2020年5月27日水曜日
今どきの進研ゼミ
昔、進研ゼミにお世話になっていた。
ぼくは人の話を聞くのが苦手なので、塾や予備校はどうも性にあわない。
進研ゼミのように自分の部屋で自分のペースで学習できる教材がいい。
ぼくが第一志望の大学に合格できたのは、進研ゼミ高校講座のおかげだ。
中一~高三まで進研ゼミをやっていた。
だが、それより前、小学三年生ぐらいのときにもやっていた。一年か二年。
で、やめてしまった。
ものすごくよくある話で恐縮なんだけど、
ポストに進研ゼミのダイレクトメールが届く。
↓
載っている漫画を読み、興味を持つ。ポイントシールを貯めてもらえるプレゼントも魅力的。
↓
親におねだり。絶対にちゃんとやるからと言って始めさせてもらう(子どもに「勉強したい!」と言われて断れる親はなかなかいないよね)。
↓
はじめはちゃんとやるがそのうち読み物だけ読んで問題には手をつけなくなる。ポイントシール欲しさに添削問題だけ出す。
↓
なかなかポイントが貯まらないことに嫌気がさして添削問題すら出さなくなる。
↓
親に怒られる。ゼミ解約。
毎年何万人もの小学生が同じことをやっていたとおもう。ぼくもその一人だった。
中学講座から再開したが、中学生以降はちゃんとやれるようになった。
学校の定期テストというわかりやすい目標があり、自宅学習の習慣もそれなりについてきたからだ。
小学生には早すぎたのだ。
娘が小学校に入った。
「低学年の間は勉強は学校だけで十分!」とおもっていたのだが、そうも言っていられなくなった。
そう、コロナ騒動のせいで授業がなくなったのだ。
「学校だけで十分」と言っていたが、その学校がないのだ。
一応宿題は出されるが一日三十分で終わってしまう。
緊急事態宣言下なので遊びに行かすこともできない。
放っておくとずっとテレビを観ている。
あわてて通信教育の資料請求をした。
進研ゼミ、Z社、S社の資料を取りよせた。
資料を見比べて感じたのは、S社はかんたんそうなので授業についていけない子の補習に使うにはいいがたっぷり時間のある今やるにはものたりなさそう、Z社は問題がよく練られている感じがしたが娯楽要素が少なすぎて低学年には魅力が乏しいのではないか、という印象。
基礎~発展まで幅広く対応していて、ごほうびや読み物も充実していた進研ゼミを申し込むことにした。
なにより、かつてぼくがお世話になったということが大きい(ちなみに妻はZ社を受講していたのでZ社を推していたが「今は勉強嫌いにさせないことが大事だからおもしろいほうがいい!」と言って説きふせた)。
ただ申し込もうとしたら、受講の申し込みが殺到しているので教材の到着が遅れるとの連絡があった。
そりゃあなあ。学校授業がないんだもの。塾にも行けないし。そりゃあ通信教育に群がるわ。
どの家庭も考えることは同じだ。
進研ゼミ小学講座にはタブレットコースと紙のテキストコースがある。
おもしろいほうがいいだろうとタブレットコースにしたのだが、4月上旬に申し込んだのにタブレットの発送は5月下旬になるとのこと。いたしかたなし。
タブレット到着が遅れているので、到着までのつなぎとして紙のテキストを送ってくれた(その分の料金はサービス。ありがたい)。
娘にやってもらう。
はじめは順調だった。
一年生なので「ひらがなをかいてみよう」とか「いくつあるかかぞえてみよう」みたいな問題ばかり。
娘も「かんたん、かんたん、また百点」と言いながらやっていた。
だが少し発展的な問題になると足踏みするようになった。
答えがわからないのではない。問題がわからないのだ。
「①に『かなしかった』とありますが、だれがかなしかったのでしょう。あてはまることばをぬきだしましょう」
みたいな問題が出る。
だがテスト問題を解いたことのない小学一年生には
「本文の中から①を探す」
「その前後の文章を読んで主体をさがす」
「見つけたらそのまま“ぬきだす”」
といった作業ができないのだ。
そういうのはある種のテクニックが必要で、いくつか数をこなしていかないと身につかない。慣れてくると「“ぬきだしましょう”ときたら改変せずに一字一句そのまま書く」とかわかってくるけど、一年生にはわからない。
問題について考える以前に「何を問われているか」がわからないのだ。
横について教えていたのだが、娘もだんだんうんざりしてきた。
「そもそも何を問われているかわからない。その都度人に教えてもらわないといけない」
というのはなかなかのストレスなのだ(ぼくだってそんな仕事イヤだ)。
