2023年9月7日木曜日

【創作】死なない世界

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 医療技術の発達により身体や脳が衰えることはなくなった。事故や他殺や自殺以外で死ぬことはなくなった。ほぼ不老不死だ。


 問題は人口が増えることだ。ほとんど死なないのだから。

 人が増える。困る。土地や食料や資源は有限なのだから。誰か死ねよ。じゃあおまえが死んだらどうだ。いや、おれはいやだよ。おれより先に死んだほうがいいやつがいるだろ。おれが死ぬとしても、それより後だろ。

 誰も「私が死にますよ」と言わない。「自分以外の誰かが」とおもうだけだ。ゴールデンウイークに渋滞に巻き込まれて「なんでこんなに人が多いんだ!」と怒る人と同じだ。


 しかたない、これ以上増えないようにしよう。厳しい産児制限。事故や自殺で死んだ分だけ産んでもいいことにする。

 人口構成比はものすごくいびつになる。ほとんどが高齢者。それも元気な高齢者。若者はごくごくわずかだ。

 富も権力も高齢者が独占している。あたりまえだ。なにしろ何百年も生きていて、頭も肉体も元気なのだ。稼ぐ方法、権力を手にする方法を熟知しているし、金は資産のある者のところにどんどん集まる。何百年もビジネスをしている資産家と新社会人がビジネスの場で勝負になるはずがない。

 したがって、嫌な仕事はすべて若い連中にまわってくる。法律も制度も若い人に不利にできている。若いやつらは数が少ないので太刀打ちできない。産児制限されているから増えようもない。

 形だけは民主主義が保たれている。だがあくまで形だけ。人口のほとんどが年寄りなのだから年寄りに支持されている政党が勝ち、年寄りに有利な法が作られる。政権交代は起こりようがない。世代交代も。



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