2024年7月4日木曜日

【読書感想文】鎌田 浩毅『富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ』 / 火山灰はガラス

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富士山噴火と南海トラフ

海が揺さぶる陸のマグマ

鎌田 浩毅

内容(e-honより)
「3・11」以降の日本列島は、「大地変動の時代」に突入してしまった。富士山にも、火山学者たちが密かにおそれる、ある重大な「異変」が起こった可能性が高い。2030年代に高い確率で発生する、南海トラフ巨大地震の衝撃が加われば、300年間蓄積したマグマが一気に噴き出しかねない。火山学の第一人者による、渾身の予測と提言。


 タイトルの「南海トラフ」部分は、羊頭狗肉とまではいかないがちょっと釣りタイトル。南海トラフ地震のことは「近いうちに起きることが確実視されている」程度しか書かれておらず、ほぼ富士山噴火の話。

 まあ著者は火山学者なので、専門外の地震について語らないのは誠実な態度ではあるんだけど。だったらタイトルにつけるのはずるいな。そっちのほうが売れるから出版社の人がやったんだろうけど。



 富士山噴火と聞いても我々はあの雄大な富士山の姿しか見ていないからあまりぴんとこないけど、実は富士山は激しく活動している山で、わかっているだけでも過去2200年間で42回は噴火しているそうだ。平均すると50年に1回ぐらいは噴火する計算。もちろん等間隔で噴火するわけじゃないけど。

 そんなペースで噴火している富士山だから、300年噴火していない現在は「きわめてめずらしい状況」にあるわけだ。そう考えるといつ噴火してもおかしくない気がしてくる。


 富士山は大きな山だけに、そこに溜めこんでいるマグマも多く、もし噴火したら、火山灰、溶岩流、噴石、火山弾などさまざまなものを放出し、さらにそれによって火砕流や泥流といった現象を引き起こして広い範囲に被害を与えると見られている。

 たとえば火山灰にしても、ぼくなんかは「ああ桜島周辺だと風向きによっては洗濯物が干せないっていうね。火山灰が舞ったら不便だろうね」ぐらいにしかおもってなかったのだが、そんなものではないらしい。

 基本的には、火山灰はマグマから軽石を経由して大量に生産される。このようにしてできる火山灰の正体は、ガラスの破片である。 「ガラス」というと普通は、窓ガラスやガラスのコップを思い浮かべるだろう。実はガラスとは、物質がきちんとした結晶構造をもたない状態のことをいう。ガラスは結晶に比べるとずっと脆く、細かく割れると鋭い破片になるのである。
 マグマが急に冷やされて固まると、ガラスの状態になる。もしマグマが非常にゆっくりと冷えると、ガラスではなく結晶ばかりの塊になる。マグマが急冷したときだけ、ガラスになるのだ。
 つまり、噴火の際に火山灰が噴出するということは、①マグマが引きちぎられて空中へ放り出されたあと、②急速に冷えてガラスの破片になること、を意味する。そのため火山灰には、鋭い破面をもったガラスが含まれるのである。これらが肺の中に吸入されると、先に述べた珪肺という症状を起こすのである。
 さて、これで火山灰が「燃えかす」ではないことが理解していただけただろう。
 岩石の細かいかけらである火山灰は、水に溶けることもなく、いつまでも消えることがない。乾燥すれば何週間も舞いあがり、雨が降るとまるでセメントのように固まってしまう。城の壁に使われている漆喰のように硬化するのである。

 火山灰という言葉からさらさらした粉のようなものをイメージしていたのだが、その正体はガラスなのだ。細かいガラスが広範囲に撒きちらされるわけで、それはさぞかし困ったことになるだろう。

 重みもある(雨を吸えばさらに重みは増す)から屋根に積もれば家屋を壊し、排水管を詰まらせ、農作物を枯らす。さらに細かいので首都圏にまで飛んでいき、細かいので機械・コンピュータの中にまで入りこんで故障させる。

 そうなるとどこまで被害が拡大するかわからない。

 さらに「南海トラフ地震が引き金となって富士山が噴火する」という可能性も十分にあり、そうなると震災に加えて大規模な停電や通信障害も起こる可能性があり、地震被害がさらに拡大することになる。


 ふうむ。たいへんだ。そんな大惨事が数十年のうちにほぼ確実に起こるのだ。

 ただ救いなのは、噴火は地震とちがって数十日前には発生がわかること。

 わが国では活火山を所掌する気象庁と、各大学をはじめとして、国立研究開発法人である防災科学技術研究所、国土地理院、産業技術総合研究所などが約50の活火山に観測網を展開し、そこで得られたデータは気象庁によって24時間監視されている。
 そうした観測結果をもとに、われわれ地球科学を研究する者は「火山学的には富士山は100パーセント噴火する」と説明している。しかし、最初の噴火予兆である低周波地震がいつ始まるかを前もって言うことは、現代の科学技術でもまったく不可能である。
 たしかに低周波地震の発生から噴火までには数週間~1ヵ月ほどの時間を要することは予測しているが、「噴火の数週間~1ヵ月前」というスタートは、明日かもしれないし、かなり先の数年後かもしれないわけである。だが少なくとも、スタートしてから数週間~1ヵ月ほどの時間的な猶予はあるので、その間に可能なかぎり準備と対策を講じるべきだと言っているのである。
 噴火予知は地震予知と比べると、実用化に近い段階にまでは進歩してきた。しかし、一般市民が知りたい「何月何日に噴火するか」に答えることは、残念ながら現在の火山学ではできない。仮に「何月何日に噴火する」といった風評がメディアやインターネットなどで流れても、科学的根拠はまったくないので信用しないでいただきたい。

 数週間あれば避難もできるしある程度は手を打てる。

 となると、やっぱり怖いのは、同じように「ここ数十年でほぼ確実に起こる」と言われている南海トラフ地震のほう。地震も予知できるようになってほしいものだ。せめて数時間前でもいいから。


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