またぼくも妻も家にはいるがリモートワークをしなければいけないのでつきっきりで教えてあげられるわけではない。
やはり小学一年生に自宅学習は無理があるなと感じはじめていた矢先、ようやく学習用タブレットが届いた。
これがすごい。
食いつきがちがう。
まずアニメで例題の解き方を教えてくれるので「何をどう答えていいかわからない」とならない。
正解/不正解のフィードバックがすぐにあるのものいい。
まちがえた問題はすぐにもう一度出題されるのでまちがえたままにならない。
さすがプロが集まって考えている教材だ。飽きさせない工夫、何度も挑戦したくなる工夫が随所に見られる。
紙の教材だと親がつきっきりで教えてあげないといけない(教えてもうまくいかない)のに、その代わりをタブレットがやってくれるのだ。
分量も多い。
基礎編が終わったら、演習編、発展編の問題も用意されている。
学校の勉強についていけない子は基礎編、もっとやりたい子は演習編や発展編で骨のある問題にチャレンジできる。
またタブレットは勉強をできるだけじゃない。
動画が視聴できたり(猫の動画とか交通安全動画とか子ども向けニュースとか無害なものばかり)、電子書籍が1,000冊読めたり、勉強になるパズルゲームができたり、いろんなコンテンツがある。
とにかく毎日タブレットを起動してもらうことが大事なのだろう。スマホゲームがログインボーナスを与えているのと同じだ。
機能もすごいが、それ以前に小学生からしたら自分専用の端末を持てるというだけでうれしいだろう。
うちの娘は、ぼくが「ちょっとがんばりすぎだから今日はそれぐらいにしときや」と言ってしまうぐらい毎日タブレットの課題に取り組んでいる。
で、ぼくはおもう。
くそう。
どうしてこんないい教材がぼくが小学生のときはなかったんだよ!
いいなあ。
これがあったらぼくだってもうちょっとゼミを続けたのになあ。
ゲーム感覚で勉強できたのになあ。
うらやましいなあ。
だからぼくは娘に「ゼミの勉強もいいけど、本を読んだりピアノを弾いたり、ちがうこともしようね」と言う。
だって横でこんないいものをずっとやってるの、くやしいんだもん。
2020年5月26日火曜日
ツイートまとめ2009年9月
命あってのものだね
友人に「男と女それぞれの生きづらさ」みたいなことを語ったら「それは興味深いのでぜひTwitterでまとめてほしい」と言われたんだけど、Twitterでジェンダーやフェミニズムについて語るほど命知らずではない。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 2, 2019
1パック
昔「わんぱくな子は牛乳をどれだけ飲むでしょう?」というなぞなぞを出された。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 3, 2019
答えは1リットル(わんぱく⇒ワンパックだから)だったんだけど、そのなぞなぞも今では成立しないんだなー。
変動為替相場制の終焉で「ハンドルの値段は?」「180円(ハンドル⇒半ドル)」が成立しなくなったように。 https://t.co/dgFjIm3USo
ステータス
RPGとかで最初に「こうげき」「ぼうぎょ」「かしこさ」「すばやさ」とかにパラメータを振り分けるやつあるけど、あれでいうと人間の赤ちゃんって「かわいさ」にステータス全振りした状態で生まれてくるよね。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 3, 2019
しまっていこう
キャッチャー「しまってい……。おい、一年、言われる前に勝手にしまるんじゃない!」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 6, 2019
うこそいら
— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 7, 2019
不要急
「見てもどうにもならないけど気になるから今の田んぼの様子見とこう」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 9, 2019
は必要ではないけど急を要する外出じゃないでしょうか。
この手で
— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 12, 2019
庶民
