2015年9月27日日曜日

【エッセイ】嘘のマネジメントについて


 最近、自分のついた嘘が覚えられない。

 誕生日はいつですかとか、身長はいくつですかとか、好きなタレントはとか訊かれると、あたしは咄嗟に嘘をついてしまう。
「尊敬する人は女医の西川史子さんです」
なんてありえない答えを云ってしまう。

 なぜだかわからないけど、自分のパーソナルデータを正直に申告するのが気恥ずかしい。
 だから徳島県出身ですとか福祉系の大学に行ってましたとかのどうでもいい嘘をつく。
 あまりにどうでもいい嘘なので、ついたあたしですらすぐに忘れてしまう。
 それでも世の中には気持ち悪いほど記憶力のいい人がいて昔の細かい嘘を執念く覚えていたりするから困ってしまう。

 ついた嘘をきちんと覚えていればいいんだけど、物覚えが悪くなってきているので細かい嘘をいつまでも覚えていられない。
 これはよくない。
 こんなことを続けていれば、いつか嘘がばれてあたしの信用が失われちゃう。

 そこであたしは対策を講じた。
 いつ誰に対してどんな嘘をついたのかを手帳に記録するようにしたのだ。
「9/19 三浦さんに『バツイチ。原因は夫の浪費癖』と嘘」といった具合に。

 これでしばらくはうまく嘘を把握できていたのだが、嘘の量が増えてくるにつれ、手帳のメモだけではシステマティックに管理するのが難しくなってきた。

というわけで誰か、嘘を管理するアプリ知らない?

2015年9月26日土曜日

【エッセイ】盛っちゃえ睡眠薬


同僚のSさんが、睡眠薬を盛ったらしい。

すごい。
「睡眠薬を盛る」なんて、「魔法をかける」とか「夢をかなえる」と同じくらい現実味のない響きの言葉だと思っていた。
実際にやってしまうなんて。すごい。

「睡眠薬を盛ったことありますよ」とこともなげに語る同僚がなんだかまぶしく見える。現実という檻をひょいと飛び越えたみたいに、足どりも軽やかだ。夢をかなえた人ってこんな感じなんだろうか。

しかしSさんは理知的で落ちついている人だ。とても睡眠薬を盛ってしまうような人には思えない。

「誰に盛ったんですか!?」

 「息子です」

「ええっ! それはやはり親子間の骨肉の争いというか……」

 「はっはっ。そんなんじゃないですよ。だって息子はまだ九歳ですからね」

「いったいどういうことですか。九歳の息子さんに睡眠薬なんて……」

彼が語ってくれたのはこういう理由だった。
寝つきが悪くて仕事中に眠くなってしまうので病院に行くと睡眠薬を処方された。
睡眠薬を飲んだことがなかったので、これが睡眠薬かとしげしげと見ているうちに疑問がわいてきた。
飲んだ後にどんな様子になるのか。何分くらいで眠りに就くのか。服用後に眠くなったとしても、それは薬効ではなくひょっとしたら「睡眠薬を飲んだ」という思いこみのせいで眠くなるというプラシーボ効果もあるのではないか。
もともと理系の人なので、実験をしてみないとわからない、それも事情を知らない被験者を選ぶ必要がある、と思いたった。

「それで息子さんを選んだわけですか……」

 「そうです。しかし実験は失敗しました」

「なぜですか」

 「お茶に混ぜて飲ませたのですが、吐きだしてしまったのです。『パパ、このお茶 苦い!』と言って」

「鋭いですね。本能的に察したのでしょうかね」

 「いや、これはわたしも知らなかったことなのですが、製薬時にわざと苦い味をつけているようなのです。おそらく悪用されないためでしょうね。わたしのようにこっそり誰かに飲ませようとする人がいてはいけませんから」

「そうですか……」

 「まあそれがわかっただけでも発見です。求めていたデータはとれませんでしたが、実験をやった甲斐があったといえるでしょう」

「しかし怖いですね。子どもに睡眠薬を飲ませるなんて……」

 「あ、もちろん危険がないように与える量は減らしましたよ。体重から算出したので心配はないです」

「いや、わたしが怖いのはそういうことではなく、もっと道義的なことなんですけどね……」

2015年9月25日金曜日

【エッセイ】2歳児ジャパン

2歳の娘が、サッカー日本代表の本田圭佑がリフティングをするOLYMPUSのCMを観て
「じょうずー!」と手を叩いていた。

本田くん、君、上手なんだってよ!

