鎌田 浩毅
タイトルの「南海トラフ」部分は、羊頭狗肉とまではいかないがちょっと釣りタイトル。南海トラフ地震のことは「近いうちに起きることが確実視されている」程度しか書かれておらず、ほぼ富士山噴火の話。
まあ著者は火山学者なので、専門外の地震について語らないのは誠実な態度ではあるんだけど。だったらタイトルにつけるのはずるいな。そっちのほうが売れるから出版社の人がやったんだろうけど。
富士山噴火と聞いても我々はあの雄大な富士山の姿しか見ていないからあまりぴんとこないけど、実は富士山は激しく活動している山で、わかっているだけでも過去2200年間で42回は噴火しているそうだ。平均すると50年に1回ぐらいは噴火する計算。もちろん等間隔で噴火するわけじゃないけど。
そんなペースで噴火している富士山だから、300年噴火していない現在は「きわめてめずらしい状況」にあるわけだ。そう考えるといつ噴火してもおかしくない気がしてくる。
富士山は大きな山だけに、そこに溜めこんでいるマグマも多く、もし噴火したら、火山灰、溶岩流、噴石、火山弾などさまざまなものを放出し、さらにそれによって火砕流や泥流といった現象を引き起こして広い範囲に被害を与えると見られている。
たとえば火山灰にしても、ぼくなんかは「ああ桜島周辺だと風向きによっては洗濯物が干せないっていうね。火山灰が舞ったら不便だろうね」ぐらいにしかおもってなかったのだが、そんなものではないらしい。
火山灰という言葉からさらさらした粉のようなものをイメージしていたのだが、その正体はガラスなのだ。細かいガラスが広範囲に撒きちらされるわけで、それはさぞかし困ったことになるだろう。
重みもある(雨を吸えばさらに重みは増す)から屋根に積もれば家屋を壊し、排水管を詰まらせ、農作物を枯らす。さらに細かいので首都圏にまで飛んでいき、細かいので機械・コンピュータの中にまで入りこんで故障させる。
そうなるとどこまで被害が拡大するかわからない。
さらに「南海トラフ地震が引き金となって富士山が噴火する」という可能性も十分にあり、そうなると震災に加えて大規模な停電や通信障害も起こる可能性があり、地震被害がさらに拡大することになる。
ふうむ。たいへんだ。そんな大惨事が数十年のうちにほぼ確実に起こるのだ。
ただ救いなのは、噴火は地震とちがって数十日前には発生がわかること。
数週間あれば避難もできるしある程度は手を打てる。
となると、やっぱり怖いのは、同じように「ここ数十年でほぼ確実に起こる」と言われている南海トラフ地震のほう。地震も予知できるようになってほしいものだ。せめて数時間前でもいいから。
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