庶民の出なので飛行機チケットの相場などまったく知らず、新婚旅行のときに妻と「一生に一度のことだから奮発すっか。ファーストクラスとまではいかんけどビジネスクラスなら余裕っしょ。せいぜいエコノミーの倍ぐらいでしょ」と話して旅行会社に伝えたら、文字通りケタがちがって腰抜かした。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 13, 2019
深い
「深いですね」と感想を言う人のどうしようもない浅さよ。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 13, 2019
むちむち
うちの11ヶ月児、こんなふうにすごく肉付きがいいんですが、さっき外国人のおじいさんが近づいてきて身ぶり手ぶりで— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 15, 2019
「あなたの子、腕と脚がむちむちしててすごくイイですね!」
みたいなことを伝えられた。
どうしても伝えたかったんだな……。 pic.twitter.com/H0A8qCoFxY
冥途の土産
ミステリやサスペンスで「冥土の土産に教える」のを禁止にしてほしい。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 16, 2019
計算高くて慎重で冷酷なはずの犯人が
「どうせ君はまもなく死ぬのだから冥土の土産に教えてやろう。どうやって私が殺したのかというと……」
と語りだしたら、心底がっかりする。
バグ
会社の後輩と話してて— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 17, 2019
後輩「虫の名前とかどうでしょうか」
ぼく「そんなことしたらバグっちゃうよ。虫だけに(ドヤッ)」
後輩「えっ、どういうことですか」
ぼく「あの、虫ってのは、あっ、いやっ、やっぱりなんでもない(急に恥ずかしくなる)」
と、非常に悔しい思いをしたことをここにしたためる。
不審者
近所の公園に、女性ばかりを狙って「タバコ買いたいんで千円ちょうだい」と声をかける不審者が出たらしいんだけど、— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 18, 2019
・金をたかる
・女性ばかり狙う
・食費とか交通費とかならまだしもタバコ代って理由がひどい
・だいたいタバコ買うのに千円もいらんやろ
と、何から何までダメなやつだな……。
言い伝え
我が家にも先祖代々「UVインデックスが6を超える日は出歩くな」という教えが伝わっています。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 19, 2019
紫外線の存在が知られていない時代でも強い日差しが危険なことを経験的に知っていたんでしょうね。やはり昔の人の知恵はすごいですね。
広報
「政府は〇〇という見解を示した」というタイプのニュース記事はもういらないのではないか。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 19, 2019
政府の見解を国民に伝える手段が他になかった時代には意味があったのだろうが、今は政府公式HPで発信できるのだから記者が赴いて記事にする必要がない(質問をして回答を引き出さないのであれば)。
百歩譲ってネット環境のない人のためにラジオやテレビが報じる意義はあるのかもしれないが、少なくともネットニュースには「政府は〇〇と発表した」記事はいらない。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 19, 2019
政府HPにリンクを貼れば済むし、そっちのほうが正確だ。
例外ホームラン
野球のホームランって、ランニングホームランはオーソドックスな点の入り方(二塁打三塁打の延長)で、柵越えホームランのほうが例外的処置なのに、柵越えのほうが「ホームランといったらこっちでしょ」みたいな顔して威張ってるの納得いかない。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 19, 2019
ブックオフ
十数年ぶりにブックオフに行ったんだけど、文庫が500円、ハードカバーが900円とかすごい値段がついてて、「立ち読みしにいく以外に誰が行くねん」って店になってた。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 25, 2019
