ちょっと前まで、テレビは強いメディアだった。誰もが認めるところだ。
テレビの影響力はすごかった。視聴率10%だったら、単純計算で1000万人近くが観ていたわけだ。世帯視聴率なので実際はもっと少ないけど、それでも数百万、多ければ数千万人に同時にリーチできていたわけだから、とんでもないメディアだ。
ある番組で健康にいいと言われた食材が翌日のスーパーから消えた、なんて話も聞く。1000万人が視聴して、そのうち5%が買いに行ったとしても50万人が買うことになるわけだ。それも同じ日に。すごい。
今それに匹敵するメディアってないだろう(テレビ自身も含めて)。
YouTubeを月に一度以上利用する人が、日本で7000万人ぐらいだそうだ。
少し前ならテレビを月に一度以上視聴する日本人なんて100%に近かっただろう。月に一度どころかほとんどの人は日に一度以上は視聴していたはずだ。しかもYoutubeは観られている動画が無数にあるけど、地上波放送は数チャンネルしかない。ほとんどの人が同じものを観ていた。
じゃあ昔のテレビがそれだけおもしろかったのかっていうと、必ずしもそうとは言いきれない。テレビが強かったのは「テレビがおもしろかったから」ではない。
テレビの最大の強みは、「手軽に見られる」ことと「みんなが見てる」ことだ。
まず手軽さだけど、リモコンのボタンを押すだけですぐに再生が始まる。テレビ放送の再生に特化したデバイスが居間にどんと置いてあって、ボタンを1個か2個押すだけで再生が始まる。
パソコンの起動ボタンを押して、起動するのを待って、ブラウザを立ち上げて、検索するなりURLを入力するなりブックマークを探したりして目的のサイトを開き、そこで動画を検索し、再生ボタンを押すのに比べてずっと手軽だ。
そしてみんなが観ていること。
テレビの話題は、かなりの確率で共通の話題になりうる。いきなり映画や小説の話題を振ってくる人はあまりいないが、いきなりテレビの話題を振る人はけっこういる。
以前、同じ職場のおばちゃんから朝いきなり「X(女優)とY(芸人)が結婚したのびっくりしたねー」と話しかけられて驚いたことがある。みんながワイドショーネタに興味を持っているとおもっているのだ。それぐらい芸能ネタというのは一般的な話題だ。
人は「昨日のあのドラマ観た?」「こないだの〇〇おもしろかったなー」という会話をしたいものだ。だからネット動画になってもコメント欄がにぎわっている。
テレビは娯楽の王様とか言われていたけど、決してテレビのコンテンツが優れていたからではないだろう。もちろんおもしろい番組もいっぱいあったが、それと同じぐらい、おもしろい映画、おもしろい小説、おもしろい舞台演劇もいっぱいあった。コンテンツ自体の強さでテレビに劣っていたわけではない。
それでもテレビが圧倒的に強かったのは、手軽に、みんなが観ることができたからだ。
昨今、テレビ業界も斜陽産業になりつつあるらしく、有料配信などの会員制ビジネスを始めたりしている。
たぶんうまくいかないだろうな、とおもう。そういう囲い込みって、テレビの強みであった「手軽さ」「大衆性」の対極にあるものだから。
ついでに言えば、新聞も似たようなものだ。
日本の新聞が強いメディアだったのは、大衆性(みんなが同じような記事を読んでいる)と手軽さ(毎朝家に配達されるのでかんたんに読める)に依るところが大きい。
だから多くの人が購読をやめて大衆性が失われれば読まなくたって平気だし、一度購読をやめてしまえばわざわざ買ってまで読もうとはおもわない。
我々はとにかくめんどくさがりなのだ。
仕事以外でパソコンを使う人が減ってスマホにシフトしているのも、やはり手軽さが理由だろう。
だから今後スマホに取って代わるものができるとしたら、スマホを手に取って画面をオンにするよりも手軽なもの、たとえばまばたきするだけで眼前に映像が浮かびあがってくるようなメディアなのだとおもう。
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