2026年8月24日月曜日

【読書感想文】ジリアン・テット『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』 / 短期的な効率化が大失敗を生む

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サイロ・エフェクト

高度専門化社会の罠

ジリアン・テット(著)  土方 奈美(訳)

内容(e-honより)
専門的な技術を扱う部署が、周囲に壁を作り「サイロ」と化す。企業全体の衰退を招く危険な罠、それは、社会が高度になるほど、深く大きくなる。先端企業ソニー、大都市ニューヨーク―人の作るあらゆる組織に付き物の罠からの脱出法はあるのか?文化人類学者の顔を持つジャーナリストが解決法を探る!


「サイロ」とは、元々は誘導ミサイルの地下保管庫のこと。そこから「他から隔絶して活動する部門」を指す言葉となったらしい。

 人が集団を作ると、どうしてもサイロは生まれる。気の合う合わないはあるし、属性が近い人の方が話しててストレスが少ない。

 サイロ自体が必ずしも悪いわけではないが、大きな失敗や事故の原因になることもある。様々な事例をもとに、サイロが生んだ失敗の例を分析し、サイロを壊すための成功例について紹介する本。


 紹介されている事例はおもしろく(ただしぼくは金融の話にはついていけなかったので証券会社の話は読み飛ばした)、なるほどと膝を打つ箇所も多かった。

 ただ、ちょっと話がうますぎるというか、「サイロは良くない」という結論が先にあって、そこに持っていくためにちょうどいい事例を集めてきただけって感じもする。

 たとえば失敗例としてソニーの例を挙げて、成功例としてアップル社やフェイスブック社(現Meta社)の事例を紹介しているけど、今はアップルやMetaが調子良くてソニーがかつての栄光を失ったから説得力があるんじゃないの、という気もする。

 どんな企業にも孤立主義的な面と風通しの良い面とがあるから、「うまくいっていない会社のサイロ」と「うまくいっている会社のサイロがなさそうな所」はいくらでも見つけられるのでは。

 考え方はおもしろいけど、ちょっと議論が単純すぎるかもね。



 特におもしろかったのは、ソニーが「ウォークマンの後継機」で失敗した事例。

 1999年にソニーは、2つのまったく異なるウォークマンの後継機を発表した。家庭用電気機器部門とコンピュータ部門がそれぞれ別々に後継機を開発していたのだ。

 どう考えたって1つにしたほうがいい。社内の知識や経験や労働力を結集して開発したほうがいいし、仮に「2つの分野に同じものを開発させて競争させる」という方針だったとしても、どこかの段階で良し悪しを判断して一方に注力するべきだろう。


 なぜソニーともあろう会社がそんなわけのわからないことをしたのか。

 ソニーは1994年に事業再編をおこない、いくつもの事業部に独立採算をとらせ、ゲーム、音楽、映画、保険などの事業は子会社化した。

 この改革は当初はうまくいき、それぞれの部門は利益率は高まった。大きな会社全体の利益を見るよりも、部門別の利益を見るほうがずっとわかりやすい。コスト意識は高まり、無駄なコストは削減される。

 だが各部門が独立することで「サイロ化」が起きた。

 ただ専門性の高いサイロをつくることで少なくとも短期的に会社の効率化は進んだように思われたものの、デメリットもあった。新たなサイロの経営陣は、カンパニーの財務に責任を負っていることを自覚すると、ライバル企業だけでなく社内の他の部門からも「身を守ろうと」した。他の部門と斬新なアイデアを共有しなくなり、優秀な社員の他部門への異動も避けるようになった。部門同士が協力しなくなり、実験的なブレーンストーミングや、すぐに利益を生まない長期投資も手控えるようになった。誰もがリスクを取ることに後ろ向きになった。

 社内は完全に分裂し、異なる部門と協力するどころか、別部門がやっていることもわからなくなった。

 たとえばソニーにはソニー・ミュージックエンタテインメントという音楽会社がある。多くの人気アーティストが所属し、強いブランド力を持っている。

 ふつうに考えれば、ウォークマンの後継機を宣伝するのであれば、ソニー・ミュージックエンタテインメントの力を借りたほうがいい。新しい配信サービスで人気ミュージシャンの曲を配信すれば、それを目的に配信サービスに加入する人は増えるだろう。

 だが開発部門は音楽部門とも協力しなかった。音楽部門は、CDの売上が落ちるのを恐れて他の事業部門と協力することを拒んでいたから。


 部門ごとに採算をとるようにすると「うちの部門は儲からないけど隣の部門は儲かること」に力を入れなくなる。

 仮にCDの販売による利益が100億円減っても、新しい音楽プレイヤーや配信サービスで200億円の利益が出るのであれば会社としてはプラスだ。だが独立採算、別会社だとそういう大局的な判断はできなくなる。

 こうしてソニーは音楽のネット配信事業において遅れをとり、アップル社が社内の知識と技術を結集して作りあげたiPodの独走を許した。


 ……ま、ちょっと単純化しすぎた話ではあるが、一抹の真実も含まれているのだろう。



 サイロが失敗や企業の停滞を招くことがわかり、特に成長中の企業では「サイロを生みださないこと」に力を入れるようになる。


 フェイスブック社(現・Meta社)では、新たに入った社員たちに部門に関係なく同じ研修を受けさせるという。チームプレイの重要性を学び、他の部門のメンバーとのコミュニケーションを促進させるためだという。