最近よく閉店するって聞いてたけど、そりゃあな……。
ピラミッド
中学校とき体育教師が二人いて、一人は運動会で高いピラミッドをつくらせていて、もう一人は生徒が「高いのやりたいです」と言っても絶対に五段までしかやらせてくれなかった。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 27, 2019
当時はつまんねー先生、とおもってたけどいま思うとすごくいい先生だった。
ぼくがバカでした。ごめんなさい。
初手
オセロの一手目って絶対にこの形になるじゃないですか(他のとこに置いても回転または裏返せば重なるので実質同じ)。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) September 27, 2019
だからこの形から白が先手で始めたらいいんじゃないですかね。 pic.twitter.com/8InAYGq2IH
2020年5月25日月曜日
【読書感想文】現生人類は劣っている / 更科 功『絶滅の人類史』
絶滅の人類史
なぜ「私たち」が生き延びたのか
更科 功
人類700万年(サヘラントロプス・チャデンシス~ホモ・サピエンス)の歴史を駆け足で走り抜ける一冊。
ものすごくわかりやすくまとめられていて、かつ随所に挟まるトピックスもおもしろい。
人類史の入門書としてこれ以上ない(といっても他の本をほとんど知らないけど)本だ。
ぼくも学生時代に歴史の授業の最初のほうで人類の歴史を習ったはずだが、ぜんぜんわかっていなかった。
アウストラロピテクスとかジャワ原人とかクロマニオン人とかネアンデルタール人とかの名前をおぼえていただけ。
恥ずかしい話、ぼくはネアンデルタール人がヒトになったんだとおもっていた。我々の直系の祖先なのだと。
でもそうではなかった。ネアンデルタール人とヒト(ホモ・サピエンス)は別の種だったのだ。同時代に生きていたが、ヒトはその後繁栄し、ネアンデルタール人は滅びた。いってみればライバルのような存在だったのだ。
人類史をやっている人からしたら常識なんだろうけど、そんなことすらわかっていなかった。
「万物の霊長」という言葉が表すように、ぼくらは今のヒトがあらゆる生物の中でいちばん優れている、いちばん賢い存在だと考えてしまう。
賢かったからこうして地球上で繁栄しているのだと。優れているから今こうして快適な暮らしを送っているのだと。
ところが人類の歴史を見てみると、その考えが誤りだということがわかる。
初期の人類は猿の中で劣った存在だったのだ。
劣っていたから競争に負けて森林から出ていかざるをえなかった。
ところが走るのも遅く、強い武器も持っていなかった人類は、森林を追いだされたらとても生きていけない。
だから群れて暮らす必要があった。
群れれば敵に気づきやすくなるし、襲われたときも食べられる可能性が減る。
そうやって群れて暮らすうちにコミュニケーション能力が発達した。
また外敵や厳しい環境から身を守るために道具をつくる必要も生まれた。
もしも人類が強かったら、今頃まだ森の中で暮らしていたことだろう。
ヒトは人類以外の動物より劣っていただけでなく、他の人類よりも劣っていた。
ネアンデルタール人はホモ・サピエンスより体格が良かったらしい。しかも脳の大きさもネアンデルタール人のほうが大きかった(ただし脳が大きいから賢いとは言い切れないが)。
ホモ・サピエンスはネアンデルタール人より劣っていたからこそ、よりよい道具を作ることが求められた。
そうして道具を生みだし、またホモ・サピエンス間のコミュニケーションによって道具の作り方を伝えていった人類は、総合力の差でネアンデルタール人を追いぬいた。
またネアンデルタール人は体格が良かったからこそ、その大きな身体を維持するのにより多くのエネルギーを必要とした。
食糧が豊富にあるときはいいが、飢餓期には身体が小さいほうが有利だった。
われわれの脳はネアンデルタール人より小さいばかりでなく、昔のホモ・サピエンスと比べても小さくなっているのだそうだ。
ここに紹介されているのはあくまでひとつの説だが、文字という記録装置が生みだされたことで大きな脳を必要としなくなったという説はおもしろい。
だとしたら、この先どんどん脳は小さくなっていくのではないだろうか。
ここ百年間で計算機やコンピュータなど外部のOSやメモリが次々に生まれたのだから。
