毛も激しくゆれ、からだがグルグルまわっていることを脳に伝える。ところが問題は、からだがまわるのをやめても、液体はしばらくバシャバシャ波うつのをやめないこと。
 液体のゆれがしずまるには少し時間がかかり、そのあいだは毛もゆれて、からだが動いているという信号を脳に送りつづける。からだは止まっているのに、脳はまだ動いていると思う。こうして脳が考えていることとからだがしていることがちがうために、目がまわってしまうというわけ。

 揺れるから酔うのかとおもっていたけど、これを読むかぎり、そうではなさそうだ。「揺れてて止まった」あるいは「揺れのリズムが変わった」ときに酔うわけだ。ずっと一定のリズムで揺れているのであれば酔わないのだろう。

 VR映像で酔うことがあるそうだけど、これはちょっとちがうな。「からだは止まっているのに脳は動いていると認識してしまう」という点では車酔いや船酔いといっしょだけど、VR映像では半規管は揺れないもんね。




 ぼくが選ぶベストQ&Aがこちら。

 サソリに紫外線をあてると光るのはなぜ?
 
 質問―シリン、八歳
 
 回答―ダグラス・D・ガフィン博士(生物学者)
 
 これはまた、むずかしい質問だ。まず、もう少しやさしい「サソリに紫外線をあてると、どうやって光る?」という質問に答えてみよう。光るのはサソリの表皮にある、紫外線(UV)があたると反応する化学物質だ。紫外線は目には見えないが、この化学物質のなかの電子というとても小さい粒のようなものを、いつもより活発に動かす力をもっている。その電子がまたふだんの動きに戻るとき、ぼくらの目に見える緑色の光を出すんだよ。
 でもきみの質問は「なぜ?」だね。たくさんの人たちが、こうではないかという答えを考えているが、たしかなことはまだわかっていない。そのなかのひとつは、メスのサソリが光ってオスのサソリを引きつけるというものだ。そのほかに、えさになる動物を引きつけているという考えもある。サソリは夜になると姿をあらわして、ガなどの昆虫をつかまえる。虫は光に集まるから、おなかをすかせたサソリのかすかな光にも誘われるかもしれない。
 三つ目は、サソリは表皮を使ってぼんやりした光を「感じている」という考えだ。ネズミやフクロウがサソリを食べようとねらっているので、サソリは逃げて身をかくさなければならないことがある。もし表皮で星の光を感じることができれば、からだに光があたらない、かげになるところまで走って、安全な場所を見つけられるかもしれない。ほのかに光るのは、緑色の光に気づく感覚が最も鋭いからだろう。表皮は星の光を吸収して緑色の光を出すことで、サソリができるだけうまく、ものかげを見つけられるようにしているというわけだ。
 ほかにもきみの質問にはいろいろな答えが考えられる。もしかしたら、サソリの光が果たしている役目などないのかもしれない。きみのようなすばらしい生徒が気づいて、質問をして、どんな可能性があるかと考えるよう、興味を呼び起こす以外にはね。

 えっ、サソリって紫外線をあてると光るの!? かっこいー!

 しかも画像検索してみたら、エメラルドグリーンに光ってた。かっこいー!

 質問もいいけど、回答が実にいい。

 三つの異なる答えを用意し、その上で仮説はまだまだあると伝えている。さらに、目的などない可能性も伝えている。世の中のものにすべて意味があるとおもっている人もいるけど、自然界には「たまたまあるだけで何の役にも立たないもの」もけっこうあるからね。ぼくらも含めて、すべての生物はまだまだ進化の途中なのだから。

 そして最後に、質問を褒めて、自分でも考えてみるよう誘導している。なんとすばらしい姿勢!


 NHKでやってる某クソ番組の「こうに決まってる! これ以外の答えをするやつはボーっと生きてんじゃねえよ! あ、でも文句つけられたらイヤだから『諸説あります』って言い訳しとこ。わからないことをわかりませんって言わずに済むための便利な言葉だから」の科学軽視の姿勢とは正反対だね!


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