2015年9月24日木曜日

【コント】世界の半分を君に

「はっはっは。よくぞここまでたどりついたな勇者よ。おまえの力はなかなかのものだ。殺すには惜しい。どうだ、わたしの手下にならぬか? 世界の四分の一をおまえにやろうじゃないか」

 「四分の一だと? ふざけるな魔王! ぼくらがこれまでどれだけの犠牲を払ってここまでたどりついたと思っているのだ!」

「というと……?」

 「四分の一では割に合わないと言っているのだ!」

「なるほど正直なやつだ。では三分の一でどうだ?」

 「こちらとしてはそれは呑めない条件だ。これまでのコストを考えると、70パーセントはもらわないと利益が出ない」

「70パーだと! そんな法外な」

 「こちらとしてはおまえを倒してすべてをもらってもいいのだぞ」

「そこまで言うのならこちらとしても考えがある。じつは、べつの勇者グループにも見積もりをとったのだが、そこは55パーセントでやるといっている。そちらにお願いして、共同事業でおまえらを倒すとしよう」

 「なにっ。待て待て待て。ほかにも勇者がいるなんて聞いてないぞ」

「相見積もりをとるのはビジネスの基本だ」

 「……わかった。しかたがない。50パーセントずつ折半しようじゃないか」

「たしかにそのへんが妥当だろうな。今後の付き合いもあるから、ここで無理にごねて遺恨を残したくはない。よし、50パーセントで手を打とう」

 「だが問題はどう世界を半分に分けるかだ」

「それはもちろん、この魔王の城がある北半球をわたしがもらい、おまえたち勇者グループは南半球を統治するのだ」

 「ふざけるな! こちらのほうが圧倒的に不利じゃないか! 世界の主要な都市のほとんどは北半球にあるのだぞ」

「しかし南半球にもエアーズロックとかマチュピチュとか、けっこう有名な観光スポットがあるが……」

 「ぼくらは観光のためにここまで戦ってきたんじゃないぞ! ビジネスのためだ!」

「しかしわたしはこの城を離れたくないし……」

 「じゃあこうしよう。この城のあるユーラシア大陸はおまえが統治するがいい。ぼくらは南北アメリカ大陸とアフリカ大陸をもらう」

「それだと逆に当方が不利じゃないか?」

 「ではオーストラリア、南極大陸と他の島々をおまえにやろう」

「……まあそれなら良いか。中国、ロシア、インドなどの今後の経済成長が見込める国々も手に入るしな」

 「あとは細かい話になって恐縮なのだけど、契約書を作るにあたって収入印紙はどちらが負担するのかとか、形としては贈与にあたるので贈与税をどうするのかとか、そのあたりも決めないといけないな」

「それならわたしどものほうにいい司法書士や税理士の先生がいらっしゃるので、相談してみよう。どうすればいちばん税金を抑えられるか聞いてみよう」

 「そうしていただけると助かるぞ魔王!」

2015年9月23日水曜日

【エッセイ】ハートフルエッセイ ~子どもの手なずけかた~

 数少ないぼくの特技のひとつに “子どもを手なずけるのがうまい” というのがある。
「子どもと遊ぶのがうまいね」とよく云われる。
 そんなぼくが数多くの子どもと遊んできた経験から導きだしたテクニックのひとつが、
「おしりをさわらせたらもうこっちのもの」
というものだ。
 これは金言として居酒屋のトイレに貼っといてもいい。

 子どもがぼくのおしりをさわったら、おおげさに嫌がる。「きゃっ、やめてやめて!」と叫ぶ。
 これで子どもはイチコロだ。
 けたけたけたと笑い、もっと困らせようとぼくのおしりをさわろうとしてくる。
 あとは両手でおしりを押さえながら「やめてやめて!」と逃げればいい。猫じゃらしを振られたネコのように、子どもは逃げまどうおしりを追いかけずにはいられない。
 その後は走って逃げたり、ときどきわざと捕まったり、逆襲して子どものおしりを軽くたたいたりすればいい。
 あっというまに子どものテンションはマックスまで上がる。子どもの数が多ければ多いほど興奮の度合いは高まる。


 さて、誰しも気になる問題は “それはわかったけど、じゃあまずどうやって子どもにおしりをさわらせるの?” だろう。
 これはなかなかむずかしい。
 ぼくほどの達人になると、相手の年齢、性別、性格、ごきげんその他あらゆる状況を解析して、四十八ある技のいずれかを瞬時にくりだして、おしりをさわらせる。

 四十八の技をここで紹介してもよいのだが、それでは諸君のためにならない。
 他人から教わったおしりさわられ術で子どもを手なずけようなど、虫がよすぎる。ぜひ各人、日々鍛練して、己のおしりさわられ道を究めていただきたい。
 さすれば君たちのおしりは自然と魅力を増し、子どもばかりか大人ですらふれられずにはいられないほどのフェロモンを漂わせはじめることであろう。
 ぼくほどの達人になるとそういったおしりがすぐわかる。フェロモンを出しているおしりが光輝いて見え、「さわってよ」というおしりの声が聞こえてくる……。

 と、ここまで書いたところで読みかえしてみたのだが、子どもとのふれあいについて説明するハートフルエッセイだったはずなのに、いつのまにかベテラン痴漢の独白みたいになってきたので、このへんで筆を置く。