我々は有史以来もっとも優れた生物だとおもっているが、とんでもない。
もしかしたら史上まれにみるほど、生物として劣った存在なのかもしれない(なにしろ餌をとらなくても敵から逃げなくても生きていける生物なんて他にいないのだから)。
今の人間はたしかに地球上で支配的なポジションにいる。
でもそれは我々が優れているからではなく、たまたま環境に適応できた、運がよかっただけなのだ。
もしも地球上がもっと過ごしやすい環境だったら、覇権を握っていたのはホモ・サピエンスではなくネアンデルタール人だったかもしれない。
いやそれどころか恐竜が跋扈していて哺乳類自体が生態系ピラミッドの下のほうでひっそりと生きていた(あるいは絶滅していた)かもしれないね。
その他の読書感想文はこちら
2020年5月22日金曜日
【小説】肥満禁止社会
いつものように改札に定期を入れるとブザーが鳴った。
そうだった、今日からだった。すっかり忘れていた。カードケースを取りだし、ICカードを押しあてる。
今日から二倍の料金か。ため息をつく。だが仕方がない。
改札を抜け、階段をおりる。膝が痛むので手すりにつかまりながらゆっくりと。他の乗客たちはエスカレーターでホームへとおりてゆく。必死に階段をおりるおれのことを笑っているように見える。ちくしょう、ほんとはおれのようなやつこそエスカレーターを必要としているのに。
地下鉄に乗りこむとちょうど座席が空いていた。一瞬躊躇するが、二倍の運賃を払ったことをおもいだして腰をおろした。二倍の運賃を払っているのだから当然座る権利があるはずだ。
ほっと一息ついて鞄から文庫本を取りだしたのもつかぬま、老婆から声をかけられた。
「ちょっと、座るんだから立ちなさいよ」
さっき扉が閉まる直前に駆けこんできたババアだ。
昨日までならおとなしく立ちあがっていたところだが、今日はちがう。なにしろ運賃二倍なのだ。
「わたしは二倍の運賃を払っているんですよ。当然座る権利もあるはずです」
「はあ? 何言ってるのよ。そんなの関係ないでしょ。デブに座る権利があるわけないじゃない」
周りの乗客がこちらを見る。一人の中年男がこちらに近づいてきた。まるでこうなるのを待っていたと言うような薄笑いを浮かべて。
「まあまあ。こちらの女性に席を譲ってあげましょうよ。こちらは細身の方なんですから」
ババアはほれみなさいよという顔でこちらを睨みつける。だがおれも黙ってはいられない。
「しかしですね。今日から体重100kg以上は運賃が二倍になるんですよ。二倍払っているんだから当然座席を二人分使う権利もあるでしょう」
「運賃が二倍なのは重量が二倍だからです。それで得られるのは乗る権利であって座席を二人分占める権利ではありませんよ。ほら」
男は反論を予想していたかのようにタブレットの画面を見せてきた。新聞社のサイトが表示されており『今日から施行! 肥満乗客対策法に関するQ&A』という記事があった。記事の内容はちらりと見ただけだが、どうやらおれのほうが分が悪いようだ。あきらめて立ちあがる。
ババアはわざとらしく座席に脱臭スプレーを吹きかけてから腰をおろした。その隣にスペースはあるがもちろんおれは座れない。仮に座れたとしてもあのババアの隣に座るのはごめんだが。
事の成り行きを見ていた乗客数人がスマホを取りだして何やら入力しはじめた。きっとSNSで「デブが迷惑行為!」的なことを発信するのだろう。
おまえらも全員デブになれ。心のなかで呪いをかける。
おれはスマホを取りだして、検索窓に「肥満乗客対策法」と打ちこんだ。
すぐにさっきのサイトが見つかった。じっくり読んだが、やはり肥満に座る権利はないらしい。「立つことでカロリー消費を増やし、肥満から解放されることが狙い」なんて書いている。まるでおれたちのために立たせてやっている、とでもいうように。
嘘つけ。「デブはじゃま」が本音のくせに。
ここ数年の肥満バッシングはすさまじい。
ポリティカルコレクトネスだのなんだの言ってるくせに、デブだけは差別してもよいという風潮だ。昨年の流行語大賞には「デブハラ」がトップ10入りした。デブは存在自体がいやがらせなのだそうだ。
おかげですっかり肩身が狭くなってしまった。狭くないけど。
肥満乗客対策法についてもおれは納得していない。
「重量が二倍であれば運賃も二倍にするのは正当な料金体系だ。郵便物だって重さに応じて値段が変わるじゃないか」というのが賛成派の主張だ。
だったら体重六十キロの人間は四十キロの人間の五割増しにしろよ。幼児だって体重に応じて料金負担しろよ。おれはそうおもうが、肥満者の意見は通らない。