 別部署であっても「共に研修を受けた同期」がいれば話をしやすいだろう。


 またフェイスブック社では、何ヶ月か他の事業部に異動させてそれまでとはまったく別の仕事をさせる制度もあるという。

 この仕組みを使って、ゴールドファインはニュースフィード・プロジェクトの指揮官となった数カ月後、優秀な技術者の一人を別のグループに異動させた。異動先は「タイムライン」機能に関する別のプロジェクトに取り組んでいたチームだ。岩プロトタイプの開発が難しい時期に差し掛かっていたこともあり、当初はニュースフィード・チームにとって大きな痛手のように思われた。ただゴールドファインは異動によってメリットが生じていることにも気づいた。ニュースフィードとタイムラインのチームの間でアイデアが交換されるようになったのだ。
「タイムラインのコードの相当部分はニュースフィードに依存していたので、ニュースフィードのメンバーが異動することによって連携が深まるのを期待していた」とゴールドファインは語る。
「結果的に異動はとても有益だった。みんな忙しいので、日頃から他のチームが何をしているか理解するのは難しい。あらゆる手段を駆使してコミュニティの全体像を把握し、情報を交換するのはとても重要なの」


 読んでいておもったんだけど、これらの仕組みってわりと日本の会社が昭和の時代から(もしかしたらもっと前から?)やっていたことだよね。

 新人一斉研修と定期的な人事異動。

 昨今ではどっちかというとデメリットの方が多く語られがちだが、あれはあれで「部署間の相談をしやすくなる」「ある部門で得られた知見を他の部門に活かせる」という数字に表れにくいメリットがあるんだろうな。

「フェイスブック社ではこんな斬新なやりかたをとっている!」と紹介されているのが日本の古い企業のやりかたってのがおもしろい。



 サイロを壊すために旧来の診療科の壁をぶっこわした病院の例も紹介されている。

コスグローブはクリーブランド・クリニックを医者の専門分野に応じた部門に分けるのをやめ、患者の病気を中心とした組織にしようとしていた。それは「疾患」(癌など)や「体組織」(脳など)ごとに異なる専門分野を集めた組織をつくり、外科医や内科医などさまざまな専門医が患者の治療に協力する仕組みを意味する。
「私がクリーブランド・クリニックに入った頃は、心臓外科医は廊下の端、心臓内科医は逆の端という配置になっていて、待合室以外では顔を合わせることもなかった。(同じ外科医である)直腸や他の臓器の外科医とは何の共通点もない一方、心臓内科医は医学界では別分野でも同じ心臓を扱う者として共通点がたくさんあったのだが」とコスグローブは嘆く。

 これはおもしろい。たしかに心臓外科と心臓内科ってふつうはぜんぜん別の部門で、病棟の中でも(たぶん)遠く離れた場所にあるけど、言われてみればそれって病院側の都合だよな。患者からしたら心臓外科と心臓内科はすぐ近くにあってほしい。

 健康診断で心臓の数値が悪くて病院に行ったとき「心臓内科ですか、心臓外科ですか」って聞かれたって困ってしまう。「いやこっちはそんなの知らんがな。とにかく心臓を診てもらって内科治療か外科治療かはそっちで決めてよ」とおもう。

 病院側からしたって、心臓外科と心臓内科が近くにあったほうが診療科の垣根を越えて治療にあたりやすそうだ。

 

 ぜんぜん別の話になるけど、本屋の文庫売場とかコミック売場って「出版社別に分かれてて、その後作者名順(あるいはタイトル順)」になっていることが多い。

 あれって完全に書店側の都合なんだよね。客からしたら「今日は講談社の本を買おう」と探すことなんてなくて、作者名かタイトルで探すんだから。

 そうおもってぼくが書店で働いていたとき、それまで出版社別だった棚を作者名順に並び替えた。ちゃんと売上は上がった。



 はじめにも書いたように、ちょっと議論が単純すぎて鵜吞みにはできないところもあるけど、組織の在り方を考える上ではすごくおもしろい本だった。


 組織を細分化してメンバーの専門性を高めれば(短期的には)効率的になるけど、無駄とおもわれたことが長期的には利益を生んだりもするんだよね。まあほんとに無駄なことも多々あるのでむずかしいんだけど……。


 今ぼくが働いている会社は社員数が増えている。今は従業員数100人ぐらいで、オフィスも広くなって、そろそろ「あの人何の仕事をやってるかよくわかんない」って状況になりつつある。「A事業部が困ってること、B事業部でやってるやり方を使えばすぐ解決するのに」ってことも発生している。

 事業部をまたいで仕事をしている人が何人かいるから断絶はそう深くならないけど、どうしてもその人たちの負担は重くなるし、知識が属人化してしまうのはいいことではない。

 サイロが生まれないようにするにはどうしたらいいんだろうね。この本にはヒントは書かれているけど正解は書いてないから、それぞれの組織で考えるしかないんだろうな。考えるきっかけをくれるという点では非常に有用な本。


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