稲垣 栄洋
この著者の本を以前にも読んだことがあるが「専門分野である雑草の話はおもしろいが、それ以外の分野はめちゃくちゃ乱暴でいいかげんなことを書くなあ」という印象だった。
本書も同じ。
こういう話は納得できる。
ただ、その後に「だから君たちもオンリー1の場所でナンバー1をめざして~」とか「だから人間もそれぞれ個性があるのがよくて~」みたいなお説教に持っていく。これがよくない。朝礼の校長先生の話のようで、とたんにつまらなくなる。
あらゆる生物はそれぞれのニッチに特化した生態を持って生きている、だから自分も目立つ場所でナンバー1になれないかもしれないけど、どこかに持ち味を発揮できる場所があるはず。がんばろう! ……とおもうのはいい。好きにしたらいい。でもお説教の道具にするのはよくない。その生物はその生物、あなたはあなた。ぜんぜんちがうものなんです。
ここまでで終わってればいいんだけどね。その後に人生訓を語るから、とたんに話が嘘くさくなる。
生物がある分野に特化して生きているのはべつに狙いが成功したわけではなく単なる結果だし、「ある分野に特化して生きのびている生物」よりも「ある分野に特化したことで死んでしまった生物」のほうが圧倒的に多い。
狭い分野に特化した特徴を持つのはものすごく勝つ確率の低いギャンブルで、たまたま勝ち残ったやつらが今生きているだけだ。それを処世術みたいに語るのは間違っている。
ユニークな特徴を持っていたほうがいいってのは、生態系における種の話としてはそうかもしれないけど、各個体にまで拡げて語るのはめちゃくちゃ乱暴。ぜんぜん別物だからね。
とにかく科学に対して不誠実。「学生向けの本だから不正確でもいいや」って態度で書いてるのかな。
また、知ってか知らずか、誤った記述も多い。
たとえば、「人間の祖先はかつてサルでした」なんて書いている。正しくは、人間の祖先はサルの祖先でした、だ。人間の祖先はサルじゃない。
週刊誌のエッセイ程度ならともかく、こういう本をちくまプリマ―新書として出したらだめよ。
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