結局みんな太ったやつを差別したいだけなのだ。喫煙者と太った人間はどれだけ差別してもいい。それが世の風潮なのだ。
きっかけは数年前だった。
SNSで作家が書いた「デブのせいで六人掛けの座席に五人しか座れない」という投稿が爆発的に拡散された。
それをきっかけに「楽しみにしていたライブなのに隣がデブだったせいで窮屈だった」「デブがいるとエスカレーターがスムーズに流れない」だのといった声が広がりはじめた。あげくには「高速道路が渋滞するのはデブのせいだ」なんて言いがかりとしか思えない投稿もあったが、反論よりも支持のほうがずっと多かった。
ちょうど同じ頃に厚生労働省が「医療費が増えているのは肥満のせい」「介護職の離職率が高いのは肥満老人の介護負担が大きいから」なんてデータを発表して、一気に肥満バッシングムードが高まった。国民からの批判をかわすためにおれたちをスケープゴートにしているだけなのに、人々はかんたんに乗せられた。
今じゃどの鉄道会社も「肥満の方は標準体型の方に席をお譲りください」とアナウンスをしている。肥満禁止車両までつくられた。まるで痴漢のような扱いだ。
医療費も上がった。100kg以上は保険証を持っていても6割負担。それでも「医療費増大は肥満のせい」という声は収まることがない。
肥満のほうが早死にするから生涯医療費は少なくて済む、なんてデータを上げて擁護する声もあったが(もちろん擁護者も肥満なのだろう)、焼け石に水。世間が求めているのはデータではなくサンドバッグなのだ。
言いたいことはたくさんある。
好きで太っているんじゃない。遺伝子のせいなんだ。人よりよく食べるということはたくさんお金を使っているということだ。消費税もいっぱい払ってるんだ。8%の商品ばっかりだけど。経済を回して税金負担しているんだ。蔑むな、むしろ称えよ。
でも言わない。
世間が求めているのはもの言うデブではなくもの食うデブなのだ。
2020年5月21日木曜日
【読書感想文】復興予算を使いこむクズ / 福場 ひとみ『国家のシロアリ』
国家のシロアリ
復興予算流用の真相
福場 ひとみ
伊兼 源太郎『巨悪』という小説に復興予算流用の話が出てきて、興味を持ったので買ってみた。
2011年の東日本大震災の復興予算として5年で19兆円の国家予算が組まれ、そのうち10.5兆円が増税によってまかなわれることになった。
昨年の消費税増税は大きな話題になったが、そのときの増税はさほど大きな話題にならなかったはずだ。ぼくもニュースで見たが「まああれだけの震災、復興には途方もない金がかかるだろうから仕方ないな」とおもった記憶がある。
ところが。
復興予算はじっさいにどう使われたのか。
ひどい。
めちゃくちゃだ。復興予算がわけのわからないところに使われている。
国民が「被災した人を救うためなら仕方ない」と自らも苦しいのをこらえて受けいれた増税分が、防衛省の航空機の購入費に使われているのだ。大犯罪じゃないか……というのがふつうの感覚だろう。
ところがこれが犯罪じゃないのだ。
「耐震工事」だとか「復興を世界にアピールする」などの名目さえ挙げれば、まったく検証されることもなく復興予算を使えたというのだ。信じられない。
理屈と膏薬はどこにでもつく。そんな理屈は何の意味もない。
百歩譲って、被災地の復興に使って余ったから他の用途に使わせてもらったというならまだ理解はできる。
それでも許せんけど。
だが事実はもっとひどい。
被災した自治体にはなんのかんのと理由をつけて金を渡さず、一方で国家事業であればクールジャパンだのスカイツリーだのわけのわからぬ事業にじゃぶじゃぶ復興予算を使う。
東北では仮設住宅に住んでいたり、元の生活がまったく戻らない人も大勢いる中で、復興予算が「国会議事堂の電灯をLEDに変える」なんてことに使われていたのだ。
許せない。
人でなし、という言葉が頭に浮かんだ。
この予算案を認めた人間は、法律的に問題がなければセーフ、という考えで動いたんだろうか。
でも地震で深刻な被害にあった地域の復興を後回しにして復興予算で国会議事堂の電灯をLEDに変える、なんてまともな人間なら誰だってやっちゃいけないことだとわかる。
法律に違反しているかいないかの問題じゃない。人間としてぜったいにやっちゃいけないことだ。
風上にも置けない。
でもそれが堂々とおこなわれていた。
一件二件ではない。いろんな省庁でいろんな名目で使われていた。
法律に違反しているかいないかの問題じゃない。人間としてぜったいにやっちゃいけないことだ。
風上にも置けない。
でもそれが堂々とおこなわれていた。
一件二件ではない。いろんな省庁でいろんな名目で使われていた。
利権の奪いあい、省庁間の綱引き、天下り先の法人への便宜。そんなくだらない理由で、復興予算が使われた。
「投資話を持ちかけて100万円をだましとる」と「孤児のための募金として集めた100万円をふところに入れる」だったら、ほとんどの人は後者のほうがより悪質だと感じるだろう。被害額は同じでも。
人の善意につけこんで金をだましとるなんてクズ中のクズのすることだ。
復興予算の流用はそれと同じだ。いや、税金という形で強制的にとっている分、より悪質かもしれない。
そんなクズ中のクズ行為が各省庁でまかりとおっていて、しかも誰も罪をつぐなっていない。罪を罪ともおもっていない。
復興予算が他の用途に使われていることが明らかになり、大きな問題になった。
(だがはじめはメディアも見て見ぬふりをしていた。復興予算から新聞やテレビへの広告費も出ていたので、彼らも流用の利益を享受していたのだ。だから大きな声では非難できなかったのだろう)
当時下野していた自民党は、政権与党だった民主党の責任だとして強く責め立てた。あたりまえだ。
ところが。
そもそも復興予算を他の用途に使えるようにしていたのは自民・公明のはたらきかけによるものだったのだ。
そして自分たちが政権を奪還すると、しれっとまた他の用途に流用する。とんでもない悪党だ。
民主党は無能だし自民公明は邪悪。予算の中身を見ずに法案を通した他の国会議員も怠惰。
関わった人間はみんなクズだが、この件でいちばんのクズは予算を他の用途に使えるような文言をねじこんだ官僚だ。
国会議員が無能だったからうまく利用されたのだろう。
胸糞悪くなる記述ばかり。
だが、ちょっとクールダウン。
こんなの、詐欺の中でも相当悪質なものだ。
「投資話を持ちかけて100万円をだましとる」と「孤児のための募金として集めた100万円をふところに入れる」だったら、ほとんどの人は後者のほうがより悪質だと感じるだろう。被害額は同じでも。
人の善意につけこんで金をだましとるなんてクズ中のクズのすることだ。
復興予算の流用はそれと同じだ。いや、税金という形で強制的にとっている分、より悪質かもしれない。
そんなクズ中のクズ行為が各省庁でまかりとおっていて、しかも誰も罪をつぐなっていない。罪を罪ともおもっていない。
復興予算が他の用途に使われていることが明らかになり、大きな問題になった。
(だがはじめはメディアも見て見ぬふりをしていた。復興予算から新聞やテレビへの広告費も出ていたので、彼らも流用の利益を享受していたのだ。だから大きな声では非難できなかったのだろう)
当時下野していた自民党は、政権与党だった民主党の責任だとして強く責め立てた。あたりまえだ。
ところが。
野党のときは民主党を攻撃する材料に使った自民党は、自分たちが政権をとった途端に復興予算を流用させた。
そもそも復興予算を他の用途に使えるようにしていたのは自民・公明のはたらきかけによるものだったのだ。
自分たちが「復興予算は他の用途にも使えるようにしろ!」と言っておきながら、他の用途に使われていることが明るみに出て世論の反発を招くと、世間と一緒になって政府・民主党を攻撃する。
そして自分たちが政権を奪還すると、しれっとまた他の用途に流用する。とんでもない悪党だ。
民主党は無能だし自民公明は邪悪。予算の中身を見ずに法案を通した他の国会議員も怠惰。
関わった人間はみんなクズだが、この件でいちばんのクズは予算を他の用途に使えるような文言をねじこんだ官僚だ。
国会議員が無能だったからうまく利用されたのだろう。
胸糞悪くなる記述ばかり。
だが、ちょっとクールダウン。
「復興予算を他の用途に使った政治家、官僚はクズだ」と高みから非難するのはかんたんだ。
けれど、自分が中央省庁にいて同じ立場にあったらどうしただろう。
「これができたら仕事がうまく進むのにな。でも予算がおりないんだよな」と常々おもっていることがある。
「復興予算ならほとんど審査なく予算がおりるよ」という話を耳にする。
さすがにそれはまずいんじゃないの、と一応はおもう。
「他の省庁でもみんなやってることだよ」と言われる。
「『クールジャパンによる日本ブランド復興経費』や『東京スカイツリー開業前プレイベント』や『途上国への援助』にも復興予算は使われたんだよ。あんたんところが申請しなかったらもっとどうでもいい事業に使われるだけだよ」と言われる。
それでも「いや、ダメなものはダメです! 人の道に外れてることですよ!」と上司に対して言えるだろうか。
……たぶん無理だ。
積極的に「申請しよう!」とまでは言わなくても、隣の人が申請しようとするのを止めることまではしない。
結局、ぼくも同類なのだ。
立場が同じなら同じようなクズ行為をはたらいた。
結局、これこそがこの問題の本質なのだ。
誰かひとり巨悪がいて「復興を口実に税金を好き勝手使ってやろうぜ!」と企んだわけではない。
「どうせ被災地にはすぐ渡らないんだし。だったらこっちの必要な事業で使おう」
「あっちの事業で使うんならこっちで使ったっていいよね」
「べつに私腹を肥やすために使うんじゃないんだし。国の事業なんだし。それで国が豊かになれば被災者にとっても利益になるし」
というちっちゃなズルの積み重ねで、何兆円もの税金が消えたのだ。
けれど、自分が中央省庁にいて同じ立場にあったらどうしただろう。
「これができたら仕事がうまく進むのにな。でも予算がおりないんだよな」と常々おもっていることがある。
「復興予算ならほとんど審査なく予算がおりるよ」という話を耳にする。
さすがにそれはまずいんじゃないの、と一応はおもう。
「他の省庁でもみんなやってることだよ」と言われる。
「『クールジャパンによる日本ブランド復興経費』や『東京スカイツリー開業前プレイベント』や『途上国への援助』にも復興予算は使われたんだよ。あんたんところが申請しなかったらもっとどうでもいい事業に使われるだけだよ」と言われる。
それでも「いや、ダメなものはダメです! 人の道に外れてることですよ!」と上司に対して言えるだろうか。
……たぶん無理だ。
積極的に「申請しよう!」とまでは言わなくても、隣の人が申請しようとするのを止めることまではしない。
結局、ぼくも同類なのだ。
立場が同じなら同じようなクズ行為をはたらいた。
結局、これこそがこの問題の本質なのだ。
誰かひとり巨悪がいて「復興を口実に税金を好き勝手使ってやろうぜ!」と企んだわけではない。
「どうせ被災地にはすぐ渡らないんだし。だったらこっちの必要な事業で使おう」
「あっちの事業で使うんならこっちで使ったっていいよね」
「べつに私腹を肥やすために使うんじゃないんだし。国の事業なんだし。それで国が豊かになれば被災者にとっても利益になるし」
というちっちゃなズルの積み重ねで、何兆円もの税金が消えたのだ。
なんとも日本的な悪事ではないだろうか。
官僚主導で罪の意識もないまま堂々と悪事をはたらき、ばれても誰も責任をとらない。方針を改めもしない。そのうちみんな忘れてしまう。
被災地は復興しないまま、復興予算だけがどんどん減っていく。
この件、今なお誰も責任をとっていない。
当時の与党だった民主党は下野したが、裏で糸を引いていた自民公明と官僚は今も国の中心でのさばっている。
官僚主導で罪の意識もないまま堂々と悪事をはたらき、ばれても誰も責任をとらない。方針を改めもしない。そのうちみんな忘れてしまう。
被災地は復興しないまま、復興予算だけがどんどん減っていく。
この件、今なお誰も責任をとっていない。
当時の与党だった民主党は下野したが、裏で糸を引いていた自民公明と官僚は今も国の中心でのさばっている。
さて今。
コロナウイルス騒動でたいへんな状況になっている。
金銭的な被害の大きさで言えば東日本大震災以上だろう。
もうちょっとしたら
「コロナで被害を受けた人たちを救うために財源が足りません!
増税してみんなで苦しみを分かちあいましょう! 反対するやつは被害を受けた人が苦しんでもいいっていうのか! 絆!」
なんてことを言いだすやつが出てくるんじゃないだろうか。
で、そのお金がクールジャパンやら戦闘機購入やら公務員宿舎やらに使われるんじゃないだろうか。
今度こそ、ちゃんと監視しておかないといけない。
コロナウイルス騒動でたいへんな状況になっている。
金銭的な被害の大きさで言えば東日本大震災以上だろう。
もうちょっとしたら
「コロナで被害を受けた人たちを救うために財源が足りません!
増税してみんなで苦しみを分かちあいましょう! 反対するやつは被害を受けた人が苦しんでもいいっていうのか! 絆!」
なんてことを言いだすやつが出てくるんじゃないだろうか。
で、そのお金がクールジャパンやら戦闘機購入やら公務員宿舎やらに使われるんじゃないだろうか。
今度こそ、ちゃんと監視しておかないといけない。
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